「食べて、投稿して、暗号通貨をもらえる」銀座で始まる試みは飲食店の課題を解決するか

シンクロライフ 東急プラザ 銀座

シンクロライフと東急不動産(東急プラザ銀座)が2018年9月21日から開催する「グルメフォトコンテスト」のキャンペーンサイト。

出典:SynchroLife

フジテレビ系「プライムニュースα」(9月15日)で、居酒屋などで最初の乾杯が無料になるアプリ「GUBIT(グビット)」が話題を呼んでいるとの特集が放送された。ユーザーは、月額980円のサブスクリプションで、さまざまな飲食店での乾杯が無料になる。店舗側は1杯分の負担だけで、アプリを利用する多様なユーザーへのアプローチが可能になるという。

なかなか魅力的なアプリだが、実は時を同じくして、こんなプロジェクトが始まる。世界で初めて「良質なレビューへのトークン(暗号通貨)報酬」を実現したグルメSNS「シンクロライフ」が、東急不動産と組んで行う実証実験がそれだ。

参考記事:世界初、トークン活用のグルメSNSが資金調達——シンクロライフ「トークン転換権付株式」導入へ

飲食代金の3%を暗号通貨で還元

シンクロライフ

世界初のトークン報酬システムを導入したグルメSNS「シンクロライフ」のサービス画面。

出典:SynchroLife

シンクロライフは、ユーザーが飲食店での体験をレビューとして投稿できるグルメSNS。人工知能を活用したレコメンドシステムを搭載し、ユーザーのレビューやアプリ活用状況などを独自のアルゴリズムで分析・機械学習させることで、使うほど自分好みの飲食店がオススメされるようになる。

レビュアー数を増やしてデータを積み重ね、より正確なレコメンドを実現するため、良質なレビューの投稿者が報酬としてトークンを受け取り、活動を続けるインセンティブとしてもらう仕組みを、2018年8月に導入したばかり。

今回、東急不動産が運営する東京・銀座の商業施設「東急プラザ銀座」で行われる実証実験は、グルメSNSやトークン報酬の面白さを知ってもらうとともに、飲食店側にもシンクロライフを活用したマーケティング・集客の斬新さを体験してもらうのが狙いだ。

シンクロライフ アプリ

シンクロライフの暗号通貨ウォレットと、シンクロコイン還元時の操作画面。飲食店側は自前のタブレット、スマホで簡単にQRコードを生成できるので、初期投資は必要ない。

出典:SynchroLife

ユーザーはアプリで会員登録を行った上で、東急プラザ銀座内の対象21店舗を利用し、会計時に飲食代金に応じて店舗側の端末で生成されるQRコードを承認すると、代金の3%相当を暗号通貨「シンクロコイン(SYC)」の形で還元してもらえる。受け取る暗号通貨の数量は、シンクロコインの取引(9月25日に上場)が行われている暗号通貨取引所「LATOKEN」での時価を参照して決まる。

また今回の実証実験では、ユーザーが食事後に投稿したグルメ画像を対象とするフォトコンテストも同時に開催する。優秀作品には東急プラザ銀座で使える食事券5万円分や、シンクロコイン5万円分などの豪華賞品が用意されている。

飲食店が使われるほど暗号通貨の価値が高まる

シンクロライフ ビジネスモデル

シンクロライフのビジネスモデル。加盟店から広告費として売り上げの3%を受け取り、ユーザーは加盟店での飲食代金から最低1%の還元を受ける。還元率は店舗側が設定できるようにし、一種の集客ツールとして使ってもらえるようにするという。

出典:SynchroLife

シンクロライフを運営するGINKANの神谷知愛CEOは、飲食店の集客支援を長く手がけてきた経験から、今回の実証実験の意義をこう語る。

「ほぼすべての飲食店が新規の誘客を望んでいますが、これまで限られた費用の中でフリーペーパーやグルメサイトに広告を出しても、思うように客を増やせませんでした。しかし、シンクロライフを導入することで、飲食店は実際に発生した売り上げの一部を(広告費と見なして)還元するだけで集客できる上、レビュー投稿によってSNS上での拡散効果も期待できます」

従来は、広告掲載料やグルメサイトを通じた予約への手数料など、たび重なる出費に見合う効果が得られるのか、飲食店にとって不透明な状況が続いていたが、シンクロライフはユーザーの飲食代金から一定の割合で広告費を受け取る「完全成功報酬型」を採用することで、飲食店の悩みを解決したわけだ。

それにしても、飲食店から受け取った広告費を暗号通貨としてユーザーに還元してしまったら、シンクロライフはどこで事業継続のインセンティブを得るのか。

「実証実験では3%をまるごと還元しますが、実際のサービスでは最低1%(ただし、還元率は店舗が一種の集客ツールとして自由に設定できる)にするため、ある程度は手もとに残ります」

「しかし、それ以上に重要なのは暗号通貨。シンクロライフは飲食店からの広告費を原資として、飲食代金の3%にあたるシンクロコインを暗号通貨取引所から時価で購入し、ユーザーへの報酬に充てます。したがって、飲食店の利用が増えるほどシンクロコインの買い需要が増え、結果として価値形成につながるので、(コインを保有する)シンクロライフやユーザーの資産価値も高まるわけです」(神谷さん)

シンクロコインの総発行量は1億SYCで、将来にわたって順次レビュアーに付与されるのは2000万SYC。それ以外の8000万SYCのうち、7050万SYCは市場で取引され、残りの950万SYCはシンクロライフが保有する。つまり、ユーザーの積極的な飲食店利用やレビュー投稿が増えることで、コインを保有する運営側のシンクロライフもユーザー側も、将来の価値を共有できる。文字通り「三方良し」というわけだ。

暗号通貨への「不信感」は解消されるか

東急プラザ銀座

東京都中央区にある東急プラザ銀座。日本の伝統工芸である「江戸切子」をモチーフにした外観デザイン。ファッション、雑貨、レストランなどがテナントで入る。

Shutterstock.com

コインチェックの不正流出事件などの影響で、世間では暗号通貨への不信感が拭えない状況が続く中、飲食店で食事をするだけで暗号通貨をもらえてしまうというこの大胆なプロジェクトは、実現までに相当なハードルがあったのではないか。

「今年の春、スタートアップ支援プログラム(Plug and Play Japan)の最終審査の段階で、スポンサーの東急不動産の担当者から、私たちの問題意識やサービスアイデアに強く共感した、絶対一緒にやろうという声をかけていただいていました。まだアプリすら完成していなかったにもかかわらず、です」(神谷さん)

東急プラザ銀座の飲食店からも、ネガティブな声はほとんど聞かれなかったという。

「飲食店の店長会議でプロジェクトの説明をさせてもらったのですが、皆さんがぜひやろう、銀座は新しいモノやコトが好きな人たちが集まる街だから、絶対に受け入れてもらえる、と。これほど短い時間で実現にこぎ着けられたのは、関係者の熱意が共鳴した結果だと思っています」

日本仮想通貨交換業協会が9月12日に自主ルールの概要を明らかにし、半年以上も停滞が続いていた日本の暗号通貨市場にもようやく動きが出てきた。業界関係者のみならず、暗号通貨にさほど強い関心を抱いていなかった層をも巻き込んでいくシンクロライフの取り組みが、社会にどんなインパクトを与えるのか、引き続き注目したい。

なお、実証実験の開始は9月21日からの1カ月間。シンクロコインの受け取り、グルメ写真の投稿はいずれも1日2回までとなっている。

(文、川村力)

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