ザラの主要な店舗はラ・コルーニャ市にある。
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- ZARAの本社は、スペイン北西部の海沿いの小さな町アルテイショにある。
- デザイン、写真、セールス、eコマースなど、さまざまな部門の5000人以上の従業員がそこで働いている。本社には同社最大の配送センターもあり、世界96カ国に商品を送り出している。
- 大規模な本社の存在は、多くの従業員が移り住んだ近隣のラ・コルーニャ市に大きな影響を与えた。
ZARAは大きく成長した。だが、発祥の地を決して離れない。
同社は1975年以来、スペイン北西部の海沿いの町アルテイショ(Arteixo)に本社を置いている。わずか1店舗から始まったZARAは、巨大な多国籍企業に成長した。世界最大規模のファッション小売業として、年間売上高は300億ドル(約3兆3000億円)を超えた。
にもかかわらず同社は創業の地を守り続け、ビリオネアの創業者アマンシオ・オルテガ(Amancio Ortega)は、成長に対応するためにアルテイショのグローバル本社を拡張し続けている。
そして、デザイン、写真、セールス、eコマース戦略などを担当する従業員を世界各地から数千人も本社に呼び寄せた。これは多くの従業員が移り住んだ近隣のラ・コルーニャ(La Coruña)市に劇的な影響をもたらした。
地元の人々はその影響を「Impacto Inditex」と呼んだ。影響は市のあらゆる場面で感じられた。街を歩き回り、流行の店やカフェ、バーに出入りするファッショニスタであれ、生活費の高騰に悩まされる地元住民であれ、ZARAが良くも悪くもラ・コルーニャの暮らしに大きな影響を与えたことは明らか。
我々はラ・コルーニャを訪れ、ZARAの発展とともに、市がどれほど変わったのかを見てきた。
創業者のアマンシオ・オルテガは1975年、ラ・コルーニャに最初の店舗をオープンした。彼は当初、1964年の映画『Zorba the Greek』にちなんで店名を「Zorba」とした。だが、近くに同じ名前のバーがあることに気づき、名前を変更した。文字を並べ直し、ZARAを思いついた。
ZARAの1号店。
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最初の店舗は今もラ・コルーニャにある。だが、世界中にある店舗とほとんど区別がつかない。
1977年、近くの町アルテイショに本社を作った。本社は今もそこにある。
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アルテイショは人口約3万人の小さな町、ラ・コルーニャ(ガリシア語でA Coruña)から車で約20分のところにある。
20年あまりでZARAは劇的に拡大し、スペインのみならず世界各地に店舗をオープンした。1985年、オルテガは持株会社としてインディテックス(Inditex)を設立した。
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現在、本社はアルテイショに86万平方フィート(約8万平方メートル)という広大なスペースを持つ。
インディテックスの本社。
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本社には工場と配送センターもある。世界96カ国に商品を発送している。
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配送センターはラ・コルーニャの輸出ビジネスに大きな影響を与えた。
本社にある配送センターはスペインに4つあるセンターの中でも最大、世界各地の2000以上の店舗に商品を発送している。
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ラ・コルーニャは大きさで言えば、スペインで18番目の都市だが、ブルームバーグが伝えた同国経済省のデータによると、2017年にスペインの総輸出額の4%を占めた。
これはマドリード、バルセロナ、バレンシアを除いたスペインのどの地域よりも大きい。
インディテックスは同地域で最大の雇用者でもある。本社では、デザイン、eコマース、セールスなどのさまざまな部署で5000人以上が働いている。
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住民は、インディテックスはラ・コルーニャ市に大きな影響を与えたと語った。ラ・コルーニャ市には、多くの従業員が移り住み、買い物をし、お金を使っている。人口は約25万人、アルテイショよりもかなり大きい。
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「インディテックスは、ラ・コルーニャのすべてを動かす大企業」と同市に住み続けている事業主アドルフォ・ロペス(58歳)は語った。
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ロペスは、インディテックスの規模が極めて大きいため、市のほとんどの人は、誰が直接あるいは間接的に同社で働いているかを知っていると語った。
仮にインディテックスで働いている人を知らなくても、同社と取り引きしている会社で働いている人を知っていることはよくあると彼は語った。
