ネットフリックス本社を動かした、高すぎる「日本のスマホ視聴比率」 —— 4GBで30時間記録する、超高圧縮規格も開発中

ネットフリックスのアプリ

ネットフリックスは、モバイル分野に大きな投資を行っている。

ネットフリックスは9月24日(現地時間)、プレス関係者にモバイル向けの技術解説を行う「Mobile Labs Day」を米ロス・ガトスの本社で開催した。

ロビーのネットフリックスのトロフィー

ネットフリックスは過去に、コンテンツだけではなくエンジニアリングに関するエミー賞も受賞している。

同社は1997年に創業し、当初はアメリカでネット経由のDVDレンタルサービスを開始。その後、2007年にストリーミングサービスを導入し、2015年に日本上陸。現在では、190カ国以上で1億3000万人以上のユーザー数(2018年7月時点)を抱える世界最大級の月額動画配信サービスに成長している。

そんな同社がコンテンツの制作と並んで、現在最も投資している分野の一つが、スマートフォン向けの顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)の向上だ。

モバイルユーザーは増加傾向、とくに日本では顕著

ネットフリックスのデバイスに関する統計

グローバルと日本で、サインアップ(登録)とその後6カ月間に使われた視聴デバイスの比率。日本はモバイルでの視聴がグローバルに比べて活発だ。

同社の中では依然として、テレビ(スマートテレビおよびゲーム機、テレビに接続するセットトップボックス等)でネットフリックスを鑑賞するユーザーが全世界の約64%と最も多い。一方、スマートフォンで視聴するユーザーは、グローバルでは約13%にすぎない。

キャメロン・ジョンソン氏

ネットフリックス プロダクト・イノベーション担当ディレクターのキャメロン・ジョンソン氏。

テレビとスマートフォンでは、約5倍もの差が開いてはいるが、同社のプロダクト・イノベーション担当ディレクターCameron Johnson(キャメロン・ジョンソン)氏は、「モバイルでの利用は世界的にも増加傾向にある」と話す。

このグラフを見ても明らかなように、日本のユーザーはモバイル偏重が顕著だ。約28%のユーザーがスマートフォンで視聴しており、PCを上回っている。

同社では日本特有の「スマートフォンでの視聴比率が高い」ことに関する調査などに注力し、グローバルでの新機能やユーザーインターフェイスの改善に役立ててきた。

調査活動から“ダウンロード有り”の方針に転換

ネットフリックス アプリ ダウンロード

意外にもネットフリックスでダウンロード機能が提供されたのは日本上陸後だった。

日本からのフィードバックに特に影響を受けた機能と挙げるのが「番組のダウンロード機能」だ。

ダウンロード機能は事前に自宅などのWi-Fi環境で作品を端末に保存しておき、オフライン環境下でも視聴可能にする機能。世界的にも人気の高い機能ではあるが、主に通勤時間にスマートフォンで動画を視聴する日本からの要望は強く、同社はグローバルで2016年に提供を開始した。

実は同社はそれまで「インターネットはユビキタスな環境を提供しており、ダウンロード機能は不要」と発言した幹部もいたほど、ダウンロード機能に関心が薄かった。

しかし、日本をはじめ多くの市場でヒアリング調査などをした結果、Wi-Fiなどを利用して月々のデータ容量を削減したい、通信環境が芳しくない場所でも視聴したいという要望が多いことが分かり、この機能に取り組んだ。

ダウンロード機能の実現には、オリジナルタイトル以外の配信契約のやり直しも必要だったというから、ネットフリックスとしても思った以上に大掛かりなものだったようだ。

ダウンロード作業を自動化する新機能「スマートダウンロード」

ネットフリックスのスマートダウンロード機能

スマートダウンロード機能を利用した様子。写真左が事前にダウンロードしたエピソードを鑑賞した直後の様子、Wi-Fiに接続中のため自動で次のエピソードをダウンロードしている。写真右はダウンロード後の様子。見終わったエピソード1が削除されているのがわかる。

ネットフリックスは今年、Android向けに新しく「スマートダウンロード」機能の提供を開始した(iPhone向けは年内の提供を予定)。同機能をオンにしておけば、ダウンロードした作品を見終わった後に次のエピソードがある場合、自動的に次のデータをダウンロードするというものだ。

