唯一の女性大臣・片山さつき、杉田水脈両氏の共通点—— 男性の“本音”代弁者

10月2日、第4次安倍改造内閣が発足した。「女性活躍」を掲げて5人の女性閣僚を登用してから4年、全閣僚のうち女性はただ1人になった。

「女性は弱い性のままではサバイバルできない」。初入閣で地方創生相と女性活躍担当相になった片山さつき氏(59)は、これからの女性に期待することを問われ、こう答えていた。

「自民閣僚19人中14人が日本会議」

片山さつき

他の大臣らと内閣改造後の写真撮影にのぞむ片山さつき女性活躍担当大臣。

REUTERS/Issei Kato

安倍晋三首相が「全員野球内閣」と名付けた新内閣と自民党の役員人事に関して、「責任を取っていない」と野党議員から批判の声が上がっている。

学校法人森友学園の国有地取引に関する決裁文書の改ざんや交渉記録の廃棄、福田淳一・前事務次官のセクハラ問題で「セクハラ罪という罪はない」と発言した麻生太郎財務大臣(78)は留任。自民党役員人事でも、金銭授受問題で閣僚を辞任した甘利明・元経済再生相を党選挙対策委員長に、自衛隊の南スーダンPKOの日報問題などでやはり閣僚を辞任した稲田朋美元防衛相を総裁特別補佐に起用したからだ。

その一方、初入閣も多いことから「閉店セール内閣」と評したのは共産党の小池晃書記局長だ。さらに「首相と同じ毛色の政治家をそろえた右バッターばかりの『お仲間内閣』。自民党閣僚19人中14人が日本会議、全員が神道議連」と言い、憲法改正への懸念を示した(本人ツイートより)。

大臣らの過去の発言も話題になっている。LGBTへの差別的な寄稿で批判されている杉田水脈衆院議員(51)を「自民党だけではなく国家の財産」と賞賛していたのは、原田義昭環境相(74)(『ジャパニズム』2018年2月号)。

IT担当相と科学技術担当相になった平井卓也氏(60)は、自民党ネットメディア局長を務めていた2013年、ニコニコ動画での党首討論の生放送中に社民党の福島瑞穂党首(当時)に対して「黙れ、ばばあ!」と書き込んでいた

また、2015年にテレビ番組で同性婚について「少子化に拍車がかかる」などと発言し大きな批判を集めていた柴山昌彦文部科学大臣(52)が、2日の記者会見で教育勅語は「現代風にアレンジした形で道徳などに使えるという意味で普遍性を持っている」と発言。SNSでは「戦前回帰」だと抗議する意見が多く見られた。

女性活躍はスタートしたばかり?女性は1人で3人分働く?

安倍晋三

新内閣は9月の自民党総裁選で安倍首相の3選を支えた閣僚をはじめ、各派閥への配慮がいたるところに見られる。

Getty Images/Tomohiro Ohsumi

通常、内閣改造後は支持率が上がるが、3日に共同通信社が発表した電話世論調査によると安倍内閣の支持率は46.5%と、前回9月調査から0.9ポイント減だった。

中でも特に批判を集めているのが、女性閣僚が1人しかいないことだ。安倍首相は2日の記者会見で「各国と比べて女性閣僚の比率は少ないと認めざるをえない」「日本は女性活躍がスタートしたばかり」と言い、片山氏について「2人分、3人分の発信力を持って仕事をしてもらいたい」と期待を寄せたという(朝日新聞デジタル2018年10月3日)。

Twitterでは批判の声が起きた。

「どうも安倍政権の『女性活躍』とは『女は3倍働け』ということみたいですよ」
「この人にかかるといつも道半ばとか、始まったばかり」
「女性閣僚が一人だけなのは『女性が輝く社会、あれは嘘だ』というメッセージ」

2017年に世界経済フォーラムが発表したジェンダー・ギャップ指数で日本は144か国中114位。特に評価が低いのが政治の分野で123位だった。女性議員の割合は衆議院で10.1%、参議院で20.7%と少ないことが原因の一つだが、今回の閣僚人事を見ると、政権に女性議員を増やす意思があるのか疑問だ。

政府は2020年までに社会のあらゆる分野において、指導的地位に女性が占める割合が30%になるよう目指しており、これにはもちろん政治家も含まれている。民間企業も目標達成はできておらず、厚生労働省調べでは、企業の管理職に占める女性の割合は部長相当職では 6.6%、課長相当職では 9.3%、係長相当職では 15.2%だった(2017年度雇用均等基本調査)。

