「データをもとにしたマイクロ融資が日本の地方とアフリカを変える」マネフォ神田氏と日本植物燃料・合田氏が語る

銀行の苦境が、さまざまな形で報じられている。とくに深刻なのが、人口減少が進む地域の地方銀行だ。一方で、この数年、お金に関わるイノベーションが次々に現れている。

お金や金融のあり方が大きく変わりつつある今、FinTechができることは何だろうか。

仮想通貨関連の事業に取り組むマネーフォワードフィナンシャル社長の神田潤一氏(47)と、アフリカのモザンビークで植物燃料の生産を通じて、農民の生計向上を目指す日本植物燃料社長の合田真氏(43)が語り合った。

法定通貨が抱えている課題を解決する

マネーフォワード 日本植物燃料

マネーフォワードフィナンシャル社長の神田潤一氏(右)と、日本植物燃料社長の合田真氏。

撮影:今村拓馬

Business Insider Japan(以下、BI):力を入れて取り組んでいる事業・活動について聞かせてください。

神田潤一氏(以下、神田):仮想通貨とブロックチェーンで、新しい金融サービスを提供する事業会社の代表をしています。まずは仮想通貨の交換業者として、金融庁への申請の準備とシステム開発を進めています。

交換所をつくって、仮想通貨を売買をしてもらって収益をあげて終わりではなく、法定通貨とは違う仮想通貨のよさを活かす、あるいは法定通貨が抱えている課題を、仮想通貨やブロックチェーンという新しい技術で解決する。交換所を開設したら、決済や送金、ブロックチェーンを使ったサービスなどを提供していこうと準備しています。

合田真氏(以下、合田):いま描かれている、交換所の先のサービスというのは。

神田:仮想通貨は、国境を超え、時間や場所を選ばずに価値を送ることができる。法定通貨ではないので、国やイデオロギーが含まれない通貨という概念も提示できます。

法定通貨に対して価値が変動するのも、面白い性質だと思っています。こうした性質を活かしたサービスをつくっていけば、決済の手数料を下げていける。グローバルな決済の手段として、地域の事業者が海外と取引をする時に、米ドルや中国元で受け取っても困るけれど、仮想通貨だったら受け取れる。仮想通貨なら使う場所がある。グローバルなビジネスの基盤になっていくと思います。

まずは交換所をつくり、グローバルな決済手段を提供し、個人が海外に行く時、あるいは海外から日本に来る時に価値を運ぶ手段として、仮想通貨の強みが出せるのではないでしょうか。

マネーフォワード

2018年5月に設立されたマネーフォワードフィナンシャルのサービス説明サイト。

出典:Money Forward Financial

合田:マネーフォワードとして仮想通貨を発行する可能性は。

神田:マネーフォワードが独自の通貨を発行する必然性は、そんなに高くないかなと思います。一般の人たちが使える比較的安定した通貨があれば、それを交換所を通じて提供していくことで、まずはサービスをつくっていけるかなと思っています。

いまの仮想通貨が機能的に物足りないとか、技術的に課題があるということであれば、新しい通貨を発行するのも選択肢かもしれません。価格が変動するため使い勝手がよくないということであれば、価格が変動しない仮想通貨という形で、価値を提供するということもありえます。まずは、今ある仮想通貨でどこまでサービスがつくれるかがチャレンジです。

マネーフォワードは個人向けの家計簿・資産管理アプリだけでなく、中小企業にもクラウド会計などのサービスを提供しています。中小企業が、決済や送金に仮想通貨を使う方向性もあると思っています。

アフリカの農村向けにネット上のマーケットプレイスを

BI:合田さんが最近、力を入れている活動は。

合田:2012年ごろから、モザンビーク北部のカーボデルガド州での活動に力を入れてきましたが、2017年10月ごろからテロが頻発しています。村の子どもたち10人がさらわれ、首を切られる事件も起きました。ほぼ毎日、どこかの村で誰かが殺され、村に火をつけられています。少しでも、地域が豊かになるようにと思って活動をしてきましたが、貧しく満足に食べられないと、テロ集団に誘われて入ってしまう若者がどうしても出てきます。

この6年間やってきたことは、まだまだ不十分です。テロに敗北したなあと思っています。あらためて活動を再構築をしないといけません。

先日、これまでの活動を通じて考えてきたことをまとめた『20億人の未来銀行 ニッポンの起業家、電気のないアフリカの村で「電子マネー経済圏」を作る』 を出版しました。

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日本植物燃料が活動しているモザンビーク北部の農地の風景。

提供:日本植物燃料

BI:貧困の削減を目指す活動としてはどんなことをやってきたのですか?

