KDDI経営トップが憧れのスティーブ・ジョブズ・シアターで直感した「アップルの転換点」

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アップルの新製品発表会が行われたスティーブ・ジョブズ・シアター前にあるビジターセンター、当日の様子。

撮影:川村力

iPhoneの新モデル3機種、第4世代のApple Watchが発表され、大きな話題を呼んだアップルの新製品発表会。カリフォルニア州クパチーノのスティーブ・ジョブズ・シアターで行われた同イベントに参加したKDDIの髙橋誠社長に、日本での予約開始(9月14日)を前に現地で話を聞いた。

アップルが発した強いメッセージ

ティム・クックCEO

商品発表会に登壇したアップルCEOのティム・クック氏。

REUTERS/Stephen Lam

洗練されたデザイン、圧倒的な音響を誇るスティーブ・ジョブズ・シアターにようやく足を踏み入れることができ、心を揺り動かされる経験をした。

最初はiPhone関連の発表から始まると思っていたので、Apple Watchを前に持ってきたことに驚いたが、その変化は事前に把握していたよりずっとドラスティック(劇的)で、アップルが考える「人とインターネットとの接点」に対する考え方をはっきりと見せつけられた気がした。

参考記事:3分でわかる新Apple Watch Series 4:過去「最大」の進化、心電図対応、大画面化で4万5800円から

ここ数年、その「接点」はスマートフォンだったわけだが、この先についてはスマートウォッチを最有力の選択肢と見据えている……今回の新製品発表会の演出は、そんなアップルからの強いメッセージなのではないか。シアターを後にしてから、そんなことを考えていた。

Apple Watch Series 4

Apple Watch Series 4について説明するアップルのジェフ・ウィリアムズCOO。

REUTERS/Stephen Lam

特に気になったのはヘルスケアへの視線だ。

新たに搭載された電気心拍センサーを用いた心電図の計測(編集部注:日本でこの機能がいつ使えるのかどうかはまだ不透明だ)、あるいは加速度センサーとジャイロスコープによる転倒検出、それらの情報の医療関係者への通知・共有などの新機能は、アップルが社会への寄与をいかに重視しているかを端的に示しているように思う。

「通信とライフデザインの融合」をスローガンに掲げる私たちKDDIと、進むべき方向性を共有していることを強く感じた一日だった。

新型iPhoneは5G/IoT時代への扉を開く起爆剤に

Apple iPhone XSとフィリップ・シラー氏

アップル上級副社長フィル・シラー氏によるApple iPhone XSの発表。

REUTERS/Stephen Lam

イベント直後からいくつものメディアが報じているように、新型iPhoneはいずれも価格が高いなという印象を持ったのは、私も同じだ。ただ、新たな「A12 Bionic」チップのパフォーマンス向上と低消費電力化は、価格を考慮しても素晴らしいものがあると思う。

思い起こせば今からちょうど10年前、日本でiPhoneが初めて販売された時も同じような状況があった。

当時はフィーチャーフォンの全盛期だ。チップセットの性能向上とバッテリーの大容量化が進んで、ユーザーがほとんど不満を持たなくなるのと同時に、サービスプロバイダーが活躍する領域が一気に広がった。

フィーチャーフォン市場は残念ながらその後しばらくして、スマートフォンに押されて縮小に向かっていった。しかし、パフォーマンスの充実を背景に(フィーチャーフォンの)新たなサービスが生まれ、それらがより高度なハードウェアや通信環境を必要としたからこそ、iPhoneに代表されるスマートフォン市場や4Gインフラは飛躍を遂げることができたのだと、私は考えている。

スティーブ・ナッシュとトッド・ハワード

iPhone XS/XS MaxのCPU、カメラ機能の向上が新たな可能性を生み出す。

REUTERS/Stephen Lam

今回の新型iPhoneのスペック向上についても、iPhone Xから引き続き対応した「TrueDepthカメラ」のような機能と併せて、コンテンツプロバイダーが革新的なサービスを生み出していくインフラが整ったという感覚を抱いた。ディスプレイも大型化し、名実ともに「モバイル・オリエンテッド」の時代がやって来た。

来るべき5G/IoT時代も、デバイスやインフラが生まれるだけでは市場は広がらない。今回の新型iPhoneのような充実したハイエンド端末が登場する、言わばスマートフォンの「円熟期」にこそ生み出される独創的なサービスとコンテンツが、5G/IoT時代にふさわしい新たなハードウェアを要求し、それが開発と普及の原動力になっていくのだろう。

一人のアップルユーザーとして思うこと

KDDIの髙橋誠社長

アップルの新製品発表会「Apple Special Event」に際して、取材に応じたKDDIの髙橋誠社長。

撮影:川村力

実は、私自身はiPhoneの登場以前からアップル製品の大ファンである。システムにトラブルがあると「Syntax Error(構文エラー)」と表示されていた時代に、同じことを「サッドマック(困り顔のアイコン)」で表現する卓越したセンス、それに「誰にでも使えるパソコンを」というコンセプトに強く惹き付けられた。

