北朝鮮非核化「2つの盲点」と誤解——トランプ氏も認めている「平和構築」先行

朝鮮半島非核化をめぐる歴史的な米朝首脳会談(6月12日)から3カ月。米朝とも年内にも第2回会談を開く構えで、焦点は第2ラウンドに移った。

トランプ大統領と金正恩朝鮮労働党委員長は非難の応酬を控える一方で、「平和構築」と「非核化」の手順をめぐり、朝鮮戦争の「終戦宣言」を主張する北朝鮮と「非核化先行」を求めるアメリカとのこう着状態が続く。

第1ラウンドの合意を読めば、トランプ大統領が「平和構築」を「非核化」に先行させることを認めたのは明白だ。合意内容を振り返り、見過ごしがちな「盲点」を探る。

割れた共同声明への評価

南北首脳会談を前に歓迎式典に出席した韓国の文在寅大統領(左)と北朝鮮の金正恩委員長

9月18日に始まった平壌での南北首脳会談を前に歓迎式典に出席した韓国の文在寅大統領(左)と北朝鮮の金正恩委員長。

Pyeongyang Press Corps/Pool via REUTERS

しかし、これほど評価が割れた共同声明も少ない。会談直後、筆者はこのサイトで「北『大勝利』の首脳会談」と書いた。理由はアメリカが要求してきた「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)が盛り込まれなかったこと体制保証と非核化を段階的に進めるとの北の主張が通ったからだった。

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そこでもう一度、米朝共同声明と第1回南北首脳会談後に出された「板門店宣言」(4月27日)を読み返してみよう。

米朝共同声明は次の4項目。少し退屈だが、「盲点」を突く上で重要だから辛抱してほしい。

  1. (平和と繁栄の)新たな米朝関係確立
  2. 持続的で安定した平和体制を築くため、ともに努力
  3. 「板門店宣言」を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島における完全非核化に向けて努力する
  4. (朝鮮戦争の)捕虜や行方不明兵士の遺骨収集と返還

「北朝鮮」ではなく「半島」の非核化

米朝首脳会談での二国間会議を前に並んで座る北朝鮮の金正恩委員長(左)とアメリカのトランプ大統領(右)

6月にシンガポールで開かれた米朝首脳会談後、二国間でこう着状態が続く。

KCNA via REUTERS ATTENTION EDITORS

この4項目とともに重要なのが「前文」である。

「(双方は)新たな米朝関係の確立と、朝鮮半島における持続的で強固な平和体制の構築に関連する諸問題について、包括的で詳細かつ誠実な意見交換をした」

と、会談テーマを説明した。核問題が登場するのはその直後。

「トランプ大統領は北朝鮮に安全の保証を与えることを約束し、金委員長は朝鮮半島の完全非核化への確固で揺るぎのない約束を再確認した」

ここからわれわれが陥りがちな、第1の「盲点」が見つかる。

まず「非核化」とは、北朝鮮による一方的な核廃棄を意味する「北朝鮮」の非核化ではない。重要なのはトランプ大統領も「朝鮮半島」の非核化という北の主張を受け入れたこと。「朝鮮半島」非核化とはどのような意味なのか。明確な定義があるわけではない。

北朝鮮は以前から在韓米軍の役割変更に加え、日本や韓国への「核の傘」の廃棄を「北東アジア非核化」の前提と主張してきた。「北はいずれ日韓への核の傘や、核非拡散体制(NPT)による5大国の核独占と連動させ、北東アジアの非核化を主張してくる」とみる専門家もいる。

平和構築が非核化の前提

米韓合同軍事演習

米朝首脳会談後、米韓合同軍事演習は中止されている。

REUTERS/Kim Hong-Ji

第2の「盲点」は、米朝間の争点にもなっている「非核化」の手順である。前文と4項目合意からは、次のような手順が読み取れる。

  1. 米朝関係の改善
  2. 北に安全保障を与え、持続的で安定した平和体制の構築
  3. それを通じ「朝鮮半島の非核化」を実現

共同声明は、優先順位を明示的に書いているわけではないが、「北への安全保障など平和体制を構築する中で、半島非核化を実現する」がポイント。つまり平和的な環境が整備されなければ「非核化」も進まないのである。

さらに、共同声明の第3は「『板門店宣言』を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島における完全非核化に向けて努力」と書いている。板門店宣言は、

  1. 南北関係の改善・発展
  2. 南北の軍事的緊張緩和
  3. 朝鮮半島の恒久的で強固な平和体制構築
  4. 南北は、完全な非核化を通して核のない朝鮮半島を実現する共通目標を確認

の4つからなる。

3は「南北は休戦協定締結65年となる今年(2018年)、終戦を宣言」し、「休戦協定を平和協定に転換し、恒久的で強固な平和体制を構築するため、南北米3者、または南北米中の4者会談の開催を積極的に推進」すると書いた。トランプ氏も「終戦宣言」を盛り込んだ板門店宣言を再確認し「保証」しているのだ。

こうしてみれば、平和体制構築の第一歩として「終戦宣言」を求める北の主張には十分理があるとみるべきであろう。

「奇妙な平和」が保たれている

2つの「盲点」を自覚すると、一連の会談への見方も変わるはずだ。会談の成否を直ちに「北の非核化」の進展に求める思考から自由になりたい。平和体制の構築によって、北の核・ミサイル開発で緊迫化した軍事的緊張を緩和し、敵対関係による「軍事的脅威」を減らせる。非核化はその先の長いプロセスである。

「軍事的脅威」とは「軍事能力と意思の掛け算」である。アメリカが5000発の核弾頭を持っていても、日本を攻撃する意思はないと考えられるから、日本にとっては脅威ではない。だが「金斬首作戦」まで計画していたアメリカは、北にとっては深刻な脅威である。

トランプ氏はシンガポール会談の直後「北朝鮮の核は脅威ではなくなった」とツイートしたが、これは軍事的脅威の本質を突いている。軍事的対抗ではなく、外交によって脅威はなくすことができることを教えているのだ。「北朝鮮と中国の脅威」を理由に、軍事力強化路線を歩む安倍政権も見習ってはどうだろう。

米朝会談後、北は核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)実験を凍結し、アメリカも米韓合同演習を中止した。朝鮮半島では戦争の危機は遠のき、「奇妙な平和」が保たれている。これが永遠に続く保証はなく、「終戦宣言」をはじめ平和体制構築が必要だ。

だが「核保有」を事実上容認する「奇妙な平和」は、少なくとも昨年の戦争の危機よりましである。


岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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