デザイナー、モデル、カメラマンが世界中のあらゆる場所から来て、働いている。
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地元のタクシー運転手、ダニエル・チャンス(31歳)は、異なる文化が混ざり合うことが市にポジティブな影響をもたらしていると語った。
「昔はアジア人と黒人が一緒に歩いている姿を見かけることは極めて珍しかった。今は人種差別はほとんどない」
またインディテックスは、市をより国際的にした。住民によると、インディテックスの従業員は市の一番賑やかな通り「Calle de Estrella」によく集まっている。
Calle de EstrellaにあるEl Charrúaという名前のアルゼンチン・レストラン。
Facebook/La Charrua
「市はかなりモダンになった。バルセロナやマドリッドにあるようなレストランがオープンした」とラ・コルーニャにあるブティックの販売員、タマラ・バレンシア(29歳)は語った。
「数年前には夜、出かけても誰にも会わなかった。今は以前には見たことがないような人たちを通りで見かける」
我々は月曜日の夕方、Calle de Estrellaを歩いてみた。レストランは人で溢れていた。
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通りに並ぶ店の中には、明らかに流行に敏感な顧客をターゲットとする店があった。
Calle de Estrellaに並ぶコンセプトショップ。
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バレンシアは、彼女が見てきた中でも多くの変化があり、数多くの流行の店が集まってきたと語った。
そして市は、ファッション好きが目指す場所となった。
「人々は着こなしを変え始めた。そしてZARAが成長し始めた時、スペインの他の地域の人々は、ここの人々の着こなしがお洒落なことに気づいた」
ラ・コルーニャでインディテックスの店舗を見つけるのに時間はかからない。
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我々が泊まったホテルの400フィート(約120メートル)以内に6店舗(ZARA、Pull&Bear、Bershka、Oysho、Uterqüe、Massimo Dutti)があった。ここではインディテックスが小売業を支配していた。
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多くの住民は市の発展を喜んでいるが、もちろん影響はある。
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ZARAの従業員が多数移り住んだことで、市の中心部の賃貸物件の需要があがった。そして賃貸価格は高騰し、地元住民が住むことは難しくなった。
「1年半前に来てアパートを探した。1LDKのアパートを見つけることはとても難しかった」とコンセプトショップの販売員、サラ・カネド(25歳)は語った。
「不動産業者は、ほとんどのアパートにインディテックスの社員が住んでいると言った」
不動産会社Engel&Völkersによると、過去2、3年で家賃は15%上昇した。
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「購買力を持つ多くの従業員が他の都市や国からやってきたため、家賃は大幅に上昇した」とラ・コルーニャの不動産会社Engel&Völkersで働くパトリシア・ヴィジオラはBusiness Insiderにメールで述べた。
彼女は「顧客の希望は常に街の中心部」と付け加えた。
従業員は本社のあるアルテイショよりも、活気のあるラ・コルーニャを選ぶ。
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「アルテイショは住居、文化的あるいは社会的な魅力のない田舎。ラ・コルーニャは車でわずか20分離れているだけ、生活に必要なサービスすべてが揃っている」とヴィジオラは語った。
家賃の上昇にもかかわらず、ほとんどの住民は同社と創業者を好意的に捉えているようだ。
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これはおそらく、彼が市に行ってきた投資のため。
「市の半数は彼に感謝している」と前述の事業主ロペスはZARAの創業者オルテガについて語った。
El Paísによると、オルテガは学校の建設、地域のホームレスと高齢者を支援する組織に寄付を行った。
オルテガはインディテックスの会長を辞任したが、同社の株の59%を所有、現在、世界で5番目のビリオネア。
オルテガは人目につかない生活を送ることで知られ、滅多に取材を受けない。彼はラ・コルーニャのひっそりとしたアパートに住んでいると言われる。
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我々が話を聞いた住民は、皆、オルテガと会ったことはないと語った。だが、ほとんどの地元住民もそうだろう。
だが、その顔は誰もが知っている。
※敬称略
(翻訳:一柳優心、編集:増田隆幸)