合田:直接関わっている村やそれに近い形で関わってきた村で、農民から買い取った農作物をキオスクで買ってもらい、僕らは農民たちのお金の流れを把握しています。村のキオスクや農業資材店160店ほどにタブレットとPOS(Point-Of-Sales、販売時点情報管理)も入れました。

さらにマーケットという買い手と農民をダイレクトにつなげられるように、マーケットプレイスの設立を進めています。日本で言う農協に近い存在です。ただ、ネットに場所はつくりましたが、参加者を増やすのが難しい。

最初の買い手として、WFP(World Food Programme、国連世界食糧計画)が年間20億円ほど地域の農作物を買い取り、学校給食の材料にします。このパイロットモデルから、モザンビーク全体に広げようと取り組んでいます。

データあればアフリカの農民も融資の対象に

モザンビーク

日本植物燃料のモザンビークでの活動の様子。

提供:日本植物燃料

BI:モザンビークで合田さんたちの活動はどこまで広がる可能性があるんでしょうか?

合田:情報があってはじめて、融資もできるようになります。現地のマイクロファイナンス機関や農業向けの金融機関にはそういったデータがなく、農民に融資ができません。

実は、資金はある。一般的に、先進国の援助機関や国際機関は、途上国の農業分野にどんどん融資をすべきだと考えているので、モザンビークの市中銀行には農業向けのファンドが積み上がっています。

でも、このファンドはほとんど動きません。1%、2%でも貸すことができればいいんですが。動かすためには、農民がどんな生活をし、何を生産し、どこに売っているかが分からないと、貸す借りるという関係にならない。まずは、データをちゃんと集められる形を構築しないといけません。

データ化を進めるということは、3000円を使える人が3万人いて、「肥料を買いたい」と意向を持っていることを、定量的に言えるようになることです。定量化できれば、肥料の販売店に、この村にも支店を出してくれと交渉をするなど、具体的な話ができます。

今まで肥料を使ったことのない人たち約2万5000人に、FAO(Food and Agriculture Organization、国連食糧農業機関)から補助金を出してもらい、肥料を買ってもらいました。3〜4年はやっているので、肥料によってどのくらい収量や収入が伸びたかというデータはある。

でも、補助金はずっとは続きません。今年も作付けをしたいけれど、種や苗、肥料を買うお金がない。でも、過去のデータはある。そのデータがあれば、貸し手と融資について話ができるようになる。きちんとデータを集め、バリューチェーンのどこに問題があるかが分かる仕組みを構築する取り組みをWFPと僕らで進めています。

データを基に中小企業に柔軟な融資を

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マネーフォワードグループで、仮想通貨ビジネスの立ち上げを進める神田潤一氏。

撮影:今村拓馬

神田:情報をもとに貸し出しをする仕組みづくりを、マネーフォワードの中でも始めています。クラウド会計では会計のデータや、口座の残高がデータとして分かりますから、そのデータをもとに、これまで銀行が貸せなかった人たちにも融資ができるのではないかという取り組みです。

銀行はコストをかけて取引先をモニタリングします。大企業や中堅企業であれば、コストに見合った収益が取れる。でも、中小企業向けの融資は規模が小さく、モニタリングのコストに見合う収益が取れないので、なかなか融資に踏み切れない。

中小企業のバランスシートは変動が激しく、大企業のようにきちんと情報が揃っていないこともあります。バランスシートとPL(損益計算書)を使う、銀行の伝統的な信用判定をするための情報が足りないんですね。

でも、毎月きちんと事業を回して収益を出している中小企業はたくさんあります。こうした中小企業が事業を拡大しようという時、これまでなら個人で借り入れをしていました。でも、お金の動きをきちんと見て、それに見合った利率で融資ができるようになれば、地方の中小企業も、もっと活力が出てくる。

クラウド会計サービスから得られるデータや、銀行口座の入出金のデータを使えば、もっと貸出先は広がるはずだと考えています。

今後はもう一歩進んで、会計や請求書のデータを基に、中小企業の信用判定のモデルづくりも進め、将来的にはAIを使ってブラッシュアップしていきます。このモデルで信用判定をすることができれば、もっと低コストで融資ができる。

今までよりきめ細かいデータで企業の実態を把握し、銀行が融資すれば、新しいビジネスの領域が広がる。銀行にも中小企業にもメリットがあります。

コミュニティを広げた人が勝つ

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アフリカの農家の生産活動のデータ化に取り組む合田真氏。

撮影:今村拓馬

合田:ペイメント(支払い)は、日本ではLINEやヤフーが強くなると思っています。最初から金融を目指していたわけではないでしょうが、自分たちのコミュニティを広げた人たちが、最終的に勝つと。

