大企業を辞めて「社会に価値を生む」に賭ける——ヤマガタデザイン作った32歳が目指すもの【NEW CAREER, NEW LIFE01】

自分なりの「正しさ」や「納得感」を大切にするミレニアル世代。彼ら特有の価値観・感性が、これまでの常識や固定観念に縛られない新たなビジネスや、オンとオフがボーダレスにつながる、今までにない働き方を生んでいる。彼らが大事にするのは、働くこと、生きることを通して社会に価値を生むことだ。

言わば、正解がない時代を自分らしく「Lifegenic」に生きる先駆者。そんな「NEW CAREER,NEW LIFE」を体現する1人は、ヤマガタデザイン代表の山中大介さんだ。

around30の転入者数が増えている

「SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE」

ヤマガタデザインが手がける「SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE」からは美しい田園風景が一望できる。

東京・羽田空港から飛行機で約1時間、美しい田園風景が広がる山形県庄内地方に移住する若い子育て世代が増えている。

庄内地方では、毎年1000人前後の山形県外への転出超過が続く一方、2009年以降、25〜34歳の若い世代の県外からの転入者数が転出者数を上回る傾向が続いている。

その庄内地方でまちづくりを行うヤマガタデザイン代表の山中大介さん(32)は、当時2歳の子どもと妻がいながら、三井不動産を退職し、庄内地方に移住。

なぜ安定した大企業を辞めてまで、見知らぬ土地に移住したのか。ヤマガタデザインが運営する木造建築のホテル「SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE」を訪れて山中さんに話を聞いた。

「完全地域主導型」のまちづくり

「KIDSDOMESORAI」

2018年11月にグランドオープンを予定する「KIDS DOME SORAI」。地下には「ものづくりラボ」が用意される。

出典:ヤマガタデザイン

「SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE」が位置する鶴岡サイエンスパーク。21ヘクタールという広大な土地のうち、14ヘクタールの開発を手がけるのがヤマガタデザインだ。

2014年に創業した時の資本金はわずか10万円だったが、今では地元の企業を中心に、約40社の民間企業から約23億円もの「出資」を集め、ホテルや0〜12歳の子どもを対象とした全天候型の子ども施設「KIDS DOME SORAI」などの開発を進めている。

ヤマガタデザインがユニークなのは、その資金調達の仕方にある。

一般的には、銀行から返済期限を決めた「融資」を受けるが、ヤマガタデザインは銀行が株式を購入する形、つまり「出資」を受けている。ヤマガタデザインが上場すれば株式を売却し、利益を得ることができるが、ヤマガタデザインは上場を目指していない。

にも関わらず、出資で資金を集めたのは、地域のみんなでリスクを背負い「当事者意識」を生むためだ。

融資であれば、短期的な利益にはつながるが、長期的に、もし庄内地方が衰退すれば、銀行や民間企業も顧客がいなくなってしまう。そのため、出資という形で地域全員がリスクを背負い、まちづくりに取り組むのが重要だと考えた。

ヤマガタデザインは地域みんながリスクを取ってチャレンジをするための箱。今どれだけリスクを背負ってチャレンジできるかで、長期的な発展が大きく変わってくる」(山中さん)

ヤマガタデザインの社員は現在70人ほどいるが、その半数近くが移住者。採用条件の一つが、住民票を庄内地方に移すことだ。山中さんも家をフルローンで購入し、「当事者」となることで、地元の人々からの信頼を獲得した。

社会にどれだけの価値を生めるか

サイエンスパークには慶應義塾大学先端生命科学研究所やバイオベンチャーが集まる。

サイエンスパークには慶應義塾大学先端生命科学研究所やバイオベンチャーが集まる。

もともとは、山中さんにとって縁もゆかりもない庄内地方。その土地への移住を決めた大きなきっかけの一つが、同じくサイエンスパーク内に位置するSpiber(スパイバー)の共同創業者である関山和秀さんと菅原潤一さんとの出会いだった。

