最新機種「iPhone Xs」などを発表するアップルのマーケティング担当上級副社長、フィル・シラー氏。
REUTERS/Stephen Lam
ネットフリックスとの業務提携、「共創」をテーマにしたIoT/5G時代の開発拠点「KDDI DIGITAL GATE」の設立など、2018年4月の髙橋誠社長の就任前後から、パートナー企業との新たな取り組みを相次いで打ち出してきたKDDIが、その動きを加速する。
アップルが新発表したのは「iPhone Xs」「iPhone Xs Max」「iPhone XR」の3機種。これに合わせ、KDDIはiPhoneの利用料金が月額最大1020円割引となる「iPhoneギガトクキャンペーン」を開始する。新製品発表会が行われたカリフォルニア州クパチーノにて、Business Insider Japanの取材にKDDI関係者が明かした。
ネットフリックスとセットで「月額3980円〜」も
新型iPhone発表当日、カリフォルニア州クパチーノにあるアップルのビジターセンターの様子。
撮影:川村力
新型iPhone(2017年11月発売のiPhone Xも対象)の新規契約または機種変更の際に、通話課金の大容量プラン「auフラットプラン20/30」「auフラットプラン25 Netflixパック」を選んだ人が対象となる。
2018年5月29日、KDDIは映像配信大手のネットフリックスと業務提携を発表した。
撮影:小林優多郎
両プランには、契約翌月から1年間有効の「スマホ応援割」(月額1000円割引)も追加で適用されることになり、インターネット回線がセットの「auスマートバリュー」(永年月額1000円割引)と組み合わせることで、フラットプラン20は月額3480円から、Netflixパックは3980円から、それぞれ利用できるようになる。
なお、Netflixパックについては、使用開始当初は視聴時間が長くなりがちなことに配慮し、契約翌月のみデータ容量を5GB増やすキャンペーンも行う。ギガトクキャンペーンも含め、受付期間は2018年11月30日まで。
髙橋社長は新料金について、「2017年7月に業界に先駆けて、端末補助なしの回線分離プランであるauピタット/フラットプランを導入したことで通信料金は下がった。好評のおかげで両プランの契約数は間もなく1000万件を超える。今回、iPhoneとの組み合わせで、一人ひとりの好みに応じてよりリーズナブルに、過不足なくデータ容量を活かせる選択肢を加えることで、新料金プランを選ぶユーザーはさらに広がる可能性がある」と語った。
iPhone Xsシリーズで「VTuberは絶対来る」と髙橋社長
2018年9月11日(現地時間)、アップルの新製品発表会「Apple Special Event」に際して、取材に応じたKDDIの髙橋誠社長。
撮影・川村力
今回のiPhone Xsシリーズ発表に際して、KDDIが最も注目しているのは、iPhone Xから搭載された顔のトラッキングができる3Dセンシングカメラ「TrueDepthカメラ」だ。これが、昨今の「VTuber」ムーブメントを一気に加速すると同社は見ている。
VTuberとは:主にYouTube上で動画を配信するキャラクターのこと。3DCGなどのアバターを使うことからバーチャルYouTuberと呼ばれる。
髙橋社長は次のように指摘する。
「付き合いの深いスタートアップの関係者たちと話していると、『次は絶対、VTuberが来る』と言う。これまで強い関心を寄せていたとは言えない私でも、最近流行しているTikTok(ティックトック)やVTuberたちの動画にはなぜか引き込まれてしまう。足元を見ると、当社の社員でさえどのくらい興味を持っているのか覚束ない現状だが、いずれ決定的なコンテンツになるだろう」
「高齢化社会のソリューションとしても可能性がある。定年退職者たちは(体力は衰えたとしても)バーチャル世界で別のプロファイル、アイデンティティーを持つ現役のVTuberとして、リアル社会で蓄積してきたナレッジ(知見)を活用して稼ぐことができる。eSportsにも同様のことが言えるだろう。高齢者だけでなく、物理的なハンディキャップを負う人たちの可能性も広がるのではないか」
バーチャル空間のイベントプラットフォームに出資
「KDDI Open Innovation Fund 3号」は、2018年4月に発足した同社の投資プログラム。5G時代を見据えた事業に投資を行う。運用総額は2038年3月までの10年間で約200億円を予定している。
撮影:小林優多郎
こうした視点からKDDIは、バーチャル空間で数百〜数千名が同時に参加できるイベントプラットフォーム「cluster」(運営はクラスター社)に出資する。同社はこれまでにエイベックス、DeNAなどから累計2.6億円を調達。これに加えて、KDDIも有望なベンチャー企業への出資を目的とした「KDDI Open Innovation Fund 3号」を通じて資金を提供する。クラスター社の公表済みの累計調達金額は、KDDIからの出資も含めて全体で6.5億円になると見られる。
「そう遠くない将来に、新サービスの発表会をバーチャルプラットフォーム上で行う可能性もあると考えている」(髙橋社長)との見立てもあり、ネットフリックスやビデオパスなどの動画コンテンツも含め、KDDIが掲げる「ワクワク体験」の提案は、パートナー企業との共創によりさらに勢いを増しそうだ。
紛失盗難時に「当日」交換品が届く4年サポートも
アップルが提供するサポートサービス「AppleCare」。4年間の製品補償サービスを提供するのは、日本ではKDDIのみ。
出典:Appleウェブサイトより編集部キャプチャ
なお、KDDIはギガトクキャンペーンの開始と同時に、iPhoneの故障紛失サポートも拡充する。
従来はアップルの公式アフターサービスによる2年間の保証期間が終了した後、KDDIが継続して2年間同等のサービスを提供していたが、今回公式サービスが4年間に延長された。この製品補償はKDDIのみのサービス。サポートの月額料金は、機体がiPhone Xの場合で1190円。最新機種については現時点では未定。
また、紛失あるいは盗難時に電話1本で最短翌日に交換品が届く補償サービスは、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県に限り、11時までに電話することで当日届くよう拡充された。他の地域については翌日着荷となる。
修理交換費用については、従来通り、ディスプレー破損時の修理は3400円、その他の修理や紛失盗難時には1万1800円をユーザーが負担する必要がある。ただし、今回拡充された「故障紛失サポート with AppleCare Services」に加入し、なおかつ「auスマートパスプレミアム」の会員である場合、KDDIが費用を全額補てんするため、実質的な負担はゼロになる。
なお、故障紛失サポートに加入していない場合でも、auスマパス・スマパスプレミアムの会員は最大1万円の修理補填を受けられる。
新型iPhone発表に関わる一連の新展開と足並みを揃えるように、東京の山手線や大阪環状線などトラフィックの高い主要路線周辺で通信の高速化も進む。最大440Mbpsの通信については人口カバー率が95%以上に達し、ほぼ日本全国でサービスやコンテンツを利用できる環境が整ったことも、KDDIにとっては追い風になるだろう。
(文・川村力、取材協力・KDDI)