「裸の王様化」したザッカーバーグはユーザーの安心のために何をすべきか

フェイスブック

安全性でまたもやユーザーを不安に陥れたFacebook。

REUTERS/Eric Gaillard

2018年9月24日の週半ば、知らないうちにFacebookのアカウントがログアウトされていた。「よくあることだ」と思って再ログインした。しかし、それが、Facebookのセキュリティーの欠陥で影響を受けた5000万人のユーザーの一人である「証拠」だった。Facebookがシステムをリセットしたからだ。

気がついたのは9月28日、Facebookを見た際、「重要なセキュリティについてのアップデート」という表示がトップだったからだ。しかし、仕事中だったので、手があいた時に対応しようと思ったら、数時間後には、もう表示されず、不信感が残った。

Facebookは同日、ユーザーのプロファイルが、他の人に対してどう表示されているかという機能で、コードの欠陥をついてハッカーが侵入したと、ブログで発表した。実際の被害は現在不明だが、アカウントを乗っ取ることはできたとしている。このためFacebookは、影響を受けたとされるアカウントをリセットした。筆者をはじめ、数千万人が再ログインをしなければならなかった理由だ。

「欠陥なんてあっていいのかって思うけど、Facebookはいいと思ってるんだよ」

過去に個人情報漏洩の報道後、「#DeleteFacebook」の呼びかけに応じてアカウントを閉鎖した友人は、こう言った。

アップルストアに勤める友人は、「アップルなら絶対にそんなことしない。ユーザーがきちんと対応するまで警告を続ける」と言う。

米大統領選での轍は踏まない

Facebookは2016年大統領選挙で、勝敗に影響を及ぼそうとしていたロシアがフェイクニュースを流したり、選挙をめぐるフェイク広告を発信してアメリカ人有権者を分断に追い込む最大のプラットフォームになった。 ロシアなどの偽アカウントから発信された選挙に絡む投稿は、何も知らない有権者の拡散によって、約1億5000万人もが見たことが、選挙の勝敗がついた1年以上も後になってわかった。

トランプ大統領

トランプ大統領誕生に“使われた”Facebook。米中間選挙を前にその轍を踏まないよう対策を喧伝してきた。

REUTERS/Carlo Allegri

2018年3月には英紙ガーディアンなどが大統領選挙に絡み、約8700万人分のFacebookユーザー情報が、第3者のコンサルティング会社、ケンブリッジ・アナリティカの手に渡り、トランプ大統領候補の陣営に使われたことをスクープした。

民主主義国家の、しかも世界で最も権力を持つ首脳の選挙で、Facebookという巨大プラットフォームの仕組みを使って勝敗が左右された。それをFacebookが見過ごしていた、あるいは見ないふりをしていたとしたら罪は大きい。

2018年11月、アメリカは中間選挙を迎える。トランプ政権への支持率は世論調査で56 %が「不支持」、40%が「支持」(ギャラップ調査)。残りの2年間と、そして2020年大統領選挙の行方を決定する重要な選挙だ。

Facebookは2016年の大統領選の轍を踏むまいと、対策を強化していることをこの夏から喧伝して来た。2018年8月には、組織化して政治活動を行なっていたアカウントやページの削除を発表している。

その矢先で、セキュリティの欠陥だ。

唯一明るいインスタの創業者が辞任

これに先立つ9月24日、買収した傘下のインスタグラムの共同創業者ケビン・シストロム氏ら2人が突然辞任した。Facebookは2012年、インスタグラムを買収し、珍しいことにシストロム氏らに独自に運営させてきた。しかし、この数カ月、マーク・ザッカーバーグFacebook最高経営責任者(CEO)などと、インスタグラムの独立性を巡り意見が対立していると伝えられていた。

ケビン・シストロム

インスタグラム創業者のシストロム氏(右)。ザッカーバーグ氏と方針の違いから、辞任したと報じられた。

REUTERS/David Ingram

買収当時のインスタグラムは、急成長していたもののユーザー数はまだ約3000万人だった。しかし、現在は10億人に上り、買収してからの年間成長率は79%にも上る。また、買収当時の売上高はゼロだったが、2018年はFacebookの売上高の15%を占め、80億ドル超を稼ぎ出す見込みだ(ウォール・ストリート・ジャーナル)。

Facebookの中で、インスタグラムは唯一明るいニュースの場所でもあった。

8700万人の個人情報が大統領選に使われたという報道の直後、アメリカでは若者の一部が、Facebookのアカウントを次々に閉鎖した。アカウントは維持しながらも、使わないという若者も増えた。しかし、過剰に個人情報がアップされないインスタグラムのアカウントだけは残し、友人とつながっているというユーザーは少なくない。

さらに「インスタ映え」という言葉が示すように、ビジュアル志向が強いティーンズが、Facebookよりもインスタグラムをソーシャルメディアのメインに使う傾向は急速に強まっている。

Facebookの中で唯一陽が当たる場所だったインスタグラムのリーダー2人が突然辞めて、成長は続くのか?市場関係者の不安は強まる。

Facebookは「裸の王様」化している

ニューヨーク・タイムズに寄稿したハイテク業界のベテランジャーナリスト、カーラ・スウィッシャー氏はこう書いた。

「シストロムらはFacebookの一部から、チームメイトではない、と言われていた。団結心が強いFacebookの中で、イライラの要因とされていたのだ」「残念なことだ。それこそが、Facebookに必要とされているのに」

スウィッシャー氏が最近、インスタグラムが「インスタ映え」を狙う人々が写真を見せびらかす場所となり、人々をつないでいる場所ではなくなったと書いた際、シストロム氏はすぐに「なぜそうなっているのか」と携帯メッセージを送ってきて、自己弁護さえしなかったと書いた。

そういう姿勢こそが、今のザッカーバーグを助けられたのかもしれないのに、と指摘する。

マーク・ザッカーバーグ

Facebookとザッカーバーグ氏は、ユーザーにどんな安心を与えていこうとしているのか。

REUTERS/Charles Platiau

スウィッシャー氏の記事はシストロム氏が外部からの苦情や批判を謙虚に受け入れ、インスタグラムを成長させたのに対し、今のザッカーバーグ氏とFacebookには批判を受け止める姿勢に「甚だしく欠けている」とし、「裸の王様」的な状況であることを懸念する。

#DeleteFacebookの動きは、筆者の周りで続いている。こう何度もセキュリティ関連に懸念を抱かせる「事件」が続くと、今後何も解決しないとユーザーが感じても不思議ではない。

2016年大統領選挙から2年も経つというのに、Facebookは一度もユーザーを安心させたことがない。ザッカーバーグ氏から「100%安心だ」という言葉を聞いたこともない。唯一の明るい場所だったインスタグラムのリーダーも消え、Facebookの中に「インスタ映え」する場所はなくなった。投資家と株主を喜ばせ続けてきたFacebookとザッカーバーグだが、今一度、ユーザーを喜ばすということに真剣に取り組むべきだ。

2016年にトランプ大統領を選出し、急速にグローバルな秩序と自由を乱す存在となったアメリカ。それを見て忸怩たる思いをしている56%のアメリカ市民を、Facebookがこの中間選挙で安心させることができるのかが、直近の大きなゴールだ。

(文・津山恵子)

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