関山さんと菅原さんは、自分と同世代にも関わらず、すでに大きな価値を社会に与えようとしていて、自分も負けたくないと思ってこの土地に来た

Spiberは、タンパク質から人工クモ糸を開発し、「素材革命」を起こそうとしているバイオベンチャー。

2013年に知人の紹介で庄内地方を初めて訪れていた山中さんはSpiberへの入社を決めて、庄内地方に移住。入社後わずか2カ月後にはサイエンスパークの民間主導での開発を求める周囲の期待に応える形でヤマガタデザインを創業したが、今もサイエンスパーク内のベンチャーらと交流を重ねる。2001年に長期的な目線で新たな産業を生み出すことを目的にサイエンスパークが作られたが、今ではベンチャー6社で400人以上が働いており、その7割は庄内地方以外から来た研究者ら。家族を含めると、転入者数はさらに膨らむ。

「社会とは何か」を考えた大学時代

ヤマガタデザイン代表の山中大介さん。

ヤマガタデザインでは庄内地方に住む上で必要なものをすべて自分たちで作ろうとしている。そのやりがいに惹かれて、県外からのヤマガタデザインに人が集まる。

「社会のために生きたい」

そう考える人は少なくないかもしれない。しかし実際には、家族の生活や将来の不安から、なかなか現状の生活を大きく変えてまで行動できる人はいない。特に、「将来が安泰」な大企業に勤めていれば、その一歩はさらに重くなる。

山中さんが三井不動産を辞めるときにも、奥さん以外の家族や会社の同僚からは反対の声もあったという。

それでも、「自分自身が世の中にどれだけ価値を生めるのか、トコトン試してみたい」という強い思いから退職を決意。

山中さんが「社会に与える価値」について考えるようになったのは、大学時代。高校まではサッカーに没頭し、スポーツのことばかり考えていたが、大学に入るときに、「スポーツのない社会人生活」を想像し、「社会とは何か」「なぜ働くのか」について興味が湧き、大学でアメリカンフットボールをやりながら、本を読み始めた。

そこで出合ったのが、のちに山中さんのバイブルとなる『最後の授業 ぼくの命があるうちに』という1冊。カーネギーメロン大学で教授をしていた筆者が医者から「余命半年」と宣告され、幼い3人の子どもに残した最後の授業をまとめた本だ。

山中さんはこの本を読んで「人間はいつか死ぬ。だったら、死ぬまでに社会に大きな価値を与えたい」と思ったという。

子育てで重要なのは親が「人生を自分で選んで楽しんでいる姿」

ヤマガタデザイン代表の山中大介さん。

実際の行動に移せるかは、「思い込み」が重要だと語るヤマガタデザイン代表の山中大介さん。

一方、実際に地方に移住するとなると、やはり子育て環境や「不便さ」も気になる。

庄内地方は、庄内空港から羽田空港まで、1日に4本飛行機が通っているものの、新幹線は通っていない。

しかし、今では「二度と東京には住みたくない」という。

満員電車もなくて、通勤は車で5分程度。モノが欲しければネットで買える。車で30分乗れば海にも行けるし、冬はスキー場にも行ける。ご飯も美味しいし、庄内空港に降りた瞬間から空気が東京とは全然違う

庄内地方に来てからさらに2人の子どもが生まれ、5人家族となった山中さん。子育て環境については、自身の原体験から、どんな子育て施設よりも、親が「人生を自分で選んで楽しんでいる姿」が重要だと語る。

「自分が生まれたから、父親が起業のリスクを取ることを止めた、と高校のときに言われてすごいショックを受けた。リスクを背負ってでもチャレンジをして欲しかった。自分は娘たちにかっこいいパパだと思われたい。そのためには、人生を自分で選んで楽しんでいる姿を見てもらうのが一番大事だと思っています」

そうこちらをまっすぐ見つめながら話す。山中さんにとって、自分らしく「Lifegenic」に生きるとは、「自分の決断をまるごと受け入れ、楽しむ」ということなのかもしれない。


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