10万円超の価値は? 「iPhone XS Max」最速実機レビュー—— カメラ機能の凄さは性能表にはあらわれない

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左から、iPhone XS Max・iPhone XR・iPhone XS。サイズはきれいに3つ並ぶ。今回は両サイドの2製品の実機レビューだ。

先週発表されたばかりの新しいiPhone「XS」「XS Max」が9月21日から発売される。従来に比べ、かなり価格が高くなったことで、購入をためらっている人も多いようだ。

2017年発売のiPhone Xと、今回発売されるXSの最安モデル(64GB)のSIMフリー版価格は同じだが、今年は大画面版「XS Max」がある。

レビューのために一足先に実機を触っている私でも「高い」と思う。だが一方で、「高いが、価格に見合う、長く使えるiPhoneになっている」とも感じる。

その変化点はどこなのか? 前機種であるiPhone Xとの比較も含め、最速レビューで見ていこう。

極めて品質の高い有機ELディスプレー、音質も大幅改善

iPhone XSとiPhone XS Max

iPhone XS(手前)とiPhone XS Max(奥)。ディスプレイサイズ以外は同じ性能を持つ兄弟機だ。

今年秋のすべての新機種より、iPhoneからはホームボタンがなくなった。昨年発売された「iPhone X」でスタートした路線だが、今年からはこのデザインが基本になる。iPhone Xと同じサイズ・同じデザインを踏襲する「iPhone XS」はもちろん、6.5インチという大画面を採用する「iPhone XS Max」も同じテイストだ。

顔認証に使う、画面上部にある「TrueDepthカメラ」の構造も同じなので、認識精度はそのままだが、一方で、画面上部にあるディスプレイの切り欠き(通称「ノッチ」)の大きさも変わっていない。写真だけを見ると、XSかXS Maxか、一瞬判断がつかないくらい似ている。実際、プロセッサーの性能もカメラの性能も、XSとXS Maxはまったく同じ。違うのは「ディスプレイの大きさだけ」だ。

iPhone XS Max

iPhone XS Max(ゴールド)。6.5インチという大型のディスプレイが目をひく。ただし、サイズ的には「iPhone 8 Plus」などとほぼ同じで、ホームボタンがなくなったぶん、画面が広くなった。

iPhone XS

こちらは、上とは違ってiPhone XS(ゴールド)。いかにXS Maxと似ているかがよく分かる。5.8インチのディスプレイを搭載。ボディサイズやデザインは、昨年発売の「iPhone X」とまったく同じだ。ただし中身は、今年に合わせて強化されている。

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iPhone XS Maxの背面。昨年モデル同様非接触充電(Qi)に対応しているので、バックパネルはガラスだ。

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XSシリーズのサイドはステンレスフレーム。ゴールドも、金と真鍮の間のような上品な光沢に仕上がっている。

とはいえ、実物を手にしたときの感想はまた別だ。昨年iPhone Xを手にした時も「画面が大きくなった」と感じたものだが、XS Maxはさらにインパクトが大きい。

これは、動画視聴において決定的な差になる。X・XS・XS Maxで使われている「有機ELディスプレイ」の品質はほぼ同じのようだが、あいかわらず画質が良い。「HDR10」「Dolby Vision」に対応した映画の表示に対応しているが、コントラスト・色域ともにスマホとは思えないくらい良い。特に、6.5インチのXS Maxは迫力がある。

同時に音質も向上している。左右方向への空間的な広がりが増しているのだが、それだけでなく、精細感も高い。映画の台詞やパーカッションの細かな音までしっかり聞こえてくる。ある意味、オーディオビジュアル的なインパクトが、もっとも分かりやすい変化だ。

「背景ボケ」の強化の裏側にある「マシンラーニング」の技術

iPhone XSボケ機能

「ボケ」の後調整の様子を動画で。かなり範囲が広く変えられるが、ボケの具合はあくまで自然だ。特に被写体が人間の場合に有効である。(以下モデル:Caoさん)

iPhoneは新製品が出るたびにカメラ画質をウリにしている。スマホでもっとも使われる機能がカメラであること、性能を活かした変化をもたらしやすい部分がカメラであること、なにより、多くの人が「高画質なカメラを搭載したスマホ」を求めていることが理由だ。

iPhoneXS

iPhone XSの公式サイトより。

出典:アップル

XSシリーズは、先日の発表会においては特に「ポートレート」に力を入れた説明を行っていた。

ポートレートでは、写った人の背景が「ボケ」ているものが多い。背景の「ボケ」をいかに美しくするかは、このところのスマホカメラのトレンドだ。2016年の「iPhone 7 Plus」でポートレートモードを導入以降、アップルもその路線だった。

ただ、これまで「ボケ」の状態は決め打ちだった。写真における「ボケ」は、焦点距離・F値・被写体までの距離などで決まるが、そうした部分が固定だったので、ボケの雰囲気はいつも同じだったのだ。他社では撮影後にボケの状況を変えられるスマホも登場しており、アップルは後追いになった形だ。

XSシリーズでのポートレートモードでは、ボケの調節を撮影後に行えるようになった。しかも、ボケ味は他のスマホより自然な印象がある。スマホでの「背景ぼかし」は、被写体の輪郭が不自然に切り取られがちだが、XSシリーズの機能は、それがかなり緩和されている。特に人間が被写体である場合には、不自然さが小さい。

