「人材を消費する企業」はキャリアに投資する学生から見捨てられる

就活全体

就活ルールを巡って事態は揺れているが、企業と個人の関係そのものが変わろうとしている。

人材系ベンチャーで、大学生の就職活動の場面に向き合っていると、さまざまな悩みを聞くこととなる。悩みのタネは以下の2つに大別される。

・自分がわからない。「そもそも何に興味があるのかわからない」

・社会がわからない。「自分の興味のあることが、仕事として社会にあるかわからない」

毎年のように同じことで学生が悩んでいる。なぜ毎年毎年、同じ悩みが発生するのだろうか。

筆者はこう考える。

「この国の人間の生産ラインがサビ付き始めている。もう、時代に合っていないのだ」と。

経団連の中西宏明会長が、新卒の採用選考の日程の指針である、いわゆる「就活ルール」を2021年春入社から廃止する考えを示し、波紋を広げた。一方で、「2021年は政府と大学がルールを作り、企業に要請する」との報道もあり、事態は揺れている。

揺れてはいるが、就活ルールに象徴されるような従来の採用や育成方法は、すでに「限界」ではないだろうか。

「今がんばれば将来はラク」というまぼろし

就活座談会

企業は人材を消費するのか。投資と見るのか。

過去、製造業の発展によって成功したこの国では、人件費は製造原価に含まれる。つまり、単位時間あたりの製造に必要な人材を「つくる」必要があった。そこでは、好奇心や多動性は歓迎されず、多くの場合「勤勉であること」「秩序に従う力」「同じことをミスなく処理する力」が必要とされた。個人に求めるのは労働であり、個人の好奇心や、社会的自己実現欲求は二の次であった。

皮肉なことに、生産ラインのベルトコンベアーを動かす人材自体が、ベルトコンベアーにより画一的に生産されていた。そしてそれはブルーカラーだけに留まらない。

人材の生産システムはホワイトカラーにも適用されているのが現状である。ベルトコンベアーに文句を言わず、おとなしく乗り続ける人材は優秀とされ、重宝された。製造業においても、サービス業においても。

今がんばれば将来安定して楽できるから「今だけ」がんばりなさいという、社会を知らない先生たちの利己的な「魔法の言葉のウソ」は徐々にバレ始めている。

「今だけ頑張る」を続けた結果、自分のことも、社会のこともわからなくなってしまった大人を目の当たりにし、若者たちは、社会を知らない大人たちの言うことに耳を貸さなくなっている。

キャリア

ルール廃止議論以前に、キャリア観は多様化している。

賞味期限切れのルールにより「実は恩恵を受けていた」のは、

  • 「思考することをやめて」古いベルトコンベアーに意志を持たずに乗っていた学生。
  • 「思考することをやめて」古いベルトコンベアーに学生を乗せ続けていた学校。
  • 「思考することをやめて」古いベルトコンベアーから流れてくる思考停止ロボットを、口を開けて待っている企業。

だと言える。彼らにとっては今後、ルールが自由化されれば、非常に苦しい時代になるだろう。

経団連ルールの廃止のような「自由化」は、彼らから「思考しない」ための言い訳を奪うからだ。

企業は「経団連のルールが原因で動けない」という言い訳ができなくなった。学生は、「就活解禁はまだだから、キャリアを考えなくても大丈夫」という言い訳ができなくなった。学校は「学生の本業は勉強だから、つべこべ言わずに学校に来い」という言い訳ができなくなった。

繰り返しになるが、いつの時代も、自由化に伴い割を食うのは、「ルールを言い訳にして思考と行動をやめた者たち」だ。ルールを盾に無意識に言い訳をつくっていた、各々のプレーヤーは「ルールに助けられていたことを自覚する」ことがファーストステップではないだろうか。

ルール廃止後の世界

では、ルールが廃止になった場合、起こりうる二極化について、考えてみよう。

【学生】

時間を投資する学生:意識が高いと周りから揶揄されても、自分のキャリアを大事にしたい学生は、今回の経団連のルール改定も情報としては知っているものの、今回の変更により明確な実害を被るとは思っていないようだった。これまでの学生へのヒアリングから、どんな名前の会社に入るかよりも、そこでどんな経験をするかが彼らにとっては重要だ。

時間を消費する学生:逆に就活期間になんとなく就職活動をしなければならないというマインドの学生にとっては、厳しい事態となるだろう。

高校生のエンジニアが長期インターンに参加し入社パスを持っているというような事例は増加している。そんな中で、現状の大学3年生の◯月からという就活期間での採用が形骸的に維持されるのであれば、それは事実上の「最後の数合わせ期間」となる可能性もある。

【企業】

人材に投資する企業:かつては母集団形成から適正を見極めるのが一般的で、なるべく多くエントリーを募り、面接でジャッジしてふるい落としていくという考え方がメーンであった。

一方、昨今ではベンチャー企業を中心に「ブランドアイデンティティ(誰に対してどんな約束をするのか)を確立し、10人会って10人入社してもらう」と、採用ブランド確立のために投資する企業が増加し始めた。学生を採るか採らないかという二元論から既に脱却している企業は強い。

人材を消費する企業:とりあえず採用し、入ってから使えるか判断して切り捨てる企業は、自分のキャリアに投資したい人から距離を置かれることとなるだろう。いわゆる難関のインターン先に参加している、学生は言う。「自社に合うかどうかわからないが、とりあえずスペックがいいから採っておくかという企業の姿勢が垣間見えて怖くなった」と。自分にとっては、ファーストキャリアは大切な時間投資。消費的な感覚で採用されると思うと怖くなるというのだ。当然、そうした企業は敬遠されることになる。

個人と法人が対等の時代は避けられない

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個人と企業の関係性は変わりゆく。

今後、企業と求職者の関係性、企業と社員の関係性は大きく変わろうとしている。キャリアのオーナーシップは法人から個人にシフトし始めている。

採用するかしないかという考えでしか個人を見ない採用担当、社員であるかないかという観点でしか個人を見られない古い企業。つまりは「人材を消費する企業」にとっては、厳しい時代になっていくのは間違いない。

一方、就活生にもみられるように「時間を投資する個人」はこれからもっと増えていくだろう。

現状の問題は「人材を消費する企業」が、「時間を投資する個人」を採用していることにある。

キャリアに対する価値観が多様化した現在において、これからの個人と企業の理想的なマッチングは「時間を投資する個人と、人材に投資する企業」になることは、「ルール廃止後」において、自明と言えそうだ。

(文・寺口浩大、写真・今村拓馬)


寺口 浩大:ワンキャリアの経営企画 / 採用担当。リーマン・ショック直後にメガバンクに入行後、企業再生、M&A関連の業務に従事。デロイトで人材育成支援後、HRスタートアップ、ワンキャリアで経営企画/採用を行う。社外において複数HRに関わるコミュニティのデザイン、プロデュースを手がける。3月よりライターとしても活動を開始。

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