普通の人が会社を買ったら、何が起きた——廃業リスクは22兆円、救世主は個人のM&A

事業継承

いまやオンラインで、売り出し中の企業とその値段を一覧で見られる。普通の人が“少額”で企業を買うことができる。

普通の人が会社を買ったら、何が起きたのか。

2025年までの10年間で、日本企業全体の3分の1は、後継者が未定とされる。

その後継者不足を救う、個人によるM&Aの実態とは —— 。

「ストックビジネスができる」

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西智行さん。大手製薬会社に勤務、その後独立しようと、ある薬局で“修行”している時に、M&Aに出合った。

「一定の売り上げが確保されているので、安心してチャレンジができた」

西智行さん(30)は大手製薬企業に勤務した後、2016年7月に埼玉県川口市内の薬局を“継いだ”。この薬局はもともと遠方の経営者が所有し、事業の選択・集中のためにこの薬局を手放す方針だった。

独立志向のあった西さんは、「薬局をM&Aする手段がある」と知人から聞き、すぐに興味を持った。Facebookメッセンジャーで、事業承継を仲介する「経営承継支援」の担当者とグループを作成。薬局の経営者との面談を経て、1カ月半ほどで買収を決めた。

新規で薬局を開業すれば、「売り上げが立つまでに、どれくらいの運転資金が必要か分からない。何千万円かけて設立しても、結局は運転資金が足りず、ショートするリスクがある」と西さんは話す。 M&Aなら「固定客がいて、ストックビジネス的に引き継げる部分が大きい」と利点を見つけた。

買収(事業譲受)額は貯金と退職金、金融機関からの借り入れでまかなった。

「借り入れの際、将来のキャッシュフローが大事になる。(事業承継なら)これまでのデータがあるので、返済に問題が少なく、借り入れがスムーズだった」

西さんは事業を譲り受けた後、在宅業務など新規事業を始め、売り上げを2年間で2.5倍〜3倍に伸ばしているという。

ぬか漬けをスタートアップが継ぐ

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AMDが事業を継承し、クラウドファンディングもしてみた。

出典:FAAVO

後継者不足は、地方の地場産業で特に深刻だ。そこにスタートアップが参入している。

ブランディングエージェンシーのAMD(東京都)は、ぬか漬けの池田商店(金沢市)から事業承継した。池田商店は、北陸に伝わる魚のぬか漬けを製造する会社。創業者の1人が病気になり、閉店を検討していた。

AMDの千布真也CEO(38)は、2006年に自社を設立。顧客のブランディングを手掛けるうちに、顧客からの受発注だけでなく、自らもリスクをとって事業に関わりたいと、商店の運営を承継することを決めた。

事業承継額は約500万円。M&Aマッチングサイトの運営元「アンドビズ」が仲介した。「数百万円単位でできる、小さな事業承継が魅力的だった」(千布さん)。事業を承継した後は、新商品やパッケージを開発し、ブランディングを強化。「異業種がマッチングすることで強みと弱みを共有し、客観的な視点でブランドを構築できる」と千布さんは、事業のスケールに期待している。

中小廃業、10年間で22兆円が損失

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2018年10月に都内で開かれた、Batonzの発表会。AMDの千布さん(左から2人目)が登壇した。この日は、川崎市、中小企業庁の関係者が出席した。

中小企業庁によると、2025年までの10年間で、70歳を迎える中小企業・小規模事業者の経営者245万人のうち、半数の会社(日本企業の全体の3分の1)で後継者が未定になる。このまま放置すれば、650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性があるという。

そこでM&Aの支援機関は、個人が会社・事業を買収する小規模なM&Aに注目を始めた。上記の2人の事業承継を仲介した、アンドビズ、経営承継支援のほか、ビズリーチもマッチングプラットフォームを開始。

アンドビズは、オンラインのマッチングプラットフォーム「Batonz(バトンズ)」を通じて、2025年までに年間成約1000件を目指している。親会社のM&Aセンターは、売り上げが5億円規模の会社が中心だったが、バトンズは売り上げが1億円以下の企業をM&Aの対象にする。

バトンズ

オンランのマッチングサービス「Batonz」。売り出し中の企業一覧が金額とともに見られる。

西さんのM&Aを仲介した経営承継支援によると、個人が「ゼロ円」で会社や事業を譲り受けることもあるという。借り入れがあったり、廃業にもコストがかかったり、売主の側にはタダでも売りたいという意向がある。

近年、全国の事業引継ぎ支援センターには、後継者不足に陥る中小企業の経営者からの相談が急増。相談件数は、センター開設初年度の2011年度は250件だったが、2017年度には8526件まで増えている。

また、アンドビズでは、副業解禁の流れも後押しし、30代、40代の個人やサラリーマンからも相談が増えているという。

会社や事業を運営したいけど、会社を興すのはハードルが高い。その時は、事業承継も1つの手かもしれない。

(文、撮影・木許はるみ)

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