時価総額1兆ドルのアップルとアマゾン。2社の「曲がり角」は対照的だ

企業価値1兆ドルを達成した企業が2社登場した。アップルとアマゾンである。

アップルは8月2日に、アマゾンは9月4日にそれぞれ1兆ドルを突破。どちらもAで始まり著しい成長ぶりを見せる点では共通しているが、その本質は大幅に異なる。アップルはハードウェア企業、アマゾンはサービス企業だからだ。

そして私は「アップルは終わりの始まり」「アマゾンは始まりの終わり」という曲がり角にあるのではないかと考えている。

過去の革新の成果の収穫期にあるアップル

スティーブ・ジョブズ。

アップルの創業者、スティーブ・ジョブズ。彼の天才的マーケティング能力と急速な基礎的技術の進化によって、アップルは急成長を遂げた(写真は2007年)。

David Paul Morris/Getty Images

最近、私は自分のブログで、達成不可能な技術をゴールに設定して不正に7億ドル以上を調達し、その後会社自体が消滅したことで話題となったセラノス社の創業CEO、エリザベス・ホームズとスティーブ・ジョブズを比較した。

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19歳の若さでスタンフォード大学をドロップアウトしセラノスを起業したホームズは、15年近くもの間、投資家や事業パートナーを偽り続け、豪華な本社を一等地に建設、元米国務長官のヘンリー・キッシンジャーや元米労働長官のジョージ・シュルツなどの重鎮を取締役としたが、結局そこには技術の裏打ちがなかった。

違いは基礎的技術の進化のスピード

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2014年、フォーチュン誌の「Most Powerful Women Conference」で語るセラノス創業者のエリザベス・ホームズ。

Shutterstock

セラノスには創業当初優秀な科学者のCTOがいたが、実現不可能な技術開発を迫られたこともあって2013年に自殺している。アップルの創業でもジョブズはマーケティングの天才、しかしその技術を作ったのはウォズニアックだ、とよく語られる。

ジョブズはそのカリスマ性によって、非現実的なアイデアを実現可能だと周囲に信じさせる説得力を持ち、彼の周囲には「現実歪曲空間」が誕生するとまで言われたが、ホームズにも同じ力があったと言える。しかし、2人を分けたのは、背景にあった基礎的な技術進化のスピードではないか、というのがブログの主題だ。

「集積回路上の半導体の数は2年ごとに倍になる」というムーアの法則がある。そして、その法則が最も美しく右肩上がりのグラフになった時期は、1976年のアップル1号機製作から2007年のiPhoneリリースときれいに重なる。

半導体という、電子機器の基本コンポーネントの圧倒的技術向上という時代背景があったからこそ、革新的なデバイスを発想するジョブズが成功を収めることができたのではないだろうか。

これまでと同じスピードでの革新は難しい

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「集積回路上の半導体の数は2年ごとに倍になる」というムーアの法則に沿って最も美しく右肩上がりのグラフになった時期が、アップルの成長と重なる。

https://en.wikipedia.org/wiki/Moore%27s_law#/media/File:Moore%27s_Law_Transistor_Count_1971-2016.pngを元に筆者作成

アップルの強みは美しいハードウェアにある。ソフトウェアもそのデザインの一端を担ってきたことに間違いはないが、より小さく、より薄く、よりミニマリストなハードの先進性による高付加価値で莫大な利益を生み出してきた。

それに比べると、インターネットやクラウドも含めたサービス面でのアップルの力は劣る。そして電子機器の技術革新速度が落ちてきた今、アップルが最も得意とするハードウェアの革新を、これまでと同じスピードで世界に送り出すことは難しくなってきた。

もちろん今現在だけを見れば、アップルの市場は初期のコアユーザから一般の人たちへと広がる過程にあり業績は素晴らしい。しかし、それは過去の革新の成果の収穫期にあるからだとも言える。

(一部には、アップルは自社ブランドの自動車発売を計画中で、その市場投入は2019年か2020年という噂もある。それが実現すれば大きな機会にはなるだろう。しかし、自動車も、自動運転により中長期的には高価なハードを売るビジネスからモビリティを提供するサービス事業へと変革する流れの中にある)

半導体小型化の速度が鈍化した今、当面は手元の小型デバイスの計算機能を増やすより、クラウドを活用し優れたサービスを生み出すことが価値の源泉となる時代になるだろう。端末を普及させネットワークに人々をつなげること自体がゴールとなった時代は終わり、これからはその環境を活用した人間の生き方の変革期が本格的に始まるのだ。

プライム会員とそれ以外に分断される?