消費者に至るラストワンマイルを持っていれば、日本円、地域通貨、仮想通貨のいずれを使うにしてもプラットフォームは強い。モザンビークの通貨メティカルはあまり信用できないとしても、国民の7〜8割は農民なので、農業のデータを押さえられれば、メティカルでも仮想通貨でもいろんな選択肢を載せられる。そのために農民をコミュニティに囲い込んでいく戦略を考えています。

ただ、最後の根っこの部分、農民たちをどうつかまえるかの方法論が、僕にはあまり見えていません。だから、神田さんにも知恵をいただきたいと思います。

いずれ、仮想通貨の銀行も必要

フィンテック

金融サービスの履歴を取得して、価値の流れを見える化することで、ソリューションが生まれてくる可能性がある。

Shutterstock

神田:二つ方向性があるのかなと思います。一つはマネーフォワードの強みから出てくるもので、自動家計簿・資産管理のアプリで、銀行口座、証券口座、クレジットカード、電子マネーなど、さまざまな金融サービスの履歴を取得してきて、一元的に見えるようにしていくことです。

価値を動かす時には媒介が必要で、それが法定通貨なのか、仮想通貨なのか、電子マネーなのか。媒介になるものをまずは、仮想通貨、電子マネーという形で提供し、見える化していくのが、一つの方向性です。

もう一つは、今、法定通貨のシステムは銀行を中心に機能しています。仮想通貨のサービスは、法定通貨のミラーとして伸びていく部分があるのではないかと考えています。そうすると、仮想通貨の銀行という存在が必要になります。そこで仮想通貨を預けると金利がつき、仮想通貨で融資もできるようになる。

今の法定通貨の世界がすぐに移行するとは思いませんが、仮想通貨のほうが便利だという世界や、仮想通貨だったら利用したいというユースケースは出てくると思います。このうちのどちらか、あるいは両方をトライしたいなと思います。

合田:ぼくは銀行の方を見てみたいですね。預金と融資と考えると市中銀行だし、マネーフォワードが独自の仮想通貨を発行するとなると中央銀行的な位置づけになりますね。

最近、地域通貨に注目しています。地域通貨は、日本円と連動させたりさせなかったりと、いろいろなやり方があります。

宮城県 モリ券

宮城県の特定非営利活動法人「しんりん」が運営する地域通貨「モリ券」のイメージ図。

出典:特定非営利活動法人しんりんHP

宮城県の「モリ券」という地域通貨に参加しているのですが、寒い地域では燃料は欠かせませんから、ストーブの燃料に使う木材のペレットに連動させても、「いずれ燃料は使うから」という世界は成り立ちうる。もちろん、円の方が安心だということであれば、円に連動させてもいい。

今日本では将来に対する漠然とした不安感から、積極的に未来に対して投資をするとか、先を見て一歩踏み出すみたいなことがしづらい。その不安感を取り除くには、少なくとも食うには困らない、子どもは育てていける安心感のあるコミュニティのメンバーという意識があって初めて、自由になれるのかなと思います。

アフリカでも同じ考え方でやっていますが、日本の地域にも、もっと関わろうと思っています。

神田:地域で通貨の発行体になろうとする時、本気でこの地域の魅力を継続的に高めていこうという覚悟が要ります。価格の変動する仮想通貨を使うと、よりその責任は重くなる。地域の魅力が高まらず、成果が出なければ、地域通貨の価値は下落しますから。逆に、本気で地域をよくしようという覚悟があるなら、魅力的な取り組みになりますね。

いま、地銀がどう変われるかが問われている

福岡 銀行

長崎を基盤とする親和銀行に次いで、同じく長崎基盤の十八銀行との経営統合も決めたふくおかフィナンシャルグループ。

出典:ふくおかフィナンシャルグループHP

BI:地方銀行の苦境が、さまざまな形で報道されています。

神田:少子高齢化など地域の構造的な問題や、中小企業の活力が出てこないといった課題は、この数年の政府の政策が、中央や大企業中心で動いているという要因もあると思います。

一方で、地銀もこの10年、20年は守りを中心にやってきて、地域のために何ができるのかという観点でビジネスモデルをブラッシュアップしてこなかった。この数年、金融庁が取り組みを促しています。

でも、必ずしも苦境ばかりではないとも思っています。地域からの地銀に対する信頼は非常に厚い。バランスシートも、この先10年後、20年後には厳しくなるという段階なので、今ならまだ手が打てます。