以下でiPhone XとXSの作例を比較してみよう。

iPhone XSの自撮り

iPhone XSでの「自撮り」。ポートレートモードによるボケがかなり自然な感じになっている。

iPhone Xのポートレートモード

iPhone Xでのポートレートモード。ボケは比較的自然なのだが、こちらは後調整ができない。

iPhone XSのポートレートモード

iPhone XSで、あえて最大まで「ボケ」を強くしてみた。iPhone Xとの差に注目。一方で、両腕と体の間の部分はうまく背景判別ができていないことも分かる。

これは、XS/XS Maxに搭載されているアップルの最新プロセッサー「A12 Bionic」がマシンラーニング(機械学習)に関する機能を大幅強化しており、その部分を活かして処理が行われているためだ。

機能としてはあくまで「ボケの調整」であり、「ピントが合う場所を変えられる」わけではない点に留意しておきたい。他メーカーのスマホでは「ピントが合う場所を変えられる」実装のものもあるが、iPhone XSシリーズのカメラアプリは、そういう実装になっていない。サードパーティー製アプリを使えば、似たようなことはできるようになるだろう。

「失敗写真」が大幅に減るスマートHDRの実力

iPhone XS

iPhone XSで撮影。撮影場所は米アップル本社にある「Visitor Center」という場所。室内と窓の外の明るさが違い、けっこう難しいシチュエーションだが、XSはワンショットで失敗なく「見た目の印象通り」の風景が撮影できている。

iPhone Xで撮影

iPhone Xでの撮影。ガラス越しの遠景の表現がまったく違う。

だが、iPhone XSシリーズで大量の写真を撮ってみて、筆者が本当の意味で驚いたのは、実は「ボケ」ではなかった。

驚くほど「失敗写真が減っている」ことだ。

次の写真は、同じ場所でiPhone XとiPhone XSを使い、「なにも設定せず、シャッターを切った」写真だ。窓の向こうと室内の明るさの違いからうまく調節ができず、窓の外が白く飛ぶ……という失敗は多くの人が経験している。これが、驚くほどきれいに撮れる。

夜景も同様だ。小さいが鋭い光が集まった場所で調整がうまく行かず、ディテールがつぶれて「光の塊」になってしまうことがある。これも、調整して何枚か撮影すればなんとかなる。だが、XSなら「ワンショット」だ。

iPhone XSの夜景撮影

東京駅の夜景。iPhone Xでは東京駅やビルのライティングが塊になってしまいディテールがつぶれているが、XSではきちんと精細に描かれている。

iPhone Xの夜景撮影

こちらはiPhone Xでの撮影例。左奥の高層ビル最上階付近の光の表現を見ると、違いが特に分かりやすい。

iPhone XSでの夜景撮影。

こちらも夜景。iPhone Xは比較してみると、照明の色合いが寒々しく、ディテールが暗くつぶれている。XSの方がその場の雰囲気には近い。

iPhone X

iPhone Xでの夜景撮影。

XSはとにかく、どこでもワンショットでかなり「見た目のイメージに近い」写真になる。曇天でも全体がかすむことはないし、夜景が必要以上に寒々しくなることもない。

「写真が上手い人が持っている能力」をiPhone自体が持っているように思える。だから、「1ショット」でも失敗が少ない。特に、逆光や室内、夜間などの条件が厳しいところで有効だ。

これは、XSに搭載された「スマートHDR」という機能の効果だ。

従来からある「自動HDR」の発展版だが、驚くほど効果的だと感じる。カメラのセンサーも、低照度下でのノイズ耐性や撮影速度が改善されているようだが、そこにマシンラーニングの力が加わることで、より信頼性の高い機能になっている。

こうしたソフトウェア的な変化は、スペックシートを見ているだけでは分からない。

完成度高いiPhone XSシリーズは「買い」なのか?

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このマシンラーニング性能の強化こそが、iPhone XSシリーズの命だ。

カメラはその事実をよく表している。けれども他の機能では、まだマシンラーニング性能の実力は、はっきりとは見えてこない。AR(拡張現実)アプリの動作は速くなり、位置合わせの精度なども上がっているが、ARアプリ自体がまだ少ない。ARの魅力だけでXSを買う、というのは厳しいだろう。

2つの携帯電話回線を1台のiPhoneで同時に待ち受ける「デュアルSIM」機能も魅力なのだが、こちらの利用にはOSのアップデート(年内を予定)が必要である上に、日本の携帯電話事業者は、まだ対応予定を公表していない。それらの状況が見えるまでは、デュアルSIM 機能については評価しづらい。

では、多くの人にとって、iPhone XSとXS Maxは「買い」なのか?

ディスプレイとカメラの進化は、iPhone XS、特にiPhone XS Maxの大きな魅力だ。一度触ると、その差の大きさに驚かされる。

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来月発売になる普及価格帯モデルの「iPhone XR」。

一方でスマホの中では相対的に価格が高く、「今すぐに買うべき」と言いづらいのも事実だ。来月末には、若干安価で性能はかなり似通った「iPhone XR」も出る。XRとXSシリーズを天秤にかけて悩んでいる人は、マシンラーニングを活かすアプリが増え、デュアルSIMが使えるようになってから判断してもいい。

いずれにしろ実機を触って言えるのは、iPhone XSは「2、3年は確実に、満足して使える製品だ」ということだ。

すぐに買って長く使ってもいいし、しばらく買うのを待っても、そうそう陳腐化する製品ではない。PC市場がそうなったように、スマホの買い換え期間が長期化していく傾向を思わせる、完成度の高いスマホであるのは間違いない。

(文、写真・西田宗千佳)


西田宗千佳:フリージャーナリスト。得意ジャンルはパソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主な著書に『ポケモンGOは終わらない』『ソニー復興の劇薬』『ネットフリックスの時代』『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』など 。

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