超集中ヘッドホン「WEAR SPACE」は“売れる”か? パナソニックד出戻り”ベンチャーの挑戦

WEAR SPACE

WEAR SPACEのクラウドファンディング向けプロトタイプを装着してみた。既存のノイズキャンセルヘッドホンの耳あて部分と、布素材のシェードを組み合わせたモックアップだがノイズキャンセルは動作していた。装着感は見た目に反して軽く、首が疲れるようなことはなかった。スペック上の重量は約330g。

パナソニックが2018年4月に買収したIoT家電ベンチャー・Shiftall(シフトール)※。その初の「協業」が公表された。

Shiftallとパナソニックは、集中力を高めるヘッドフォン型のウェアラブル製品「WEAR SPACE」(ウェアースペース)の製品化に向けたクラウドファンディングを開始した。10月2日、都内で記者発表会を開き、その詳細を説明した。

Shiftall:2018年4月にパナソニックが子会社化したハードウェアスタートアップ。創業者はパナソニック出身で、家電ベンチャーCerevo創業者でもある岩佐琢磨氏。

WEAR SPACEは2017年10月にレッドドットデザイン賞のベストオブザベストを受賞するなど、「パーソナル空間を持ち歩く」ようなコンセプトと、奇抜なデザインが評価された試作だった。

今回の製品化を見据えたプロジェクトにあたっては、パナソニックが企画・デザインを担当、設計、製造、販売を子会社であるShiftallが行う。

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WEAR SPACEは、ノイズキャンセルヘッドホンと、周囲の視界を60%カットする布素材のシェードを組み合わせた製品。Bluetoothヘッドホンとしての機能も持ち、今後アプリから3段階のノイズキャンセル機能を切り替えられるようにもする見込みだ。

パナソニック製品の中にはノイズキャンセルヘッドホンもいくつかある。ただし、Shiftall広報によると、現時点ではこれらの製品や技術を流用するのか、Shiftall独自に調達するのかは決定していないという。

通常2年かかる「製品化」を10カ月に短縮する

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ハードウェアのベンチャーと協業するメリットはいくつかあるが、思いつくのはまずスピード感だ。形になって世に出て行く速さについて、

「(既存製品の進化モデルなら)1年程度で製品化するところ(部署)もあるが、新しい商品では(2年ほどの)時間がかかってしまうケースがある。(Shiftallのスピード感では)トップダウンで物事が進んでいく。フラットで少人数の組織(であることのスピード感がある)」(デザイナーの姜花瑛氏、Shiftall岩佐氏)

今回は、少ロット量産のノウハウを持つShiftallと協業することで、企画の本格始動から10カ月ほどで製品化する計画だ。

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Shiftall代表の岩佐琢磨氏。

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WEAR SPACEのデザイナー、姜花瑛氏。

発表会と同日開始したクラウドファンディングは、12月11日まで実施。支援金額は先着100台のスーパーアーリー・バード割引で2万8000円から。調達目標金額は総額1500万円。ざっと2カ月ほどで約500台の受注を、まずはとることが目標だ。クラウドファンディングが成功した場合、2019年8月以降の出荷を予定している。

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クラウドファンディングを引き受けるGREENFUNDINGの沼田健彦代表は、「1500万円は高い目標だが、達成させたい」と、クラウドファンディング成功のハードルは決して低くはないことを滲ませる。

大企業パナソニックがベンチャーShiftallと組む「意味」

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WEAR SPACEのプロジェクトはShiftallが子会社化されて以来、公にパナソニックと共同で進める初のプロジェクトになる。

Shiftall社長の岩佐氏は、パナソニックのことではなくメーカー系大企業の一般論だとした上で、メーカー系大企業には創業時から何十万人の母体になる中で薄まった3つの能力があると指摘する。

  1. エッジの効いた商品の開発
  2. 素早く少量生産するノウハウ
  3. これまでにない非連続的(ノンシリアル)なイノベーション

というのが岩佐氏の主張だ。ノンシリアルというのは、既存製品の「進化」(薄型化や高機能化)ではない、まったく新しい製品の創出を指す。

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イノベーションとは単に見たこともない製品だけを指すのではない。大半のイノベーションは既存の製品の進化系図から「分岐」して生み出される。WEAR SPACEはそうしたイノベーティブさを持っていると岩佐氏は説明した。

「製品を出してから考えよう。大企業は出す前に考えすぎる」。岩佐氏が口にしたこの表現は、スタートアップと大企業を対比したときによく使われる指摘だ。

これは大企業の作り方に問題がある、という意味では決してない。数十万台〜数百万台の生産を見据えた量産設計と、数百台の少量生産で市場性を試すような製品とでは、検討や製品化に要するプロセスがそもそも違う、という意味だ。

岩佐氏は会見の中で、パナソニックグループにおけるShiftallの役割を「輸血係」だと説明した。

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一度パナソニックを飛び出してベンチャーを創業した経験を持つ「スタートアップの緑の血が流れている」(岩佐氏)者として、「(人間の)赤い血」が流れるパナソニックにベンチャースピリットを注入して、パナソニックの体質を変えていく役割を期待されている、と自負する。

質疑の中で、「出戻った11年間でパナソニックが変わったことは?」との質問に対して経営陣の危機感の高さをあげた。「私が離れた2007〜2008年はイケイケドンドン、V字回復でこれから薄型テレビを売って行くぞという時期。対して今は、何かアクションをしないと、このままでは決して右肩上がりになることはないぞ、と(経営陣が感じている)。危機感があるのが、大きく変わったポイント」だと語る。

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パナソニックの直近2017年度の通期業績は売上高7兆9822億円、純利益は2360億円(前年比58%増)。数字としては健全な状態だ。しかし、一方で見たこともない新ジャンルで新たなビジネスを創出するイノベーティブな製品は(他のメーカー系大企業と同じように)、確かに目立ったところがない。それが、経営幹部の危機感の源泉ではないか。

実は、WEAR SPACEのクラウドファンディングが成立した際には、製品のクオリティチェックをする「品質保証」や、発売後の「サポート」といった部分は、基本的にShiftallが担うことになる。製品ブランドとしても、「パナソニック」の名前は使わない。ここがポイントだ。

大量生産に慣れた大企業にとって、いまやロストテクノロジーになりつつある「スピード感を持って新ジャンルの製品を小ロットで世に送り出す」こと。 これを今すぐに実践するにはどうすればいいか? そのためにパナソニックが選択した一種の裏技が、子会社を使った「イノベーション加速」ということではないだろうか。

(文、写真・伊藤有)

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