ツイッター社がヘイトスピーチ規制を拡大すると発表した。
これまでは「直接的なターゲット」が書き込まれていなければポリシー違反になりにくかったが、今後は人種、性別、性的指向、性自認など「特定の集団」を対象にした差別や脅迫も取り締まっていく方針だ。在日コリアンへの差別や女性へのハラスメントがあふれる日本のTwitter空間はどのように変わるのか。
性別、性的指向、職業など14の集団への差別を規制
特定のターゲット以外への差別も規制されるという。しかし、ツイッタージャパン担当者は具体的な事例について言及を避けた。
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ツイッター社は今回の新ポリシー作成について「人間性を否定し人間以下に扱う会話は、暴力を正常化することを含め、Twitterのサービス外に悪影響を与える可能性がある」と説明。 新たに規制するのは「人種、民族、国籍、性的指向、性別、性自認、信仰する宗教、年齢、身体障がい、重病、職業、政治理念、地域、社会的慣習」をもとにした暴言や脅迫、差別的な言動だ。
@ツイートする、写真にタグ付けする、名前を挙げるなど特定の個人またはグループを標的にしていなくとも、上記のような点で共通する「特定の集団」へのヘイトスピーチも違反の対象にするという。
ツイッタージャパン広報によると、この新ポリシーはもともとユーザーの声をもとに導入を検討することになったそうで、web上でアンケートを募り、その結果をもとに運用方法などを正式決定する。
ポリシーは日本を含むグローバルで適用されるという。
「在日コリアン」や「女性」への差別や、児童への性暴力を想起させるツイートなどもポリシー違反になる可能性が高いのか尋ねると、「仮説についてはお答えできません」という回答だった。
担当者の教育は?異議申し立てはできる?
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Twitterはじめ数多くのヘイトスピーチの問題に取り組んできた神原元弁護士は、今回の新たなポリシー導入を「幅広い類型のヘイトスピーチに対応している点は評価できる」と話す。
日本のヘイトスピーチ規制が民族・国籍を対象にしているのに対し、カナダの人権法では人種、肌の色、出身国・民族的出自、宗教、年齢、性別(年齢・出産にもとづく差別を含む)、婚姻の状況(婚姻関係の有無など)、家族の状況(子どもの有無など)、心身障がい(疾病、アルコール依存、薬物依存を含む)、犯罪歴、性的指向などを広く規制している。今回の新ポリシーも規制対象の幅広さではそれに近いかたちだ。
一方で、神原さんは2つの課題もあると指摘する。1つ目は、実際に該当ツイートの調査や対応にあたるツイッタージャパン担当者の認識の問題だ。これまでも特定のターゲットに対する差別や脅迫はポリシー違反とされていたはずが、そうしたツイートでも削除されていないものも多い。ツイッター社だけではなく外部の専門家から指導を受けるなど、ポリシーの作成と並行して担当者の教育も行ってほしいと言う。
2つ目は、ルール違反だと認定されてアカウントが凍結された場合などに異議申し立てをする仕組みが、新ポリシーでも適切に運用されるのかという点だ。過去にもヘイトスピーチにあたる投稿を引用しながら、ヘイトツイートを批判したり抗議したりしたアカウントが一時的に凍結された事例が複数あった。
「(批判した方が凍結されるという)不公平な運用がなされた場合に救済措置がないと、言論空間が歪んでしまいます。ツイッター内の制度だけでなく、アカウントが凍結された時に裁判で争えるのかなど運用についてはチェックしていかないといけません」(神原さん)
グローバルと同じ基準か、ユーザーも声を上げよう
撮影:今村拓馬
ヘイトスピーチを記録するヘイトウォッチなどを行っている、反レイシズム情報センター(ARIC)代表の梁英聖(リャン・ヨンソン)さんも、ポリシーの作成よりも運用の仕方が問題だと言う。
ARICでは2016年から、人種差別撤廃条約第一条に該当する疑いがある政治家の差別発言を記録した「政治家レイシズムデータベース」を作成している。その件数は5006件(2018年9月23日時点)にのぼり、Twitterの投稿も数多く含まれている。
「Twitterは一企業の一サービスを超えて、必要不可欠なコミュニケーションツール、公共空間になっています。差別を禁止するのは“良いこと”ではなく“義務”です。このデータベースにあるツイートが削除されるかどうか、引き続きウォッチしていきたい」(梁さん)
また、梁さんはツイッター社のグローバルと日本での運用の違いも気になると言う。
米ツイッター社は9月6日、陰謀論などフェイクニュースを数多く流していた、極右サイト「インフォウォーズ」の主催者であるアレックス・ジョーンズ氏のアカウントを永久停止した。氏はトランプ大統領とつながりが深く、大統領選中に、民主党のクリントン候補が「人身売買や児童セックス」に加担していると、根拠のない情報を流していた(朝日新聞デジタル、2018年9月7日)。
「フェイクニュースを流したり差別を扇動する著名人のアカウントは日本にもありますが、停止などの措置が取られていないものも多い。日本では『死ね』など特定のキーワードが含まれた投稿が凍結されやすい一方で、本質的な差別を放置しているのが気になります」(梁さん)
新ポリシーが導入された後も差別的な投稿が残っていたら、共通のハッシュタグをつくるなどして、ツイッタージャパンや米ツイッター社に対し訴えていくことが必要だと、梁さんは話す。
新ポリシー作成に関するアンケートは、10月9日火曜日の午前6時(米国時間)まで。何が変わり、何が変わらないのか、注視が必要だ。
(文・竹下郁子)