Jeramey Lende/Shutterstock.com
大手小売業者の中で、ドローン宅配の実現に最も熱心なのは、アマゾンだ。しかし、気象情報提供サービス企業のThe Weather Companyのデータを分析した結果、ドローン宅配で有利に立つのは、店舗ネットワークが豊富なウォルマートとターゲットであることが分かった。
eコマース業界でリードを広げるために、ドローン宅配を重要な戦略に位置付けているアマゾンにとって、これは無視できない事実と言える。オンラインショッピングの常連客を引き付けるために、無料かつ迅速な配達は極めて重要だ。2015年のARK Investment Managementの分析によると、ドローン宅配の導入によって、アマゾンはガソリンや人件費を大幅にカットでき、1件当たりの配達コストを1ドル以下に抑えられるという。
オンライン購入の決め手となるサービスランキング:上から無料配達88%、翌日配達69%、返品無料68%、即日配達49%、店舗返却44%。
BI Intelligence
アマゾンはeコマース領域でウォルマートとターゲットを大きく引き離している。2社ともそれなりに成長しているが、が、急成長とまでは言えない。
- アマゾンの昨年のオンライン売上高は960億ドル(約10兆4300億円)を超えた。
- ターゲットの昨年のオンライン売上高は、全体のわずか4%ほどの31億ドルだった。
- ウォルマートはオンライン部門の売上高を開示していないが、Internet Retailerの推定によると、2015年は売上高全体の3%にとどまる137億ドルだった。
ウォルマートの売上高は2017年1月締めの前期にたった0.8%しか伸びなかった。ターゲットの2016年の売上高も前年比0.9%増にとどまった。一方、アマゾンの小売部門の売上高は対前年比25%近くも増加した。
オンライン総売上高(10億ドル単位)上から順にアマゾン、ウォルマート、ターゲット
BI Intelligence
ウォルマートとターゲットがドローン宅配で利益を獲得し、アマゾンの先進的テクノロジーに対抗するための鍵は、膨大な店舗数だ。
300万人を超えるウォルマートとターゲットの利用者をカバーするThe Weather Company の分析によると、従来の小売業店舗の幅広いネットワークが、ドローン配達においてアマゾンよりも有利に働くという。
全米ウォルマートのドローン宅配利用者予想(横軸は店舗からの距離)。ドローン宅配は最長6マイル(9.7km)まで配送可能。The Weather Company, 2017 (調査人数284万人)
BI Intelligence
その理由は、ドローンの飛行可能距離の短さにある。ウォルマートとターゲットの利用客の大部分は店舗の近くに住んでいるが、アマゾンの場合、配送センターの近くに住んでいる利用者はそんなにいないだろう。
- 2017年第1四半期中に全米のウォルマート店舗に足を運んだWeather Company アプリユーザーの約49%が、ドローン宅配が可能である6マイル圏内に住んでいる。そして、1回の買い物における購入額の15.1%が10ドル以下だという。これらの買い物の大部分はおそらくドローン宅配が可能だろう。
- また、同期間中に全米のターゲット店舗に足を運んだWeather Company アプリユーザーの47%が、同様にドローン宅配可能圏内に住んでいた。さらに、買い物1回における購入額の14.6%が10ドル以下だった。
- アマゾンは「アメリカ人の44%が配送センターの20マイル圏内に暮らしている」とするが、ドローンにとっては遠すぎる距離だ。実際、アマゾンがイギリスでテストしているモデルの飛行可能距離が往復15マイルで、ドローン宅配の実現には配送センターの増設などが必要になる。
全米ターゲットのドローン宅配利用者予想。The Weather Company, 2017 (調査人数101万人)
BI Intelligence
ウォルマートとターゲットにとって、店舗発ドローン宅配はオンライン売り上げを伸ばし、アマゾンとの差を埋めるための心強いツールになり得る。 しかし、店舗の大規模なリフォームやドローン宅配担当スタッフの新規雇用・育成など、大きな課題は残ったままだ。イギリスでのテストで、アマゾンは従業員がドローンに荷物を積載できるよう、配送センターを改造し、ドローンの施設内交通ルートを作らなければならなくなった。さらに、小売りチェーンの両社はドローン宅配開始に際して在庫管理方法を見直さなければならない。オンラインで購入した商品を店舗で受け取れるようにしたばかりに、在庫はあるのに店舗では購入できないという矛盾が発生している小売業者がすでにいるからだ。導入コスト、利用者の反応、そして法規制など、ドローン宅配実現への壁は多く残る。
しかし、これらを全て乗り越えられれば、ウォルマートとターゲットにとってはドローンがオンライン売上高を劇的に伸ばす武器になるだろう。膨大な店舗網を有効活用すれば、アマゾンの独走に待ったをかけ、追撃の一手になるかもしれない。
source:The Weather Company、 ARK Investment Management
[原文:How Walmart and Target can top Amazon on drone delivery (WMT, TGT, AMZN)]
(翻訳:近松瑛真)