55億円調達のヘルスケアベンチャーFiNC 溝口代表が語る「健康データで世界と戦う方法」

FiNC 溝口勇児

FiNCの溝口勇児CEO。トレーナーとしてトップアスリートのサポートやコミュニティのマネジメントを担当してきた経験をヘルスケア事業に活かしているという。

撮影・川村力

予防ヘルスケアと人工知能(AI)の組み合わせに特化したヘルステックベンチャーのFiNC(フィンク)が、9月20日に過去最大となる55億円超の資金調達を行ったと発表した。その2日前には、電動車椅子ベンチャーのWHILLが50億円の調達を発表。身体に関わる領域で日本のベンチャーが躍動を見せ始めている。

55億円という巨額調達の狙い、心身に関わる市場の現状と今後の展開について、FiNCの溝口勇児CEOに話を聞いた。

名実ともに「テクノロジーの会社」になる

Business Insider Japan(以下、BI):ヘルステック市場の現状をどう見ているか?

溝口勇児CEO(以下、溝口):アップルが先日発表したApple Watchの新シリーズは、ヘルスケア機能をかなり重視したものになっていた。

時代が大きく動くきっかけは大まかに二つあると考えている。一つはデバイスの登場。今回のApple Watchはその典型だ。もう一つは、AIとその中核となるディープラーニング(深層学習)、ブロックチェーンなどテクノロジーの進化。両者が重なりあったことで、大きな変化への素地が整った。そこに人や資本がなだれ込むのは当然の流れだと思う。

FiNCが今回調達した55億円の資金は、サービスと技術の開発、マーケティング、プロモーション、そしてそれらを推進する人材に投下する。

資金調達に合わせて、社名を「FiNC」から「FiNC Technologies(フィンク・テクノロジーズ)」に変更し、代表取締役に最高技術責任者(CTO)の南野充則を加えた。いずれも名実ともにテクノロジーと本気で向き合っている会社であることを、社内外にアピールするためだ。

南野は日本ディープラーニング協会の最年少の理事でもあり、技術面で卓越したエキスパート。会社の意思決定に関わる日ごろからの議論は、これまで乗松(文夫・代表取締役副社長、9月19日以降は取締役副社長)、小泉(泰郎・代表取締役CFO兼CIO)と私の3人でやってきたが、テクノロジーを柱とする今後のFiNCを背負っていく人材として、南野にその議論の輪に入ってもらうことにした。

データ蓄積のためにユーザー数の増加を加速

FiNC アプリ

FiNCアプリのサービス画面。歩数を自動で記録しグラフ表示する機能、AIが悩み解決につながるコンテンツをレコメンドしてくれる機能など、徹底したユーザー視点でつくられている。

提供:FiNC

BI:55億円の主な用途の一つに、マーケティング・プロモーションを挙げているが、その理由は。

溝口:グーグルは確かに大きな影響力を持つ企業だが、日本でレストランを探す時にはグーグルではなく食べログを使う人が多いし、レシピを探したい時にもやはりグーグルではなくクックパッドを使う人の方が多い。

同じように、心体の健康にポジティブなことをしたい人がFiNCを使う世界、そういう行為をひっくるめて「FiNC(フィンク)する」と呼ばれる世界を作りたい。

現実にそんな世界をつくるには、FiNCがもっと多くの人に認知される必要がある。ユーザー数を増やすことが何より重要だからだ。ユーザーのデータが蓄積されれば、ソリューションの質も上がり、それによってユーザーが増えるという正のスパイラルが生まれる。FiNCが当初からコミュニティの充実に力を入れてきたのは、つながりを通じてユーザーを増やすためでもある。

認知度向上、ユーザー数拡大のための先行投資をまずは国内で行ってポジションを築き、数年後にはその時までに日本で得たのと同様のポジションを海外数カ国で築く。今回調達した資金は、そうしたマーケティング、プロモーションに重点的に充てていくつもりだ。

人間の幸福度を高める「多様なつながり」

老人 コミュニティ

ミレニアル世代も高齢世代も、共通の何かでつながれる幸福は財産だ。

REUTERS/Toru Hanai

BI:コミュニティへの参加は、ユーザーにどんな価値を与えるのか?

溝口:FiNCだけでなく、これから先はあらゆる企業がコミュニティづくりに力を入れるようになると考えている。

最近急激に進んでいる働き方改革で自由になる時間が増えていること、ソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)が浸透して息苦しさが高まっていることが挙げられる。一つだけの自分で、一つだけのコミュニティを生き抜くのは、その時間が長いほどあまりに負荷が大きい。

だから、いろいろな自分を表現できる、熱量が高いコミュニティをより多く抱えている人ほど、幸福度を感じやすくなると思う。実際、好戦的な人や排他的な人を見ていると、コミュニティの数が多くないのではと感じる。多様なつながりがあること、孤独でないことは、人生への満足度を大きく左右する

ただし、つながるためには何かしら共通点が必要だ。同じ趣味や目標、悩み、何でもいい。ダイエットしたい、シックスパックの腹筋になりたい、2カ月後にマラソン大会に出たい……心身や健康にまつわるコミュニティの入り口はたくさんあり、その意味で、FiNCはそもそもつながりをつくりやすい場だと思っている。