ユーザーが最初にダウンロードしたエピソード数と同じ分の次のエピソードをダウンロードしてくれるため、ユーザーそれぞれの毎日の通勤時間に、だいたい合った量の自動ダウンロードが可能だという。

ちなみに、スマートダウンロードはWi-Fi接続時のみ自動実行されるため、知らないうちにパケットを使ってしまうことがないよう配慮もされている。

「ギガが減る」を抑制する独自の動画圧縮技術も開発中

ネットフリックスの映像データ

4KやHDRといった高解像度・高画質の映像を配信しているネットフリックス。トラフィックの抑制は最重要課題の一つだ。

さらに、ネットフリックスは配信方法や映像ファイルの圧縮自体にも独自に開発を行っている。その理由は、配信データを圧縮するということは「再生ボタンを押してから再生まで時間がかかる」という最も一般的なユーザーの不満を解消する手段に直結するからだ。

例えば、現在配信中のマーベル・コミックの登場キャラクターをベースにしたオリジナル作品「ジェシカ・ジョーンズ(シーズン2)」の1エピソード(約50分)は、最もキレイなRAWデータでは約293GB、最大で748Mbpsもの容量がある。このまま配信してしまえば、モバイルはもちろん、固定回線であっても再生するのには骨が折れる。

ネットフリックス 画質比較

写真左からPer -title、Per-shotでエンコードした同じ作品の同じシーン。写真では分かりづらいが、ほぼ同じビットレートながらもPer-shotの方が肉眼で見ても明らかにキレイな映像だった。

同社は2011年まではすべての作品に対して、共通の圧縮方法を使っていた。しかし、2015年には作品ジャンルごとに調整する「Per-title encoding」、2018年には調整単位が1シーンごとなる「Per-shot encoding」を導入した。

それぞれの効果を比較すると、4GBのモバイル回線で視聴可能な時間で言えば、2015年以前までは7時間、2015年以降は10時間、2018年には26時間まで延びているという。

同社はKDDIとの回線バンドルプラン「auフラットプラン25 Netflixパック」を提供する際、「25GBで100時間の視聴が可能」と話しているが、これはPer-shot encoding導入の成果によるもの。ネットフリックス関係者は「他社サービスでは、決して同等の時間の再生はできないだろう」と話していた。

DVD片面程度の容量で33時間の動画を記録する新コーデック「AV1」

新コーデックの効果

4GB単位での視聴時間。AV1の導入により、より軽量で高画質な映像を楽しめる。

なお、同社はグーグルなどと共同で開発した新コーデック(エンコード規格)「AV1」の準備も進めている。

AV1は、現在、配信事業者の負担となっている、動画配信に使う"MPEGライセンス問題”をクリアしつつ、高圧縮も実現するロイヤリティーフリーの最新圧縮コーデックだ。

具体的には、AV1とPer-shot encodingを組み合わせれば、ベーシックなSD解像度なら4GBで33時間もの視聴が可能になる。DVDは片面4.7GBだから、(DVD相当のSD解像度とはいえ)非常に優れた圧縮効率といえる。

同社でビデオ・アルゴリズム担当ディレクターを務めるAnne Aaron(アン・アーロン)氏は「開発自体は約3週間ほどで完了する」としているが、提供開始時期は未定となっている。

ネットフリックス

ネットフリックス ビデオ・アルゴリズム担当ディレクターのアン・アーロン氏。

アーロン氏は、提供時期を明確にできない理由を「デバイスやブラウザー側の対応を待っている」と話している。

グーグルの「Chrome」では次期バージョンの70でAV1を正式採用する見通しだが、多くのAndroidスマートフォンおよびiPhoneは現時点では非対応だ。

とはいえ、AV1を策定したAlliance for Open Mediaには、ネットフリックスやグーグルだけではなく、アップルやマイクロソフトといった主要なモダンOSメーカーが名を連ねている。

今後発表されるAndroidやiOS、Windows、ChromeなどにAV1対応が盛り込まれる可能性は非常に高いと、筆者は見ている。

編集部より:記事初出時、Per-title encodingおよびPer-shot encodingのスペルが間違っておりました。お詫びして訂正いたします。 2018年9月27日 11:31

(文・撮影・小林優多郎、取材協力・ネットフリックス)

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