iPhone XS Max、XR実機でわかった「アップルが固執する理由」 —— 本当に重要なのは、たった2つの要素だ

iPhone XとXS Max

左がiPhone X、右が新機種のiPhone XS Max。ディスプレーサイズが6.5インチとひときわ大きくなった。

今回のiPhoneのキモはどこか?

世の中の話題は、大型画面で立派な価格の「iPhone XS Max」や、エントリーモデルに近い「iPhone XR」が6.1インチと大型画面になったことかも知れない。

iPhone XS Maxは、画面の大きさのインパクトとは裏腹に、意外と持ちやすい。実はiPhone 8 Plusとほぼ同じ面積であり、それでいて薄くなっているからだ。絶対的なサイズとしてはもちろん大きいのだが、「Plus系」のiPhoneを使っていた人なら全く問題なく受け入れられるだろう。

一方、同じ「XS」でもMaxがつかない方はどうか? デザインやサイズがiPhone Xと同じなので、「iPhone Xでいいのでは」という印象を持ちそうだ。

画面サイズや画質の第一印象については、確かにそうかも知れない。けれども、後半で触れている「中身の強化」が効いていて、動作はより快適だ。たしかにiPhone Xから買い換えるか?と言われると悩ましいが、旧機種の利用者ならば、XよりもXS、というのがファーストインプレッションだ。

iPhone XR

iPhone XRはカラーバリエーションが6種類もある。会場にはずらりと全色が並んだ。カラフルなイエローなど発色が綺麗だ。

じゃあ、廉価モデルにあたるiPhone XRはどうか?

正直なところ、筆者を含め報道陣の反応がもっとも良かったのが、XRなのだ。カメラでズームがしづらいこと、防水性能が劣る(XSはビールをかけても大丈夫だ!)こと、そしてやはりディスプレー画質の差(XS系は有機ELなのに対して、XRはIPS液晶)などが、XS系との差になる。とはいえ、カラーバリエーションが美しいこと、ディスプレーも解像度など「スペックの差」ほど見劣りするものではない。

あくまで第一印象ではあるものの、iPhone XS Maxと比較して、4万円のコスト差を考えれば「かなりアリ」だ。

BI00002

iPhone XR(イエロー)。背面はガラスでポップ、側面はアルミでシック、というかなり凝った仕上げだ。

BI00003

iPhone XR(ブルー)。背面の色味は、iPhone 5s時代に登場した「iPhone 5c」に近い色合いだ。

BI00007

左から、iPhone XS Max・iPhone XR・iPhone XS。サイズはきれいに3つ並ぶ感じだ。

これらのように、確かに外観上、今回の新製品は、ディスプレーサイズの変化が目立つ。けれども、一番大事な「アップルの今回の勝負どころ」は実はそこではない、と筆者は考えている。

  • TrueDepthカメラが最新世代で標準になった
  • 新モデルに、マシンラーニングを強化したプロセッサーを搭載した

この2点こそが、アップルが他社との差別化のためにリソースをつぎ込んだ「アップルの戦略的変化」だ。

あえて「TrueDepthカメラ」を採用し続けるアップルの意図

TrueDepthカメラ

TrueDepthカメラの構造。パーツ数は他社より多く機構も複雑で実装面積が大きいが、それでもアップルはこの機構にこだわる。

昨年iPhone Xが登場した時に、ホームボタンを排除して顔認識で認証をする「Face ID」を使ったモデルはiPhone X1機種だけだった。アップルにとっても、ホームボタンをなくすというUIの変更は、かなりのチャレンジだったからだ。

その評価は色々あるだろう。Face IDは日本でよく使われるマスクに弱いし、決済などの時に指紋認証に比べ、まだまごつくことが多い。それでも、多くのiPhone Xユーザーが「これでも悪くないし、便利だ」と感じたのではないか。アップルは自信を持ったのか、今回から「ホームボタンのないUI」を標準にしてきた。

一方で、他社スマホと比べた場合、意外に思えるかも知れないのが、「新機種でもノッチのサイズは変えていない」ことだ。

フル画面スマホに移行するメーカーは多いが、特に中国系の企業は、「ノッチが他社より小さい」ことをアピールする。アップルは今年もそこを変えなかった。

むしろ「変えられなかった」のだ。理由は、Face IDを実現するための「TrueDepthカメラ」の実装には、一定の幅が必要だからだ。TrueDepthカメラでは、赤外線のドットを顔に照射し、顔の立体構造を把握するための「ドットプロジェクター」を内蔵している。他社はこうした仕組みを採用せず、画像認識だけを使う場合が多い。(ただし、赤外線を組み合わせ、より精度をあげるところは多い)

faceid02

アップルが、一定のパーツコストをかけて、実装面積も必要とするTrueDepthカメラに固執する理由は、おそらく、認識精度と自由度にある。Face IDは高速な認識を、しかも低い負荷で実現できるからだ。新機種ではプロセッサーのパワーが上がったためか、顔認識の速度がさらに上がっている。また、顔の表情を高速に読み取るにも向いており、「アニ文字」でキャラクターに表情を与える際も、負荷が抑えられる。