アマゾンの物流倉庫

物流事業を地道に築き上げたアマゾンは個人相手に「決済」「消費行動のデータ収集」「モノを届ける物流経路」を確立した。

REUTERS/ Abhishek N. Chinnappa

一方、オンライン書店という慎ましい出発点からはじまったアマゾンは、今や生活必需品から嗜好品までその品揃えは圧倒的で、コンテンツの制作やストリーミングにも進出、生鮮食料品のスーパーマーケットを買収し、書店やレジなしコンビニを出店するなど実店舗も意欲的に展開し、さらに医療事業への進出も発表した。

まさにゆりかごから墓場まで、アマゾンで買えないものはなくなりつつある。今後、人間とマシンとのインターフェイスの鍵を握ると言われる音声入力でエコーを2000万台以上販売、商品検索のために訪れるサイトとしては半数以上がグーグルではなくアマゾンを選ぶようになった。しかも、インターネット上のビジネスを運用する上で欠かせないクラウドというインフラでも、アマゾンはAWS事業でトップの位置を占める。

送料無料などさまざまな特典を持つアマゾンのプライム会員も世界で1億人を突破した。「やがてアメリカの社会階層は、プライム会員とそれ以外に分けられる」というブラックジョークもあるくらいだが、あながち冗談とも言い切れない今日この頃。

日本でもアメリカでも、消費者向けの物流がアマゾン商品で溢れかえって問題となっているが、こうして一つまた一つと販売商品を増やす物流事業を地道に築き上げてきたことで、アマゾンは個人相手に、「決済」「消費行動のデータ収集」「モノを届ける物流経路」を確立した。「商流は、金の流れ、情報の流れ、モノの流れの3つからなる」と言われるが、その全てを抑えたことになる。

そして、その築き上げた粒度の高い土台の上にさらなるサービスを次々と追加できる体制が整った。10年後には、プライム会員だったらなんでも家まで配達され、コンテンツも見放題なのに加え、高度な医療も安価に受けられる時代になっているかもしれない。

アマゾンは事業拡大の好機

iPhone、macとアマゾン

これまでは全ての人にデバイスを行き渡らせることが利益の源泉だったが、これからはネットワークにデバイスがつながった環境を活用する時代に入る。

Shutterstock.com

「全ての人にコンピューティングデバイスを普及させ、それをネットワークにつなげる」ことがこれまでの進化であり利益の源泉だった。そのパラダイムの中でアップルは圧倒的強さを発揮した。

しかしこれからは、ネットワークにデバイスがつながっていることは前提で、その環境を活用して新たなサービスを構築する時代に入る。インターネットがまだ一般に今ほど普及していなかった時代から20年かけて、「インターネット上のビジネス」を構築してきたアマゾンが、さらにその事業を拡大する好機にある。金の流れ、情報の流れ、モノの流れというデータ、そしてそのインフラであるクラウドまで抑えてアマゾンは、その土台を活用し、次々に新たなサービスを生み出していくあろう。

以上が、「Appleは終わりの始まり、Amazonは始まりの終わり」と私が考えるゆえんなのである。


渡辺千賀(わたなべ・ちか/Chika Watanabe):三菱商事の営業部門に女性初の総合職として入社。米国ベンチャーへの投資などに携わった後、マッキンゼーで大手電機メーカーのインターネット戦略などを手がけた。 現MITメディアラボ所長の伊藤穰一氏のもとベンチャーの投資・育成に従事した経験もある。2000年に渡米し、Blueshift Global Partnersを創業。

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