生活保護利用者や慰安婦バッシング…片山大臣の過去

片山さつき

片山大臣は東京大学法学部を卒業後、大蔵省(当時)に入省。2005年の衆院総選挙で静岡7区から初当選している。

出典:片山さつき大臣ホームページ

上記の「2020年30%」目標を牽引するのが内閣府男女共同参画局だ。片山氏は内閣府特命担当大臣として、男女共同参画も担当する。

片山氏は2日、「全ての女性が輝く社会の実現は、成長戦略の1丁目1番地。引き続き安倍内閣の最重要課題の一つ」と話したというが、「女性が輝く社会」とは一体どのような社会を指しているのか。

2016年のインタビューでこれからの女性に期待することを問われた際、こう答えている。

「生きている間に必ず大災害には見舞われるでしょうし、その中で女性は弱い性のままではサバイバルできません」「どういう人生を送るにしても自分を持って、自分の足で立って生きないと」「やっぱり、隕石が落ちてきたら、男女平等もなにも、人間としてのサバイバル能力が高くないとどうしようもないですからね」

一方で、現在の片山氏のホームページのトップページには「女性へのDV、学校でのイジメなど『立場の弱い方』への暴力は跡を絶たず、シェルターや対策を根気強く進めて参ります」とある。

そもそも片山氏といえば、慰安婦問題や生活保護利用者へのバッシングを繰り返してきたことで有名で、保守派の雑誌にも度々登場している。

『WiLL』には「生活保護は在日に甘過ぎる」(2012年6月号)「社会保障が中国人に食い尽くされる!」(2013年1月号)などの寄稿のほか、「女性発信で『性奴隷』と戦え!」(2013年8月号)では、慰安婦を「あくまでも対価性のある『労働者』だったのであって、縛られた『奴隷』ではなかった」と問題を矮小化。「官邸や外務省ができないことを女性発信でやっていかなければ」と結んでいる。

『正論』2012年11月号での稲田朋美議員との対談「韓国は叩け、さもなければつけ上がる」では、中高生が韓国へ修学旅行に行くことを問題視。「ソウルの慰安婦博物館等、日本政府の公式見解に反する歴史的展示を行う施設をたくさん見学先に入れている学校もあった。私たちが問題視すると中止にしたんだけど」などと発言している。

こうした「センシティブな問題」(本人談)を女性だからこそやっていくという姿勢は、LGBTへの差別発言が問題視されている杉田水脈議員と共通しているように感じた。今も当時と同じ考えなのか、今後問うていく必要があるだろう。

関連記事:「なぜ杉田水脈議員は過激発言を繰り返し“出世”したのか──女性が女性を叩く構図は誰が作ったか」

男性の本音よりも女性の埋もれた声に耳傾けて

国会議事堂

撮影:今村拓馬

野田聖子・前総務相は女性閣僚が1人しかいないことに関して「3、2、1(人)と減り続けているので私は大変心配している」「閣内に小姑がいなくなるならば、外にいる多くの、男女問わず厳しいことを言う人に耳を傾けて」と2日午後の退任会見で苦言を呈している(朝日新聞デジタル2018年10月2日)。

2017年、文部科学省が組織再編で女性の社会進出を支援する「男女共同参画学習課」を廃止し、新設する共生社会学習推進課に「男女共同参画学習室」として統合する案を打ち出したことがあった。課から室への「格下げ」だと識者や議員などから多くの批判の声が上がり、「生涯学習政策局男女共同参画学習課」として残ることになった。

この件について野田議員は「それはどうかなと思って、女性活躍担当大臣として文科省に申し入れたんですよ。そしたら私がコワいので検討し直してくれて、『課』のまま残してくれることになったんです。ちょっとは役に立ってるんですよ」と振り返っている(『週刊朝日』2018年1月19日号)。

片山さつき女性活躍担当相に期待するのは、前出のように男性が言いづらい本音を代弁するのではなく、まさにこうした女性たちの声を政治の中枢に届けることだろう。

国会や地方議会で男女の候補者数を均等にすることを目指す「政治分野における男女共同参画推進法」も施行されたばかりだ。罰則規定がない理念法のため、自民党はもちろん各党に呼びかける必要があるだろう。片山大臣がどのようなイニシアチブを取っていくのか、注視したい。

(文・竹下郁子)

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