デバイス開発は「ホームフィットネス」に重点

ミランダ・カー

2015年4月、リーボックの新製品キャンペーン「女性の足を解放せよ」で表参道を闊歩する女優のミランダ・カー。ミレニアル世代の心身ケアへの関心は高い。

REUTERS/Issei Kato

BI:現状、どんなユーザー層がFiNCアプリを使っているのか。

溝口:20代、30代が圧倒的に多い。いわゆるミレニアル世代だ。彼ら彼女らの投資の行く先はこれから「自分」に向かっていくと思っている。なぜなら、あらゆるサービスがコモディティ化して、選択の基準が変わってきているからだ。

ミレニアル世代は自分らしく生きているか、輝いているか、どれだけ素敵なつながりに囲まれて生きているか、といった無形の内面的な豊かさを求めるようになっている。そうした感覚を持っている若い人たちが自分に投資しようと考えるのはごく自然なことではないか。

FiNCが手がける心身ケアの領域は、そういう若い人たちの投資対象のど真ん中にあると感じている。

BI:サービスやプロダクトの開発も、調達資金の主な投下先に挙げている。

溝口:特に注目しているのは「ホームフィットネス」の分野だ。

インターネットの発達と通信環境の劇的な向上のおかげで、フィットネスはいまや、決められた時間にスタジオに行かなくても自宅でいつでもトレーナーの指導を受けられる。トレーナーの方も1カ月に100人の指導をするのが限界だったのに、いまやオンラインで1000人に指導できるようになった。

この恩恵をさらに活かせるように、家庭向けデバイスの開発に力を入れていきたい。具体的にはホームバイク、ランニングマシーン、ホーム(フィットネス)ギアなどが中心となる

ただ、FiNCには「手間なく気楽に個人に最適なサービスを、限りなく無償に近いかたちで届ける」という構想があるので、高価なデバイスを自社開発することは考えていない。プラットフォームの発想で、他社との提携・協力を視野に、効率的なサービス・プロダクト開発を進めていきたい。

大企業との連携プロジェクトに相次ぎ着手

FiNC 第三者割当増資

FiNCの55億円超の第三者割当増資を引き受けた企業のリスト。資生堂、中部電力など大企業の名前が並ぶ。

提供:FiNC

BI:55億円という巨額調達が実現した背景は。

溝口:第三者割当増資のかたちでさまざまな企業に株式を引き受けていただいた。その積み重ねが55億円という数字の重みだ。従来からプロジェクト単位で協業を行ってきたパートナーも含め、より深い協力関係を築いていくための意思確認のような意味合いがあると思っている。

竹中工務店とは、FiNCが可視化した従業員の心身の健康状態データと、竹中工務店のオフィス内で得られた(歩数、階段利用頻度など)ワークスタイルデータの相関関係を分析する実証実験を2018年4月から始めている。

帝人フロンティアとは、同社のウェアラブルデバイスから得られる睡眠情報データを用いて、FiNCが開発したAIチャットボットや専門家からの指導を受けられるサービスの研究開発に2018年9月から着手している。

講談社とは大きなプロジェクトでの協業はまだ始まっていないが、多数の読者を抱える同社の女性向けメディアコンテンツとコラボするなど、マーケティングやプロモーション分野で新たな展開が考えられると見て、未来志向の資本提携にたどり着いた。

「ウェルネスデータ・プラットフォーム」を実現する

FiNC データ

ヘルスケア領域で日本発のグローバル・プラットフォームは生まれるか。

Shutterstock

BI:最終的にどんな事業モデルでビジネスを成立させようとしているのか。

溝口:私たちが目指す姿はひと言で言えば、「ウェルネスデータ・プラットフォーム・カンパニー」。

ヘルスケアサービスを通じて得られる、検診情報、生活習慣に関するデータなどさまざまなデータを最新の注意を払って管理し、健康増進や幸福度向上のソリューションを生み出そうという企業に提供していきたい。

例えば、ある企業が20代女性の糖尿病患者を探そうとした時、該当する数がそもそも少ないので、数十万円から数百万円かかる。従来ならこうした情報はグーグルやFacebookが収集したデータの中から当人の知らぬうちに利用されていたが、本来は患者自身がその使用について権利を持つ情報であるはずだ。

FiNCはそれらを安全かつ適切に管理し、企業側にとっても効率的かつ公正に取得できるような(窓口的)プラットフォームの役割を果たしたい。FiNCの最終的な収益モデルもそこにあると考えている。

日本の企業は、グーグルやFacebook、ネットフリックスがつくる巨大プラットフォームの上で動くアプリケーションやコンテンツの提供に甘んじていることが多い。しかし、ヘルスケア領域にはまだそのようなプラットフォームがないし、食や医療で世界から高い評価を受ける日本ならそれを実現できるはずだ。

「挑戦」ではなく、「使命」あるいは「義務」として、私たちはそれを成し遂げたいと思っている。


溝口勇児(みぞぐち・ゆうじ):高校在学中からトレーナーとして活動し、延べ数百人を超えるトップアスリート及び著名人のカラダ作りに携わる。また、業界最年少コンサルタントとして、新規事業立ち上げや業績不振企業の再建を担う。2012年4月にFiNCを創業。日経ビジネス「若手社長が選ぶベスト社長」に選出、「ニッポンの明日を創る30人」に選出。

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