財政への影響が深刻だと話す保坂展人・世田谷区長
中西亮介
総務省がポータルサイトを立ち上げたり、テレビを含む多数のメディアで紹介されたりと注目を集めるふるさと納税。この制度によって東京23区から税収が流出している。寄付をすることで税控除が受けられるほか、豪華な返礼品をもらえるなど、ふるさと納税による経済的メリットがわかりやすいからだ。23区は税の減収に危機感を持っており、世田谷区長の保坂展人氏は「税収減は破壊的影響がある」と警鐘を鳴らす。
ふるさと納税は、居住地の市区町村の代わりに応援したい自治体に寄付をすることができる制度。寄付した金額の一部を除き税控除を受けられる。ふるさと納税による税収への影響が大きい自治体は、全国で見ると横浜市、名古屋市、大阪市だが、東京23区は地方交付税の補填対象ではないため、他の自治体に比べて財政への影響が大きい。23区でもっとも影響を受けているのが世田谷区だ。2016年度の一般会計予算が約3000億円の世田谷区は、同年度にふるさと納税による税収減が16億円となる見込みで、前年の2億6000万円から跳ね上がった。17年度は、税収減は30億円に迫ると予想している。保坂氏はBUSINESS INSIDER JAPANの取材に「予想をはるかに超えている。16億、30億というのは破壊的な影響がある」と話した。
子育て世代や年収低い層が影響受ける
ふるさと納税による税収減が急上昇する理由を保坂氏は「(日本最大のふるさと納税サイトである)ふるさとチョイスのメニューが豊富になり、ある種の通販みたいになった」と指摘する。さらに、「税控除が10%から20%に伸びたことも影響している」と保坂氏は続けた。 保坂氏はふるさと納税による影響額は今後も増えていくと見る。
「100億円に向かって膨張するという危機感がある。100億円というと、ちょうどリーマンショックの時の世田谷区の税収減とほぼ一緒。当時区の運営としては、公共施設の改築・改修の先延ばし、事業計画の見直しなどで対応した」
世田谷区によると、ふるさと納税で寄付をするのは40〜50代が多い。年収が1000万円の大台に乗る寄付者もいる。 保坂氏は比較的裕福な年配層が節税をすることによって、子育て世代や世帯収入の低い家庭が影響を受け、格差が拡大していると強調。「ふるさと納税の影ではこういうことになっているんだということを可視化することが必要」と主張した。
「住民サービスの低下にもつながる」
世田谷区では区報などでも寄付を呼びかけている
中西亮介
税収減の状況に危機感を持った23区は、急いで対策に取り組んでいる。世田谷区では、2017年2月に対策本部を設立。区民が居住する世田谷区でもふるさと納税ができることなど、制度を住民に周知させる方策などを議論した。
また、節税や税控除を望むなら、ふるさと納税とは別に、世田谷区の基金に寄付することもでき、住民は児童養護施設や高齢者の福祉施設など7つの基金から税の使い道を選択できる。自分のお金がどう使われているかをチェックできる仕組みだ。寄付文化の醸成のため、クラウドファンディングによる資金調達も検討しているという。
保坂氏によると、世田谷区は約1年半前からふるさと納税に関する対策会議で議論を重ね、いわゆる返礼品競争にならないよう、寄付文化の醸成に力を入れている。税収減に頭を悩まされる自治体は世田谷区の他にも港区、大田区、杉並区と数多く、23区の区長で構成される特別区長会は、市川早苗総務大臣に3月13日付けの要望書を送った。
結局、都市と地方の格差はこの方法では埋められず、自治体はふるさと納税に頼らない産業育成をしていく必要があると、保坂氏は主張する。
「返礼品ももらえ、税の控除も受けられるふるさと納税は一見するといいこと尽くめに見える。しかし、この世の中にいいこと尽くめなことなどない。東京23区の税収減は『穴』だ。穴を掘った人は果実を得るが、その穴を埋めるのは納税者である住民全員、そして、穴を埋めるだけの税財源がなければ住民サービスの低下につながる」と保坂氏。対策としてふるさと納税の仕組みや世田谷区の取り組みを、街頭で呼びかけるなどの行動を起こしていくという。