白血病だった私がベンチャーで食品ロス解決に挑む理由

恵方巻き

大量の廃棄が問題視される恵方巻き

出典:shutterstock

先進国でもっとも食料自給率が低いにも関わらず、大量の食料廃棄国となっている日本。

食べられるのに廃棄される食品、「食品ロス」(フードロス)の量は年間約646万トン。この量は世界全体の食料援助量約320万トン(2015年WFP推計)の約2倍に相当する。

2015年の国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)のターゲットの一つに「2030年までに世界全体の一人あたりの食料の廃棄を半減させること」が盛り込まれるなど、世界的にも対策が進められているが、日本においてもこうしたフードロスの問題を解決しようと、食料が余ったお店とユーザーをつなげるフードシェアリングサービス「TABETE」が2018年4月にリリースされた。

なぜフードロスの問題に取り組もうと思ったのか、TABETEを手がけるコークッキングCOOの篠田沙織さん(23)に話を聞いた。

フードシェアリングは双方にメリット

TABETE

2018年4月にウェブ版をリリースし、8月にiOS版をリリースしたTABETE。

出典:TABETE

TABETEの仕組みはシンプルだ。

TABETEに登録しているお店は賞味期限や閉店時間が近づいて、廃棄が予想される商品をTABETE上に掲載。TABETEのユーザーは掲載されているメニューの中から欲しい商品を選び、クレジットカードで決済。あとは時間内にお店に行って受け取るだけ。

お店は発生したであろうフードロスを減らし、売り上げにつなげることができ、ユーザーは通常の商品より安く購入することができる。TABETEはお店から売上の35%分を手数料としてもらう。

2018年4月のリリースからまだ半年も経っていないが、ユーザー数は4万5000人を超え、登録店舗数は都内を中心に220店舗を超える。

TABETEたから五反田店

たから五反田店では廃棄が予想される材料を使ってTABETE用にメニューを作っている。

出典:TABETE

現時点では、ユーザーの7〜8割は一人暮らしの働く女性。夜遅い時間にファーストフードを食べたりコンビニでお弁当を買うよりも、安く「手作りのものを食べたい」というニーズが大きいという。

一方、売り上げの35%分の手数料というのは少し高く感じるが、そこには理由があると篠田さんは話す。

「TABETEは、あくまで余ってしまった料理を提供することにより、フードロスを解決するサービス。35%の手数料は、人件費や原価をカバーしつつ、ロスではない正規品が出品されることを防ぐために設定させて頂いています」

それでも、本来はただ廃棄していたお店にとってもメリットは大きく、TABETEの理念に共感し導入を決めた、和風鶏居酒屋「たから五反田店」の広田健店長は、「今まで(食べられるのに)廃棄されていたものを『美味しい』と言ってもらえて、TABETEをきっかけにお店を知ってもらうこともできる。初期投資もなく、メリットしかありません」と語る。

白血病で食事の重要さに気づく

2018年8月には家入一真さんが共同代表のNOWをはじめ、6社から数千万円を資金調達し、サービス拡大を目指すTABETE。CEOの川越一磨さんと始めたサービスだが、その大きなきっかけの一つが篠田さんの原体験から来ている。

篠田沙織

自分だからこそ解決できるような問題に取り組みたいと語る篠田さん。気軽に社会貢献できるのも、ユーザーがTABETEを利用している理由の一つだという。

篠田さんは小学2年生の頃に白血病にかかり、1年半入院。

「たまに外泊で食べられる親のご飯がすごくおいしくて、退院してからは自分で料理したり食に興味を持つようになった」(篠田さん)

その後、大学生の頃にカフェでアルバイトし、その時に閉店間際のお客さんにも商品を選んでもらえるように「捨てる前提」で食品を発注している現状を知り、フードロスに興味を持ち始めたという。

「食べたいのに食べられない時期があったので、そういう現状に怒りを覚えた」(篠田さん)

食×ITで日常に根付くサービスを提供できないか。そう考え、まずはベンチャーで事業の立ち上げを勉強しようと、Rettyでインターン。その後、デンマーク発の世界最大のフードシェアリングサービス「Too Good to Go」を日本でやろうと起業を考えていたが、同じ問題意識を抱えていたコークッキングCEOの川越さんと知り合い、一緒にサービスを始めることに決めた。

白血病は完治しない病気。体力的にはきついベンチャーで働くことに対して、親など周りは心配したと言うが、本人は「入院している時に他人からもらい続ける生活が続いて、社会に貢献したい思いが強い」と語る。

「国民の意識が変わらないと改善しない」

shohisha

年代が上がっていくにつれて、フードロスの認知度は上がっていく。

出典:消費者庁

日本においてもフードロスの認知度は徐々に上がり、2018年3月27日に消費者庁が発表した調査によると、消費者のフードロス問題の認知度は7割以上にのぼる。

しかし、2015年のフードロスの量は、2014年の約621万トンから約646万トンに増加するなど、なかなか改善に向かっていない。

なかなか削減されない理由について、「日本においては商習慣が大きな原因。食料の衛生面に対して、国民の意識が(過度に)厳しい」と全国フードバンク推進協議会事務局長の米山広明さんは指摘する。

日本では「3分の1ルール」という、生産→納品→販売で賞味期限を3分割し、それぞれ期限を過ぎると、返品や廃棄処分となる日本独自の商習慣も存在する。

こうした現状に対し、国も対策を急ぐ。

先の通常国会では、最終的には立法に至らなかったが、公明党を中心に、国や地方自治体、事業者、消費者の責務を明記した「食品ロスの削減の推進に関する法律案」が作られ、フードロスの削減を推進しようとしている。

TABETEのサービス開始と同じ2018年4月には、月額定額で余った食品をテイクアウトできる「Reduce Go」がリリースされ、フードロス削減に向けてサービスも広がりを見せる。

根本的には消費者の意識改革が必要。今後は消費者の意識を変えるために積極的に情報発信していきたい」(篠田さん)

(文、写真・室橋祐貴)

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