駅の中で大雨、水浸し、停電——なぜ都内の駅は豪雨にもろいのか

2018年の8月〜9月、都内で複数回にわたってゲリラ豪雨が発生した。道路だけでなく、駅構内も冠水したり停電したりし、メディアやネット上で大きな話題になった。

これまでに経験をしたことない短時間の大雨とはいえ、なぜ鉄道のインフラは豪雨に“脆かった”のか。被害が集中した駅を検証した。

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雷雨

2018年8月27日の東京都中心部。27日夜は京王井の頭線が落雷の影響で、渋谷駅が停電。帰宅時間帯に利用を一時停止した。

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8月13日夕方から夜ごろ、渋谷駅近くにあるオフィスの窓ガラスを、雹(ひょう)のような強い音がたたきつけた。しばらくすると、雷が鳴り響き、外を見渡すと、あちこちに稲妻が走っていた。

さらにその2週間後の27日夜、再びゲリラ豪雨が都内を襲った。世田谷区付近で1時間に110ミリという猛烈な雨を観測し、気象庁が記録的短時間大雨情報を発表した。

9月17日、18日に関東で起きたゲリラ豪雨の時も含め、都内の駅では、浸水や停電被害がたびたび発生。京王井の頭線の久我山駅や、小田急線の経堂駅、JR東日本の戸田公園駅などでは、一般の利用者が被害の様子を次々とネット上にアップした。

今回は、これら3つの駅を中心に、被害の原因を調べた。

京王線久我山駅は2度浸水、土地は「すり鉢状」

京王井の頭線の久我山駅は、8月中のゲリラ豪雨(13日・27日)により、出入り口のエスカレーター付近に水が押し寄せ、2度浸水した。現場に行ってみると、「土のうの積み方」という案内が壁に貼ってあり、豪雨の当日も土のうを積んで対策をしていた。

京王電鉄の広報担当者は、久我山駅が浸水した理由を「すり鉢状になっている駅の立地だと考えられる」と説明。止水板と土のうを久我山駅に常備しているという。

井の頭線の渋谷駅では、8月27日夜に停電が発生し、午後8時過ぎから約1時間半、利用を停止した。京王電鉄によると、井の頭線沿線に落雷したものの、車両や線路上、駅舎に落雷はなかった。詳細な場所は現在も特定できていない。

小田急線経堂駅は、掘り下げで1階が周囲より低い

小田急線の経堂駅は、8月27日夜のゲリラ豪雨で雨漏れや浸水が発生した。

小田急電鉄によると、27日午後8時半〜午後10時ごろに駅の施設が冠水し、利用客が退避した。冠水の原因は、「経堂駅は1階部分を掘り下げてあり、ロータリーや周りの道路の方が高い位置になっている」と高低差のある地形の影響により、雨水が流入したと説明した。

JR戸田公園駅周辺は下水道がオーバーフロー

9月18日は、JR東日本の戸田公園駅周辺がゲリラ豪雨で冠水、雨漏りの様子が投稿された。

JR東日本によると、「駅周辺の公共下水道がオーバーフローしたため、駅周辺が浸水したものと推定される」。

駅の排水基準は、過去の雨量を参考に

それぞれの駅の排水設備は、どれくらいの雨量に対応しているのか。

例えば経堂駅は、駅構内で大量の雨漏りが発生。一部の住民の間では、なぜ浸水したのか、「考えがたい」という声も聞かれた。小田急電鉄によると、駅施設の排水基準は非公開。「いろいろな排水溝があり、一概に公表するのは難しい」という。

京王電鉄は「明確な基準はありません」と回答。「当該地域の過去の降雨量を参考に設計している」という。

JR東日本は、駅施設の樋や雨水配管の基準について、過去の実績により、地域別の設計雨量を定めている。現在、駅施設を新築する際は、「過去の10分間降雨量の実績により、特別な豪雨を除く、5〜6年に一度くらい現れる程度の降雨量を1時間雨量に換算した値を設定している」。例えば、埼玉県は1時間140ミリ、東京都は1時間120ミリに設定しているという。

経堂駅を管理する小田急電鉄の広報は「ゲリラ豪雨は予想がうまくできず、想定が難しいところがある」と話し、今後も排水施設の点検を強化していくとした。

下水道施設の排水能力は限界

駅構内や駅周辺が冠水する原因の1つに、周辺の下水道施設の関係がある。

東京都下水道局によると、下水道の処理能力は明治期の基準によって設計され、現在、改修が進められている。現在の1時間あたり50ミリに対応する施設は、都内の69%(2015年度末)を占め、2020年度末までにこれを74%にする目標を掲げている。

