「強み」や「好機」を探すユルい自己分析では、絶対ビジネスに勝てない理由

「SWOT分析」という言葉を聞いたことがあるだろうか。事業戦略やマーケティング戦略を考える場合に、自社の強み(Strength)・弱み(Weakness)と、外部にある好機(Opportunity)・脅威(Threat)という四つの軸から分析すると、やるべきことが見えてくるというものだ。

社内の研修でやらされた人も多いのではないかと思うが、それっきりで意外と使いこなせていない人が多いのではないか。そこで、筆者が企業の戦略研修などでアドバイスしている、他とは一味違う使いこなしのコツを紹介しよう。

強みや好機を先に考える分析は役に立たない

新入社員

ポジティブさを大事にして「強み」「好機」を考えさせる研修は多いが、簡単に見つかるくらいなら研修はいらない。

REUTERS/Toru Hanai

そもそも「SWOT」(英語で「ガリ勉」を意味する)という言葉が良くない。順番通り、強み(S)→弱み(W)、好機(O)→脅威(T)という順番で考えてしまうからである。

強みと好機を先に考えるというのはいかにもポジティブ思考のアメリカ人的だ。日本人に「我が社の強み」を考えさせると、社是や自社宣伝のような建前っぽいことしか出てこない。だいたいにして、好機を考えてすぐ思いつくようなら、分析などやめてさっさと身体を動かすべきだ。

そんなわけで、SWOT分析を本当に役立てたいなら、ちょうど反対の「TOWS」(これだと英語で「牽引」の意味になる)の順番で考えたほうがいい。

【第1ステップ:脅威(Threat)】

サラリーマン

「脅威」を考えずうまくいくビジネスはそもそも稀だ。脅威が脅威である理由を考えることこそ役に立つ。

REUTERS/Issei Kato

SWOT分析を使う必要があるのは、普通目の前に「脅威(T)」がある時だろう。

参考書には「客観的に外部の環境要因を書きなさい」と書いてあるが、まずはあまり難しく考えずに、とにかく現在「ヤバい」と感じている事実を書き出してみる。売り上げが落ちている、コストが下がらない、といった自分側のことでもよい。ただしその場合、「ヤバい理由」を考えてみれば、他社が新製品を出したとか、原油高で燃料費が高騰したとか、外部要因が必ずあるはずなので、それをメモしておく。

要するに、自分の努力だけでは容易に変えられないことを、出発点として整理するわけである。ただし、この段階では問題や障害を書き出しておくだけで、解決策は考えない。大きさの順番に並べ替えておく。

なお、最初は予断を排して思いつく限りたくさん、ランダムに挙げ、後から整理するといい。グループでやる場合は、全員が車座になって順番に挙げていく。「パス」をしてはいけないこととし、想定される2、3倍の数が出揃うまで続ける。付箋などをたくさん用意し、問題や障害を一つずつ書き込んでおくと、後から整理しやすい。

自分だけでやるときは、「scapple」のようなアプリケーションを活用するのもよいだろう。

【第2ステップ:好機(Opportunity)】

新入社員

自分が思いついたり、探し当てたりできる「好機」は、他の人も同じことを考えつく可能性が高いと肝に銘じておきたい。

REUTERS/Toru Hanai

好機を洗い出すのはけっこう難しい。規制緩和でルールが変わったとか、人工知能(AI)のような新技術が登場したとかで分析が必要になった時は、それを「好機(O)」ととらえがちである。しかし、誰にでも見えているものは本当の好機ではない。むしろ、誰もが同じことを考えて競争が激しくなるため、「脅威(T)」だと考えたほうがよい場合が多い。

このステップで考えるべきは、そういう状況の中で自分だけに見えているものはないか、普通の人ならチャンスとは考えない小さな穴が開いていないか、あるいは、脅威ばかりに見える中で視点を変えたら別の好機が見えないか、ということである。これは新商品・サービス開発のための発想法の一つで、筆者は「捨てる神あれば拾う神あり」法と呼んでいる。

ただし、そんな「小さな穴」が見える人はひと握りの天才である。そして、天才にはSWOTもTOWSも無用だ。

だが、実は凡人にも好機が見えるやり方がある。脅威を「ひっくり返して」みるのだ。例えば、他社が新製品をリリース→多機能化・高度化進む→かえって安くてシンプルなものにニーズが生まれる?といった要領である。もちろん、この時点では仮説にすぎないので「?」をつけておき、本当に正しいかどうかは、ヒアリングやアンケートで検証する必要がある。

【第3ステップ:弱み(Weakness)】

サラリーマン

REUTERS/Toru Hanai

ここまで来ると、何となくやるべきことがイメージできてくる。しかし、ここでは特定の商品・サービスや戦略に飛びつかないようにして分析を続けるべきだ。

次は、漠然とみえてきたその方向性に向かって動く時に、障害となりうる問題を書きだす。例えば、技術部門にはAIの知見がない、不祥事のせいで社内が過度に慎重になっている、起業直後でスタッフの経験が足りないなど、問題の大小にこだわらず気になることは何でも列挙しておく。

【第4ステップ:強み(Strength)】

最後に、自分が「強み(S)だと思っていること」を書く。なければ書かなくてもよい。本当の強みというのは意外と自分では分からないものだ。日本人は謙虚だから、とりあえず「これは」と思えることがあるなら書き出しておく。

【第5ステップ:弱みは強み、強みは弱み】

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「弱み」はいつも「改善すべき」「克服すべき」と、意外に短絡的な思考に陥りがち。

撮影:今村拓馬

もう一つステップがある。実は、「弱み(W)」として書き出したことの中には、もともと持っている「強み(S)」が隠れていることが多い。

例えば、AIに疎い→昔ながらの統計分析しかできない→統計分析ならできる→統計分析の延長にあるAIも多いのでは?とか、販売網が弱い→ネット販売に移行する際のしがらみが少ない→大手より素早く動けるのでは?という風に、強みを書き足すことができる。

SWOT分析を解説した本には、弱みは「改善する」「克服する」ものと書かれていることが多い。しかし、弱みは自分の本質と結びついているので、むやみに改善克服しようとすると、ないものねだりになるだけでなく、良いものが一緒に失われてしまうリスクが高い。

むしろ、変われないものは変われないと割り切って、弱みを強みに変える方法を考えるべきだ。これは裏を返せば、当然強みと思っていることも、環境や状況次第で弱みに変わるということである。そういうリスクを、最後に「弱み(W)」に書き足しておく。

ここまで徹底して自己分析すると、何をすべきかは自然と浮かび上がってくるし、何でつまずきそうかも分かってくる。SWOT分析は習ったけれど使ったことがないという人は、試しにやってみてほしい。


大垣尚司(おおがき・ひさし):京都市生まれ。1982年東京大学法学部卒業、同年日本興業銀行に入行。1985年米コロンビア大学法学修士。アクサ生命専務執行役員、日本住宅ローン社長、立命館大学教授を経て、青山学院大学教授・金融技術研究所長。博士(法学)。一般社団法人移住・住みかえ支援機構代表理事、一般社団法人日本モーゲージバンカー協議会会長。主な著書に『金融と法――企業ファイナンス入門』『金融アンバンドリング戦略』『49歳からのお金―住宅・保険をキャッシュに換える』など。

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