大企業で新規事業を興すための3つのメソッド—— JR東日本の若手が「遊ぶように働き」ながら編み出した

大企業からなかなか新規事業が生まれない。若手が“打席”に立ちにくい —— 。大企業に共通する課題だ。

そういう状況を打破するために、JR東日本は9月7日、「既存事業の延長線上ではない“非連続”な新規事業」を募集するプログラム「ON1000(オンセン)」を発表した。

このプログラムの特徴は、提言やアイデア提案にとどまらず、「事業化」を目的としているところ。プログラムパートナーとしてスタートアップスタジオであるQUANTUMと組み、ワークショップの開催や、事業アイデアのブラッシュアップのためメンタリングを行う予定だ。

きっかけは社内の若手有志活動

ファンタジスタスタジオのメンバー

JR東日本の若手有志団体「チーム・ファンタジスタ」。メンバーは社内のプロジェクトを多数生み出してきた。

提供:JR東日本

「大企業にこそ、このような事業化プロジェクトが必要」とこのプログラムを創案したのは、JR東日本で若手有志団体「チーム・ファンタジスタ」を運営してきた村上悠(37)。

「チーム・ファンタジスタ」は有志団体でありながら、これまでJRのリソースを生かしてさまざまなプロジェクトを生み出してきた。

ペンキを塗る女性

「根府川駅ペンキぬりぬり大作戦」では建築現場の20代社員を始め、女性や子どもも参加している。

提供:JR東日本

例えば、駅施設の新築、改良、メンテナンスを行う建築現場の20代の社員が中心となり、「自分たちが使う駅をDIYしよう」をコンセプトにした「根府川駅ペンキぬりぬり大作戦」。このプロジェクトでは、地元の人たちと一緒に駅の塗装を行った。子どもたちもたくさん参加し、「駅をよくしたい」と考える人たちが、積極的に駅に関われる環境づくりの第一歩となった。

「日常に音楽を。駅にピアノを」を合言葉にして駅前にピアノを設置した「ステーションピアノ!」プロジェクトは、東京 支社の社員が、音楽が絶えない海外の駅前広場の空気感を日本でも実現したいと進めた。「期間限定、場所限定ではなく、広くいろんな地域でやってほしい」との声が集まり、現在は規模拡大を検討している。

「自分は何者か」を掘り起こす

若い社員で構成する「チーム・ファンタジスタ」の企画が高い確率で事業化検討されているのは、村上が考えた「3つのメソッド」 を、メンバー全員が実践しているからだ。

1つめは、「自分は何者なのか」を掘り起こす作業である。

企画なんてアイデアがあれば成立するのではないかと考えてしまいそうだが、 村上はこの掘り起こしの段階がないと、事業の成功は難しくなると言う。

「プロジェクトが成功するか否かを分けるのは、担当者がそのプロジェクトにどれだけ想いを込めることができるか、どれだけ汗をかけるかによります。だから、何をやるかよりもまず、そこにつながる本人の原体験や気づきを言語化することが大事なのです」

例えばサッカー部で頑張りたいと言っていた子が部活を辞めて、バンドを始めた時。「根性がない」「何をやっても長続きしない」と言われがちだが、その子が本当に求めていることが「仲間と熱中できる何かをする」ことであれば、初志はちゃんと完徹されているのだ。

ここを見誤る人が多いという。

「大切なのは本人の原体験までさかのぼって、「やりたいこと」を『なぜやりたいのか』を言語化すること。『どんな方法でやるのか』は、事業を進める上で変わってもいい」 「チーム・ファンタジスタ」では、一人ひとり、この「自分は何者なのか」のスタート地点をしっかり深掘りして共有する。

やりたいことは会社と社会の文脈に合っているか

ステーションプロジェクトでピアノ演奏に集まる観客

「ステーションピアノ!」プロジェクトは大盛況。多くの地域から要望が絶えない。

提供:JR東日本

2つめは、「何をやるのか」をチェックすることだ。そして、この「やりたいこと」が、会社と社会の文脈に合っているのかどうかを確認する。

  • 個人がやりたいこと
  • 会社が求めていること
  • 社会が求めていること

この3つの円が重なり合った真ん中の領域であれば、実現の可能性が格段に上がる。メソッド1の個人の原体験は大切なのだが、会社と社会のことも観察しなくてはならない。

事業の段階描くステップ図を作る

JR東日本の村上さん

村上は入社後、日本ホテル(出向)などを経て、2015年よりJR東日本事業創造本部。「チーム・ファンタジスタ」は2014年に結成、2016年9月からONE JAPANに参加。

撮影:岡田清孝

3つめは、ステップ図を作ること。メソッド1と2で言語化した「なぜやるのか」「何をやるのか」に対して、「どのようにやればいいのか」を、段階を追ってプランニングするのだ。

ビジョンは素晴らしいのになかなか事業化が進まない例でよくあるのが、ステップの1つ目に、自分でコントロールできないものを置いてしまうケース。例えば会社のルールを変えなくてはならないという場合は、その前にもっと細かいステップを用意して、実行可能なことからスタートするようにする。

