撮影:Business Insider Japan
テックビューロが運営する仮想通貨取引所Zaifから、70億円相当の仮想通貨が流出した事案を受けて、業界の重鎮や規制当局の発言が相次いだ。今後、規制や自主ルールのあり方についても見直しの議論が加速しそうだ。
SBIホールディングスの北尾吉孝社長は2018年9月25日、自社の関連事業について「まだまだ業界全体が非常に不安定。とくに安全性の点で問題ありというところが多い。こういうものを全部、直していかないといけない。それに貢献をしたい」と述べ、業界の安定に尽力する考えを示した。
一方で、金融庁はこの日、テックビューロに対して3度目の業務改善命令を出した。同庁の担当者は「金融庁の行政の中に反省点があるのであれば、当然、反省していかなければならない」と話し、監督や法制度のあり方についても再検討を進める方針を明らかにしている。
仮想通貨関連事業に「ブレーキをかけている」と北尾氏
2018年9月25日、「フィンサム2018&レグサム」で講演する北尾吉孝氏。
撮影:小島寛明
北尾氏は、25日に東京・丸の内で開幕した金融庁と日本経済新聞社が共同で開催する「フィンサム2018&レグサム」の冒頭で基調講演した。
SBIは、グループ内に仮想通貨交換業者SBIバーチャル・カレンシーズがあるほか、国内外の仮想通貨・ブロックチェーン関連のスタートアップ企業などへの投資を進めてきた。
北尾氏自身は、自主規制団体としての認定を目指す日本仮想通貨交換業協会の理事も務めている。協会は、自主ルールの策定を進めており、8月に金融庁に正式な認定を申請したばかりだ。
北尾氏は「今回もまた事件が起こり、ますます仮想通貨というのは……と眉をひそめる投資家も増えてきている。1日も早く、業界として一つにまとまって、厳格なルールに基づいて自主規制をやる団体を、金融庁にオーソライズしてもらわないといけない」との認識を示した。
2018年1月にコインチェックの流出事件が起きた際には、決算説明会でコインチェックを「カス中のカス」と非難した。今回は金融庁と日経新聞が共催するイベントだけに、発言としては抑制気味だったようだ。
SBIバーチャル・カレンシーズは、2018年6月にサービスを開始した。同社の仮想通貨関連事業については、北尾氏は「私どもも一挙にこれを推進しようと思ったけれど、ブレーキをかけている」としている。
2019年の3月ごろには、「業界全体が落ち着いてくる」と北尾氏は見ており、取引所形式の取引なども開始する計画だ。
「仮想通貨規制」の見直し加速か
一方で、テックビューロの運営するZaifが、流出事案が判明した時点で472億円相当の利用者の預かり資産を保有していたと、金融庁が明らかにしている。
同社の発表によれば、2018年9月14日に流出した仮想通貨約70億円のうち、約45億円が利用者から預かっている仮想通貨だったという。流出した仮想通貨はインターネットに接続されたホットウォレットで管理されていた。
金融庁は「利用者財産をすべてコールドウォレットに入れろということではないが、ホットウォレットで持っていた額が適正だったのか、まずは業者の方に検討していただく」としている。同庁によれば、利用者の仮想通貨については全額を、ネットから切り離したコールドウォレットで管理している交換業者もあるという。
今回の流出事案は、テックビューロに対して2度の業務改善命令を出し、同社がどのように事業を改善していくかモニタリングを継続している中で起きただけに、金融庁にとっても痛手だ。同庁の担当者は「非常に遺憾だと思っている」と、何度も繰り返した。
コインチェックの流出事件後の2018年4月、金融庁は有識者による研究会を立ち上げた。仮想通貨交換業者の登録制度などを定めた改正資金決済法は、決済手段としての仮想通貨の機能に着目したものだ。
この研究会は、企業などが仮想通貨で資金を集めるICO(Initial Coin Offering)など、「当初の考え方と使われ方が違う」(金融庁担当者)ものが出てきたため、あらためて論点を整理する位置づけとされる。
研究会ではこの秋以降、法制度のあり方についても検討する方針だ。今後、Zaifの事案を踏まえた規制の見直しに関する議論が加速しそうだ。
(文、写真・小島寛明)