新半導体技術を「マシンラーニング強化」に注ぎ込む

A12 Bionic

新iPhoneの心臓部「A12 Bionic」には、CPUやGPUなどと同じように巨大な面積を、マシンラーニング処理用の機構である「Neural Engine」が占める。

新iPhoneに搭載されている半導体(SoC)「A12 Bionic」は、スマートフォン用プロセッサーとしては、7nmプロセスで量産される初めてのものだ。昨年の「A11」世代のSoCは10nmプロセスだった。「A12」での7nmプロセスへの移行は、より多くのトランジスターを搭載し、処理能力向上と消費電力低下に大きな役割を果たす。

「A12 Bionic」では、iPhone XのA11 Bionicに対し、特にマシンラーニング処理の性能を劇的に向上させたことが特徴となっている。言ってみれば、半導体プロセスの進化を、あえて「いままでとは違う使い方」に振り分けてきたのだ。

iPhone X世代に対し、今回の新機種のマシンラーニング系処理の能力は、最大で9倍にもなる、とアップルはいう。しかもより大きいのは、そこで処理に必要な消費電力は10分の1に減っているということだ。

マシーンラーニングの処理向上

A12 Bionicでは、マシンラーニング系処理の消費電力が10分の1にまで小さくなったという。

iPhoneにおいて、マシンラーニングは、画像認識やカメラの画質向上に使われる。Face IDの認識速度向上もこれが理由だし、カメラ機能での「ボケ味演出」の機能アップにも使われている。

今回の発表会でも特に感嘆の声が上がっていたのが「Homecourt」(開発:NEX Team)というバスケットボール練習用アプリだ。このアプリでは、iPhoneのカメラだけを使い、プレイヤーの姿勢やボールの軌跡、シュート位置などをすべて「リアルタイム解析」して記録する。

従来なら、複数のカメラやセンサーを使ってやるようなことが、iPhoneひとつで可能になっている。これも、A12 Bionicで強化されたマシンラーニング系処理能力を、画像解析に使った結果だ。

Homecourt

NEX Teamのアプリ「Homecourt」。バスケットボールのシュート練習用アプリだが、A12 Bionicのマシンラーニング能力を使い、人の姿勢などをリアルタイム解析する機能が搭載されるという。

また、シングルレンズのカメラを採用したiPhone XRでも「背景ボケ写真」が実現できるのも、A12 Bionicのマシンラーニングによるモデル構築のおかげだ。デュアルカメラのXSシリーズに比べると、ボケの品質が劣る上に、あくまでポートレート撮影向けなのだが、マシンラーニング処理向上の分かりやすい例だ。

昨年から続く、次世代への「種まき」はいつ芽吹くのか

iPhone XS

今回の目玉カラーである、iPhone XS Max(ゴールド)。かなり光沢が強く、高級感がある。金と真鍮の間くらいの色味だろうか。

XS世代のiPhoneが掲げる高精度な顔認識や、マシンラーニングの応用。現状、これらの要素は、技術者の興味はそそっても、さほど消費者の琴線には響かないだろう。

だが、その技術者が「開発したい」と興味を持つことが大切だ。アップル製品のように「同じ性能を持つ機器が、短期的に大量に売れる」ことになれば、そこでは早期に市場が立ち上がる可能性が高まる。

アップルの次の課題は、こうした差別化要素を、いかにすばやく「消費者にとっての価値」に変えるかだ。

スマホの使い方はそろそろ陳腐化している。そこに違う要素を持ち込めるとすれば、新しい技術から生まれる新しいアプリの存在しかない。

アップルは昨年のiPhone Xから、この課題に取り組んでいる。今年は「種まき拡大」の年だ。さて、収穫が来年になるのか、それとも意外と早いのか。なかなか予想が難しいところではある。

(文・撮影・西田宗千佳)


西田宗千佳:フリージャーナリスト。得意ジャンルはパソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主な著書に『ポケモンGOは終わらない』『ソニー復興の劇薬』『ネットフリックスの時代』『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』など 。

ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中