日銀の研究所員が量子コンピューターに抱く「懸念」 —— フィンテックイベントで講演

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日銀本店

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量子力学の原理を用いる量子コンピューターは、情報処理のあり方を一変させる可能性があると言われる。さまざまな分野での利用が期待される一方で、高度な処理能力は脅威にもなりうる。

東京都内で2018年9月26日に開かれたフィンテック関連のイベントで、日銀の研究所員が、量子コンピューターに対する「懸念」について発表した。実用レベルの量子コンピューターが登場すれば、暗号技術に支えられた現在の金融システムにとっては、重大な脅威となりうる。「金融機関は、余裕を持って検討する必要がある」と対応を促す。

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「フィンサム2018&レグサム」の日銀のセッション

「中央銀行は電気羊の夢を見るか?」

清藤武暢さん

日銀金融研究所情報技術研究センターの清藤武暢さん。

撮影:小島寛明

発表者は、日銀金融研究所情報技術研究センターの清藤武暢さんだ。日銀はこの日、金融庁と日経新聞が主催する「フィンサム2018&レグサム」の中で、中央銀行としての先端技術研究などについて発表した。

セッションのタイトルは「中央銀行は電気羊の夢を見るか?」。映画「ブレードランナー」の原作として知られるSF小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」をもじったものだ。タイトルを見る限り、硬いイメージの中央銀行としては、けっこう攻めている。

セッションは、日銀の内部で統計や分析、研究などに携わる職員5人が10分ずつ、研究成果を発表する構成で進んだ。清藤さんの発表のテーマは、「量子コンピューターは暗号社会に何をもたらすか?」だ。

量子コンピューターが実用化される日に向けて、当然、さまざまな利用法が想定されている。金融分野でも、現在のコンピューターを大きく上回る高い精度で、資産運用を最適化したり、市場動向を分析したりといった活用が考えられる。

一方で、懸念されているのは、暗号の解読だ。

現在の金融サービスは、暗号技術に支えられている。インターネット経由で、取引先にお金を振り込むのも、クレジットカードで買い物をするのも、暗号技術がなければ成り立たない。こうした暗号は、現在のスーパーコンピューターでは解読が困難なように設計されている。

しかし、量子コンピューターの性能が一定のレベルに達した場合、現在金融サービスを支えている暗号が破られるおそれが出てくる。

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量子コンピューターの脅威と対策。

清藤武暢さんの発表資料を基に作成

清藤さんの発表などによれば、現在、主に使われている暗号技術は、共通鍵暗号と公開鍵暗号の二種類がある。

共通鍵暗号の場合は、量子コンピューターを使えば、解読の手間が削減できるとされる。一方で、公開鍵暗号の場合は、数時間で暗号を解読される可能性があるという。

共通鍵暗号では、暗号鍵を2〜3倍に伸ばすことで対応ができるが、公開鍵暗号は、量子コンピューターに対抗できる新しい方式に移行する必要があるという。

では、こうした量子コンピューターはいつ登場するのだろうか。アメリカ政府は、公開鍵暗号の一つであるRSA暗号を数時間で解読できる量子コンピューターが2030年頃までに実現する可能性があるとの見方を示している。

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カナダ D-Wave Systemsの量子コンピューター「D-WAVE 2000Q」。価格は1台1500万ドル(約16億9000万円)とされる。

D-WAVE Systems

こうした見方について、清藤さんは「いつ実現するのかについては、研究者の間でもさまざまな意見があり、まだコンセンサスは得られていない」と指摘している。

今後、量子コンピューターの開発動向を注視した上で、必要に応じて、金融機関側に対しても対策を促していくという。

現在、グーグル、IBM、マイクロソフト、インテル、D-Waveといった世界的なIT企業が、量子コンピューターの研究開発を進めている。金融機関に限らず、さまざまな分野の企業が、いずれ来るであろう量子コンピューターの時代にあらかじめ備えておく必要がありそうだ。

清藤さんは「日進月歩の技術なので、明日解読できましたということもありえない話ではない」と話した。

(文、写真・小島寛明)

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