Fintechの登場で、中央に負けないサービスが提供できるようになり、中央から遠いというデメリットはかなり解消される。まだまだ悲観的になる時期ではなく、どう地銀が変われるかが今こそ問われていると言えるでしょう。

合田:長崎の出身なので、地銀の統合には注目しています。長崎では、第一地銀1行と第二地銀2行がいずれも福岡資本になりました。こんな地域はほかにありません。もともと地域の金融機関として地域の人たちから預かったお金を、地元の産業を振興していくために使いますと言っていた。そう言っていた人たちが、いつの間にか身売りをしていました。

その銀行が利益を出せる体質に戻って、長崎の産業に活力が出てきたとしても、利益は長崎から出ていってしまう。個人的には、よくこんなことが通ったなと思います。

それでも、長崎の中小企業の人たちは、ほっとしていると思います。銀行が弱くなると、自分たちにお金が回ってきませんから。

銀行の経営を考えると、合併して広域化しないと立ち行かないのは分かりますが、そういう銀行はそもそも、どこを向いて仕事をしてきたのでしょうか。それまで地域のリーダーと言っていた人たちが、真っ先に戦線離脱をしてしまったようなものです。

BI:銀行に替わる存在がいずれ出てくるのでしょうか。

銀行の役割を担うのは銀行でなくてもいい

BANK

Shutterstock

神田:銀行が、金融サービスやそれを支える情報の担い手である必要性は将来的にはなくなります。それは、もしかしたら意外とはやいタイミングでやってくるかもしれません。

合田:現金を安全に保管する、安全に移動するということは、日本ではあまり意識しませんが、アフリカではすごく大事なことです。第三者のお金を預かって、大事に保管しますというサービスは、信用のある人でないとやってはいけないという制度は理解ができます。誰でも預かっていい、ということにはならない。

ただ、現在銀行の免許を持っている企業が、将来もその役割を担うのが適切かというと、また別の話です。

預金を除けば、銀行のほとんどのサービスには、別の業種が進出してきています。お金を預けるのだって、貸し金庫でもいいかもしれない。

神田:銀行は、預金保険の対象になっているので、一人当たり1000万円までは国が保証してくれるというのが、今の銀行の最終的な強みです。それはしばらく続くと思います。

決済、融資、為替など預金以外の銀行の機能は、すでにさまざまな形で、他業種の企業が代替しはじめています。これから先の5年、10年、銀行と関連するサービスを提供する企業との境目が、もっとあいまいになっていくでしょう。

合田:会社としては存続しているけれど、借り入れができないから、新しい事業ができない中小企業は無数にあると思うんです。

そこに資金を流すにしても、これまでのロジックとは別の情報が必要です。それが構築されれば、こうした企業も再び起き上がる可能性がある。

神田:地銀が合併することで、大きな規模で管理ができるようになりますから、コストの面でメリットがある。

でも、個別の中小企業に融資をするときには、ミクロのきめ細かさが絶対に必要です。これまで以上に、さまざまなデータを使って、カスタマイズした金融サービスが求められています。

規模を追求してコストを下げる流れの一方で、どんどん情報を使ってキメの細かいサービスを提供していく流れも進んでいくと思います。

大きな銀行が両方を担う必要はありません。大きな規模の預金を管理する銀行と、ユーザーに対してきめの細かいサービスを提供する主体が、これからさらに分化していくでしょう。


神田潤一(かんだ・じゅんいち):東京大学経済学部卒。米イェール大学より修士号取得。1994年日本銀行に入行、金融機構局で金融機関のモニタリング・考査などを担当。2015年8月から2017年6月まで金融庁に出向し、総務企画局企画課信用制度参事官室企画官として、日本の決済制度・インフラの高度化やFintechに関連する調査・政策企画に従事した。2017年9月にマネーフォワードに参画。2017年12月、同社執行役員に就任。2018年3月からマネーフォワードフィナンシャル社長。

合田真(ごうだ・まこと):1975年長崎生まれ。京都大学法学部中退。2000年に日本植物燃料を設立。アジアを主なフィールドに植物燃料を製造・販売する事業を展開。その後、モザンビークに拠点を拡大し、2012年に現地法人を設立。同国の未電化村で、地産地消型の再生可能エネルギーと食糧生産を支援するとともに、農村で使えるFinTechやAgriTech事業に取り組んでいる。著書に『20億人の未来銀行 ニッポンの起業家、電気のないアフリカの村で「電子マネー経済圏」を作る』 。

(構成:小島寛明、写真:今村拓馬)

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