また新宿駅や渋谷駅、池袋駅、東京駅の一部では、1時間75ミリの雨に対応するように重点的に整備してあるという。

ゲリラ豪雨が発生しやすいエリア

東京管区気象台によると、8月27日のゲリラ豪雨の際、世田谷区で1時間に約110ミリ、練馬区で1時間に74ミリの雨が降った。上記の経堂駅、久我山駅のほか、阿佐ケ谷駅でも、周辺の道路が冠水する様子がネット上にアップされた。

地域的には、東京都心から見て、南西部に集中した。早稲田大学理工学術院の関根正人教授によると、これまでゲリラ豪雨が発生しやすいとされてきたエリアと概ね一致するという。

「相模湾などの海側から流れ込んだ湿った空気が、新宿・渋谷・池袋の高層ビル群にぶつかり、その前面で生じる上昇気流に乗って運び上げられると、豪雨を降らせるような雨雲が形成されることがある。このため、この雨雲が移動する新宿の風下側(西側)の中野区や杉並区、池袋の北側の練馬区や板橋区、さらには埼玉県の南東部では、他のエリアに比べて、ゲリラ型の雨が降りやすいとされてきた」という。

過去の地形図が浸水危険性を知るツール

さらに、関根教授によれば、地形との関係から「東京には意外と高低差があり、谷地形や窪地が存在するため、大きく浸水するところとそうでないところが二極化する」という。特に、久我山駅に関しては、「昔から神田川を近くが流れているため、旧河道にあたる地点では窪地になっている」と、地形の成り立ちが影響しているという。

明治時代

左側は、明治初期から中期の地図。右側は現在の地図。明治の地図によると、久我山駅は神田上水の周辺の水田に位置していた。

出典:農業・食品産業技術総合研究機構

明治時代初期から中期にかけての「迅速測図」(出典:農業・食品産業技術総合研究機構、歴史的農業環境閲覧システム)を見てみると、久我山駅周辺は、神田上水や水田に位置していた。国土地理院の地理院地図を見ても、久我山駅の周辺は、明治期の低湿地に分類されている。

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久我山駅周辺の黄色部分は、明治期の地図から、当時の低湿地に分類され、「水田、田、陸田」だった。現在の土地は、「盛土地・埋立地」(低地に土を盛って造成した平坦地や、水部を埋め立てた平坦地)に分類される。

出典:国土地理院、地理院地図(電子国土Web)

杉並区の洪水ハザードマップ(浸水予想図)を見てみても、久我山駅の周辺は、かつての浸水箇所。明治期の低湿地にある程度、沿うように浸水区域が定められている。

杉並区ハザードマップ

杉並区の洪水ハザードマップ。大雨によって河川が増水し洪水になった場合の浸水予想区域。黄色は、0.2m以上〜0.5m未満。緑色は、0.5m以上〜1.0m未満。水色は、1.0m以上〜2.0m未満。斜線は、実際に浸水のあった箇所(1981年〜2017年)。

出典:杉並区

浸水被害軽減と「早い復旧」を

上記のようなツールは、大雨に備える有効な手段になるが、関根教授は、駅施設の浸水を「今後も完全に防ぎ切るのは難しい」と分析する。「駅構内で傘をささなければならない状況は避けたいところだが、そうでもない限り、被害を完全に封じ込めるような駅構造に変えなければならない、と考えるのは現実的ではない」と話す。

「浸水した水はある程度の時間が経てば、引いていくので、多少の不自由さや不便さであれば、仕方がないとすべきでは。安全と便利さのバランスをうまくとっていくことも必要」との意見を話した。

その上で、「浸水を完全に防ぐというよりは、被害を小さくすること、特に利用者の命は何としても守ることと合わせて、速やかに復旧できるようにすることが大事」と関根教授は強調。「例えば電気系統に障害が出ると被害は長引くので、守るべきところは抜かりなく行うことが大事」として、自家発電機などは浸水しないフロアに置くことを徹底することの重要性を挙げた。

(上記のツイッターの投稿に関する付記:8月27日の豪雨の際、井の頭線渋谷駅では、停電が発生。帰宅時間帯に1時間半、駅の利用を停止した。この時の渋谷駅は、浸水の被害ではないが、関根教授は、渋谷駅のように再開発が進行中の地下空間の場合には、「工事の途上にどういう危険が潜んでいるのか、予測できないところがある」と指摘している)

(文、木許はるみ)

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