デスクトップのMacintoshはもちろんのこと、iPodは(円形のタッチセンサーで操作を行う)タッチホイール搭載のモデルから使っていた。

Apple WatchもSeries 2から巻いている。Series 3になってバッテリーの持ちがグンと伸び、本当に良いデバイスだと実感している。今回発表されたSeries 4も、デジタルクラウンのカラーリングが心憎い。(分かる人には)ひと目でどのSeriesなのかが分かってしまうこの工夫に、アップルのマーケティングの巧みさを感じる。

初代iPhoneを発表するスティーブ・ジョブズ。

2007年、初代iPhoneを発表するアップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏。

REUTERS/Kimberly White

ところが、運命とは皮肉なもので、iPhoneが日本で発売された2008年頃、私はフィーチャーフォンの商品開発を担当する部署にいて、自分たちが築き上げたフィールドを侵される危機におののく同僚たちの姿を目の当たりにしていた。

スマートフォンによる「ディスラプション(破壊)」を前に、KDDIも独自開発に乗り出すべきか、踏みとどまるべきか、相当な議論があった。当時の私はスマートフォンの開発を進めるべきとの立場で動いていたが、社内には反対意見も根強く、結果的に実現しなかった。

しかし、今となっては良い経験だったと思っている。結果的に、ディスラプションやそれが巻き起こす変化への耐性が身に付いたからだ。

「ディスラプション(破壊)」の恩恵

ネットフリックスのプロダクト最高責任者である グレッグ・ピーターズ氏(左)と髙橋社長(右)。

ネットフリックスのプロダクト最高責任者であるグレッグ・ピーターズ氏(左)と髙橋誠社長。

撮影:小林優多郎

KDDIはベンチャー企業との付き合いがうまい会社との評価をいただくことがあるが、それは最初のディスラプションの恩恵だと言っていいだろう。

それまで単なる電話会社だったKDDIは、「EZweb」を運営することでプラットフォーマーとなり、コンテンツプロバイダーにサービスの開発や提供を委託した。月額課金制だから、委託先はサービスが成功した分だけストックを増やし、自らに投資して成長できる。そんな理想的なパートナーシップ、ビジネスモデルを構築できたことで、協業関係にあるコンテンツプロバイダーがいかに成長できるかを優先して考える「外向きのベクトル」が社内に根付いた

だから、二度目のディスラプションが起きた時も、それまでの委託先とのパートナーシップがワールドワイドに広がったものと理解し、外向きのベクトルを維持したまま、OTT(Over The Topの略。動画配信やSNSなどインターネット上でマルチメディアサービスを展開する事業者)との関係構築を進めることができた。

2018年5月に発表した映像配信大手ネットフリックスとの業務提携、今回発表したアップルの公式アフターサービス強化(「故障紛失サポート with AppleCare Services」)は、まさにそうした流れの中にある取り組みと言っていい。今後、スマートフォンから多様なスマートデバイスへと重心が移っていくことで、グローバルなパートナーシップの可能性はさらに広がるだろう。

参考記事:新型iPhone発表、現地でKDDI髙橋社長に聞いた「ギガトク新料金」「VTuber出資」の秘策

「横並びの端末販売が続くとは考えていない」

アップル新製品デモンストレーション

アップル新製品デモンストレーション。

REUTERS/Stephen Lam

そんなわけで個人的にも思い入れがあるアップル製品だが、その粋を詰め込んだiPhoneを、2007年の誕生当時は(通信方式の問題から)KDDIではすぐに導入できなかった。会社としてはディスラプションへの抵抗感もあった。それがいまや、キャリア3社が全く同じ端末を販売している状態だ。

しかし、従来のような横並びの端末販売が続くとは、私は考えていない

利用料金の面で工夫を続けていくことは当然のことだが、何よりこれから先に重要なのは、パートナーとしてどんな未来を共有し、ユーザーにどんな未来を提案していくのか、ということだと思っている。

アップルが今回Apple Watchを通じて人間の健康・幸福に貢献する姿勢を強く示したことに、私たちKDDIの目指す姿と相通ずるものがあるとあらためて感じた。また、ハードウェアだけでなくソフトウェア、アプリケーションにこだわっていきたいという同社の姿勢にも強く共感する。

スマートフォン、スマートデバイス、通信ネットワークを提供することにとどまらず、ライフデザインを提案できるような5G/IoT時代にふさわしい協力関係を、アップルはじめパートナー企業とともに築いていきたい。(談)

(取材・構成:川村力、取材協力:KDDI)

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