逆にずっとステップ1ばかりを繰り返しているケースもある。その場合は、どういう未来をつくりたいのかに立ち戻る。そして、ステップ1を実行した結果、何が良くて何が悪かったか、検証可能な次のステップは何かを問うようにする。このステップ図を意識しながら企画を進めると、机上の空論で企画提案することがなくなる。

例えば、旅行ツアーを提案するのであれば、自分たちで土日に行ってみるというステップを踏む。数人でもいいのでお客様を呼んで連れて行き、感想を聞く。そのリサーチ結果をプレゼンに加えるだけでも、事業化の可能性が高まるという。

ステップ図は完璧なものではない。階段を上った結果、やるべきことが変わるケースも多々ある。常にステップを見直しながら、企画をブラッシュアップする。

遊ぶように働き、働くように遊ぶ

現在「チーム・ファンタジスタ」には、30人ほどのメンバーがいる。自分たちで早稲田に借りたスペースをリノベーションし、業務時間外に集まっては、自分たちの興味と会社や社会の課題が交わるプロジェクトを企画、実行している。 ふらっとやって来る人もいるし、気づいたらいなくなるものもいる。何ひとつ強制していないし、何のタスクも負わせていない。 モットーは、「遊ぶように働き、働くように遊ぶ」。村上も「自由に出入りすればいい」と考えている。「自由に発想するからこそ、新しいアイデアが生まれる」と考えているからだ。

リノベーションハウスで作業するメンバー

「チーム・ファンタジスタ」はリノベーションしたスペースを早稲田に構え、頻繁にそれぞれのプロジェクトを企画、進行している。

提供:JR東日本

この考え方は、村上が大学時代に師事した法政大学のイタリア建築史家である陣内秀信教授の研究室で培われた。

NHK「ブラタモリ」などで知られる教授の講義は法政大学名物で、研究室には、教授の研究や人柄に惚れ込んだ他大学の教授や学生たちが自由に出入りし、大学の垣根を超えたさまざまな企業や自治体、NPOなどとのプロジェクトが進んでいて、笑いが絶えなかった。

陣内教授の仕事の進め方を見て過ごした村上は、「遊ぶことと働くことを分ける必要はない」ということを学んだ。そして自身も「遊ぶように働き、働くように遊び、自分らしく社会に価値を提供したい」と考えるようになる。

いつの間にか社内のよろず相談所に

「チーム・ファンタジスタ」が提案したプロジェクトが次々と結果を出すと、次第に会社の方からアプローチをされるようになった」という。

「こんな課題があるのだけれど、ファンタジスタで何かいいアイデアはないか」 「このプロジェクトで予算がこれくらいあるんだけれど、ファンタジスタで何か提案しないか」

など、いつの間にか「チーム・ファンタジスタ」は社内のよろず相談所のようになっていった。

「チーム・ファンタジスタ」に寄せられる声の中でも多かったのが、「自分たちも新しい事業やプロジェクトを創造したいが、社内のどこに掛け合えばよいかがわからない」「事業化に結び付けられる社内ベンチャー制度を作ってほしい」 といった声だった。

そうした声に後押しされ、村上が仲間とともに立ち上げたのが、この「ON1000」のプロジェクトだった。

「ON1000」のプロジェクトの画像

JR東日本で若手有志団体「チーム・ファンタジスタ」を運営してきた村上悠が仲間とともに立ち上げたプロジェクト「ON1000」。

提供:JR東日本

かねてから、「新規事業開発の部署にいなくても関係ない。社員一人ひとりが志と情熱を持って仕事をつくることを当たり前にしてしまえばいい」と公言していた村上の願いがかなった形だ。

大企業のリソースほど強いものはない

この「ON1000」プロジェクト、東京と仙台で2回の説明会を開いたところ、総勢370人が集まった。 入社1年目の社員、長野や新潟から駆けつける社員 ……。業務時間外にも関わらず、説明会は熱気に満ちており、中には、「独立して事業を起こそうと思っていたが、これに賭けたい」と言った社員もいたそうだ。

この反響の大きさに、事務局は予定したワークショップの開催回数を、増やして対応しているという。

「大企業では、事業を創造するのが難しいと言われています。けれどもいったん、事業化が決定すれば、大企業のリソースほど強いものはない」 と村上は言う。

「ON1000」は、大企業にいながら、小規模な事業体でも社会的インパクトの大きい事業を次々創造することを目指している。エントリーは10月、審査を突破した事業プランはメンタリングを経て、2019年度以降、事業化検討と事業化のフェーズに入る予定だ。

村上や「チーム・ファンタジスタ」の活動の詳細は『仕事はもっと楽しくできる』に掲載されている。大企業にいながら一歩踏み出した若手の事例が集まる。(敬称略)

村上らを筆頭に、大企業にいながら一歩踏み出した若手の事例が『仕事はもっと楽しくできる』という書籍になりました。


佐藤友美(Yumi Sato):書籍ライター。年間10冊ほど担当する書籍ライターとして活動。本稿の松坂俊さんらを筆頭に、大企業にいながら一歩を踏み出した若手のチャレンジが集まるONE JAPANの『仕事はもっと楽しくできる』(9月27日発売)では、取材・構成を担当。

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