エストニア視察の日本企業が急増。「とりあえず」視察は社員の福利厚生にしかならない

前回、前々回とエストニアの生活面についてレポートしてきたが、今回はエストニアのビジネス的な側面に着目していく。といっても、具体的な注目企業やインキュベーション動向などは調べれば出てくるので、もう少し大きなくくりでの話をしたい。

先日、アイルランドのカンファレンスに出席した際、知り合いになったイギリス人に、呆れ気味にこう言われた。

「来週日本に出張に行く予定なのでネットワーキングをしようと思って、いろいろな会社に連絡しているんだけど、だいたい対応は2パターン。無視か、一度返信があってそのあと無視かのどちらかだよ」

「すみません」と私が謝るのも変な話なので、「日本は何を話すかじゃなくて、誰が話すかが大事な国だから」と答えた。

知らない人の「面白い話」より知っている人の話

ダブリン(アイルランド)のカンファレンス後の交流会の様子

ダブリン(アイルランド)のカンファレンス後の交流会の様子。

撮影:Baroque Street

ビジネスにおいて“一見さんお断り”というのは、きっと日本に限った話ではない。どこの国でもブランドのある会社はなかなか会ってくれないし、むしろ日本よりドライな国も多い。けれども、決定的に違うのは会う目的を明確にさせる習慣があるかどうかだと思う。

日本だと顔見知り、もしくは知り合いの紹介だと「とりあえず会いましょう」、そうでなければ基本的に無視というケースが多い。

一方、その他の欧米諸国や中国、インドなどの交渉慣れしている国では、基本的に会う前にアジェンダを要求されるし、ミーティングに入ってもダラダラと無駄話はせず、お互いに何ができるかという話が中心となる。だから我々のように全くヨーロッパで無名の会社でも、アジェンダが合理的であれば会ってもらえる可能性はあるし、実際にそうだった。

おそらくイギリス人の彼も、メールにいろいろと会う目的を書いて送ったのだろう。業界ではそこそこ名の知れた会社で、わざわざイギリスから日本に来てくれるのだから、客観的に見てどの会社もそれなりに会って話す価値はあるはずだ。それでも返信がないというのは「関心がない」「怪しいと思っている」というよりも、「どう対応していいのか分からない」というのが本音の部分だろう。

知らない人の面白い話より、知っている人の面白いかどうか分からない話を選び、着々とビジネスの種を潰しているように感じてならない。それでも経済が十分に回るくらい大きな日本語マーケットができているというのが、日本の強みであり、弱みであるのかもしれない。

ズカズカと相手の領域に踏み込む日本企業

一方で、2018年に入ってから、エストニアへ視察に来る日本の会社が急激に増えたらしい。あまりに日本の会社の視察が多いので、最近はその視察を仲介するようなビジネスまで出てきている状況だ。

具体的なビジネスの話をするわけでもないのに見学に来る日本人が多すぎて、現地の企業が困っているという話も一部で耳にした。外部からのコンタクトに関しては、基本的に受け付けないのに、自分たちは土足でズカズカと相手の領域に踏み込む。そういったダブルスタンダードは今のところ大きな問題になっていないが、グローバル化が進むにつれて徐々に表面化してくるかもしれない。

ブロックチェーン関係の会社が多数在籍するエストニアのオフィスビル

ブロックチェーン関係の会社が多数在籍するエストニアのオフィスビル。

撮影:Baroque Street

これまでの連載でも述べてきたように、エストニアは非常に小さな国である。日本や中国のようにローカル言語だけでビジネスが成り立つほどマーケットが大きくないし、ヨーロッパの中で地理的に有利な位置にあるわけでもない。英語は他のEU諸国と同様に流暢に話せるが、スイスのように多言語国家でもない。平均賃金も日本の半分程度。今でこそ、IT国家のイメージが強いが、一般の人の暮らしは質素だ。

つまり、エストニアに行っても近未来を想像させるような分かりやすい何かは落ちていないし、アメリカやイギリスの一流大学のように若き天才がゴロゴロいるわけでもない。

割合としてはITが多かったり、一部で特異的な面白さはあるのかも知れないが、暗号通貨に関しても、ブロックチェーンに関しても、IT全般に関しても、この場所から世界のトレンドが生み出されているということはない。

ITはやはりアメリカだし、金融はスイスやロンドン、ブロックチェーンに関してはそこにドイツやロシアなども加わるというのが世界的なトレンドだと考えている。

そういった意味で本当に世界のITの進歩を見たいのであれば、とりあえず近場の深センに行くべきだし、ブロックチェーンについて知りたければ、まずはベースとなる知識を自分で勉強するべきだ。エストニアで行われていることはもっとスペシフィック(特徴的)で尖ったアイデアベースの話だし、そこまで踏み込んだ議論に関心がある人がそれほど多いとは思えない。エストニアに来たいだけであれば単に旅行として来れば良い。

ブロックチェーンに興味があると言ってエストニアに来た人の中で、一体何割の人がビットコインの論文を読んだことがあるのだろうか。

視察旅行は社員をリラックスさせる福利厚生?

深セン工科大学に展示されているロボット

深センの南方科技大学に展示されているロボット。

撮影:Baroque Street

個人的には企業の視察を批判したいわけではない。

大企業は内部留保を膨らませるくらいなら、そのお金を使ってどんどん視察に行かせるべきだし、それが一種の投資になっていると思う。持ち帰ってきた情報自体の価値は少なくとも、社員にとってはいいリフレッシュや刺激になるはずだし、語学力や知識量の圧倒的な差を肌で感じることもできる。

旅行気分で視察をできる国はおそらく日本くらいなので、本気で案件を詰めに行く「商談」と、お金を払って気楽に見学させてもらう「視察旅行」の二つに割り切って、後者を会社の福利厚生の一環と捉えてはどうだろうか。

何より、そうやって視察の波ができることによって一番得をしているのは、エストニアなのである。日本人がたくさん来ているという状況自体に価値が生まれているのだ。

それではエストニアはどう得をしているのか。これについては次回レポートしていく。

(文、福島健太)


福島健太(Kenta Fukushima):株式会社Baroque Street代表取締役CEO。京都大学農学部卒。都市銀行、システムエンジニア、国立大学特別研究員を経て、仮想通貨に特化したシンクタンクであるBaroque Streetを設立。現在はエストニアに拠点を移し、仮想通貨プロジェクトのリサーチに従事している。

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