アフリカ政策をめぐって日中関係に微妙な変化が起きている。高速鉄道や原発など海外プロジェクトで激しい争奪戦を展開してきた日中両国だが、ここにきて対アフリカ投資案件で協力の兆しが出始め、中国系メディアも日本に“ラブコール”を送っている。米中対立の長期化に日中関係改善 —— 。
日米中三角関係で起きている潮流変化がその背景にはある。
貧困国への債務免除と対米批判
米中の深刻な貿易摩擦がパワーシフトの様相を呈し、日中関係にも影響を及ぼしている。
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中国は9月3、4の両日、北京で「中国アフリカ協力フォーラム」首脳会合を開催、53加盟国のうち30カ国首脳が集まった。今回のテーマは、習近平国家主席の外交スローガン「運命共同体」と「一帯一路」。基調演説で習氏は、今後3年間で150億ドルの無償援助・優遇借款を含む計600億ドル(約6兆6600億円)の拠出を表明した。
巨額の拠出額は、3年前の前回ヨハネスブルグ会議と同額だが、習氏は今回次の2点を強調した。
第一は、貧困国を対象に2018年末に返済期限を迎える債務の一部免除を表明。中国の融資が途上国を「借金漬け」にし「土地や資源を収奪している」などの批判を呼んだことへの「回答」である。第二は対米批判。習氏は「開放型世界経済と多角的貿易体制を守り、保護主義、一国主義に反対する」と、名指しは控えながらトランプ政権を批判した。
中国外交にとって最重要課題は、依然として対米関係の安定にある。しかし、貿易戦争が「米中パワーシフト」(大国間の重心移動)の様相を強め、朝鮮・台湾問題を取引カードにするトランプ政権との改善は当面望めない。一方、「一帯一路」は社会主義強国実現のための戦略スキーム。多くの周辺国、途上国を味方にするには、中国への不信感をなんとしても拭わねばならない。習氏自身も8月、「一帯一路」を「政治、軍事同盟でもなければ『中国クラブ』でもない」と述べ、負のイメージ打ち消しに躍起だった。
日中の思惑一致で「一帯一路」に協力
習政権は、周辺・途上国外交を活発化させている。悪化していた北朝鮮との関係を改善し、朝鮮半島問題への全面的関与を強化する。国交正常化以来最悪状態にあった対日関係でも、李克強首相が5月に訪日し、改善を軌道に乗せた。
一方、途上国外交は、今回の「中国アフリカ協力フォーラム」をはじめ、7月の新興5カ国(BRICS)首脳会議、さらに11月には太平洋島嶼国との経済発展協力フォーラムをパプアニューギニアで開き、途上国との連携強化を進めようとしている。
一方の安倍政権は日中関係改善の「切り札」として、「一帯一路」への条件付き支持を打ち出した。5月の日中首脳会談では、「一帯一路」協力について協議する「官民合同委員会」発足で合意。周辺外交を重視している中国にとって、日本の路線転換は「渡りに船」だった。
外務省幹部によると、安倍首相の10月末の訪中の地ならしの意味も込め、第一回官民合同委員会は9月25日に開かれる。関係改善の流れを加速し、2019年の習近平氏初来日につなげたい日本側。米中貿易戦争の激化を受け、日本との経済協力を誇示したい中国の思惑が一致した。
日中協力すれば「ウィン・ウィン」
積極的にアフリカ外交・投資を展開してきた習近平政権。
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その「官民合同委員会」では、日中企業が参入できる第三国のインフラ整備案件として、タイの鉄道計画や西アフリカの開発計画が取り上げられる。日本側も2019年8月末、第7回「アフリカ開発会議」(TICAD)を横浜で開く。アフリカ支援では、インフラ整備プロジェクトで「一帯一路」と重なる部分が多い。関係改善が進む中で、「両国とも潰し合いの悪性競争は避けたい」(外務省高官)というのが本音だ。
「速さと安さ」「艱難辛苦に耐える」のが身上の中国、「きめ細やかさとアフターサービス」で優れる日本。華字ネット・ニュース「多維新聞」は9月1日、両国がアフリカ市場でインフラ建設に協力すれば「ウィン・ウイン」になるという特集記事を掲載した。アフリカ支援・開発で、日中協力に向けた中国側のラブコールでもあろう。
両国の対アフリカ関与は、日本主導のTICADが1993年にスタート、2000年に始まる「中国・アフリカ協力フォーラム」に先行した。だが、今や貿易額、投資とも中国の先行を許している。2016年の対アフリカ輸出のシェアは中国が16.2%と、日本の2.2%を引き離した(「通商白書」)。投資残高も中国が2016年に330億ドルと、日本(100億ドル)の3倍超に上る。
米中対立で板挟みも
中間選挙を前にトランプ大統領は、日本車への巨額の関税導入などに狙いを定めていると言われる。
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最後は安倍外交。トランプ政権は11月6日の中間選挙を前に、対中高関税に続く次のターゲットとして、日本車への巨額な関税導入や二国間貿易交渉に狙いを定める。6月の日米首脳会談で、トランプ氏が安倍氏に「真珠湾を忘れないぞ」と恫喝した話がワシントンポストで報じられた。日本政府は直ちに否定したが、トランプ氏は利用できるものは、敵であろうとなんでも利用する。同盟関係を傷つけるのもいとわない。
日米中の三角形で、「米中対立」と「日中改善」という潮流変化が起きている。安倍「外交戦略」の最大の問題は、その核心的理念にある「日米同盟基軸」と「対中包囲」にある。この2点が外交の選択肢を狭め、自ら「出口」を塞いでいるのだ。米中対立が長引けば、「板挟み」状態に置かれるだろう。
安倍首相は9月20日の自民党総裁選で三選を果たした後、25日前後にトランプとの首脳会談に臨み、10月末には習近平との会談が控える。ワシントンポスト報道は、「今ほど日米の絆が強い時はない」(安倍首相)とする説明と、内実のギャップを表面化させた。その意味で安倍氏へのブローは小さくない。「(トランプ氏と)100%見解と共にする」というこれまでのアピールは色あせてしまった。
「中国との関係改善こそ日本がとりうる唯一の選択肢です。アジアインフラ投資銀行(AIIB)に日本は参加すべきだし、軍事力を強化して対抗していくことは賢明な策とは言えません」(「朝日新聞」8月22日付朝刊)
こう話すのは、中国の「国家資本主義」や「強権体制」に批判的な米国際政治学者イアン・ブレマーである。
「外交の安倍」はいよいよ正念場を迎えている。
岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。