“住みたい田舎”として人気の街・千葉県いすみ市が、新たな移住・定住プロジェクトを立ち上げた。ターゲットは「若いクラウドワーカー」だ。クラウドソーシングのネックだった収入を市が、仕事の紹介を大手企業が、ノウハウと地域で孤立しないようなネットワークを地元企業が、三つ巴でサポートする。
市と企業と地元ベンチャーが連携
クラウドワークス吉田社長(左)、太田いすみ市長(中)、Ponnuf山口社長(右)
撮影:竹下郁子
いすみ市が協定を結んだのは、クラウドソーシングの大手「クラウドワークス」と、市内のコワーキングスペース「hinode」を運営し、WEBサイトの企画・制作などを行う「Ponnuf(ポンヌフ)」だ。
いすみ市に3年以上定住する意思があり、市内のコワーキングスペース「hinode」の会員になる人を対象に、シェアハウスに住む場合は年間3万円、賃貸住宅などに住む場合は年間5万円をいすみ市が助成する。これはクラウドワークスのシステム利用料として、だ。
期間は2018年10月から24カ月間、利用者は約30人を見込む。
「いすみ市では大学進学で東京や関東近郊に引っ越して、その後地元に帰って来るのは2〜3割。なんとしても移住定住を促進しないといけないと、はじめは経済的な戦争を挑みました。医療費は18歳まで無料に、子どもも第2子以降は優遇するなどしましたが、それだけでは限界で。やはり若い人が働ける場所をつくることが一番大事だと思ったんです」
10月1日に行われた記者会見で、太田洋いすみ市長は今回の連携協定の経緯をそう語った。
年間約1100人が転入するのに対し、転出者は約1200人。東京駅まで特急で約70分、月刊誌『田舎暮らしの本』の首都圏エリア「住みたい田舎ベストランキング」で2017年2018年と連続1位を獲得したいすみ市だが、今後の人口減少を考えると、まだまだ厳しい状況なのだと言う。
孤独にさせない取り組みを
出典:いすみ外房フィルムコミッションホームページ
地方でクラウドワーカーが成功するには何が必要なのか。
クラウドワークスはこれまでも多くの自治体でクラウドワーカーの育成事業を推進してきた。月収20万円を稼げることをプロジェクトの目標に掲げたり、子育て中で仕事をしていない女性を対象にセミナーを開くなど、その内容は多岐にわたる。同社のユーザーは全国に拡大しており、登録ユーザー数約200万人のうち、東京以外の人が77%。東京以外での受注は84%にのぼる。
社長の吉田浩一郎さんは、今回の連携協定の意義を2つ挙げた。1つは、市がバックにつくことで、信頼度や安心感が増すこと。そしてもう1つが、地元でのネットワーキングや仕事に対する具体的なサポートだ。
「行政や私たちが単発で講座をひらいても、結局はユーザーのみなさんが孤独に戦う状態になってしまいがちです。地方でクラウドソーシングが定着するかどうかは、地元のリーダーや民間企業がいるかどうかが大きいと感じています」(吉田さん)
目指すのは20万円稼げるクラウドワーカー
shutterstock/siro46
クラウドワーカーのスキルアップを担うのが、事業の拠点になるコワーキングスペース「hinode」を運営するPonnufの山口拓也さんだ。
大学卒業後すぐに千葉県でフリーランスとして働き始め、2014年にPonnufを設立した。週末限定や1カ月間の滞在型など、さまざまな形態のフリーランス養成講座を開催している。hinodeには約20人が常駐し、クラウドワークなどで収入を得ている。中には、月100万円以上を売り上げる人や、山口さんのような「新卒フリーランス」も。
「初めはどんな仕事を受けたらいいのか分からないし、クラウドソーシングで独立するのはやっぱりまだハードルが高いと思います。皆さんのスキルアップをしっかりサポートして、1年後には100人が20万円稼げるようになったらいいなと」(山口さん)
これまで移住してきたクラウドワーカーの中には、企業からの依頼を受けてwebメディアなどの記事を作成するだけでなく、地元の朝市や農産物を応援したいと、それらをPRするホームページをつくる人も出てきたという。市の移住支援担当者も、今回のプロジェクトから将来的にはそうした循環が生まれることを期待していると語った。
(文・竹下郁子)