フェンシング協会、月4日勤務の企業人材の採用でスポーツ界改革を

レスリング、日大アメフト、ボクシングに体操と不祥事が続くスポーツ界。共通するのは一部権力者のパワハラ体質だが、その背後に各競技団体のガバナンスの欠如や脆弱な経済基盤、なかでも「人材不足」が透けて見えた。

「もっとしっかり、きちんと運営してほしい」

苦言を呈するスポーツ庁の鈴木大地長官のリクエストに応えるかのように動いたのが、31歳で会長に就任した太田雄貴会長率いるフェンシング協会だ。

五輪後に一変して資金不足に

公益社団法人日本フェンシング協会太田雄貴会長。

31歳で会長に就任した太田雄貴会長率いるフェンシング協会は着実に改革を進めてきた。

撮影:今村拓馬

日本フェンシング協会は、10月4日から戦略プロデューサー4職種(各1名、合計4名)を「副業・兼業限定」で、即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」上で募集する。つまり、スポーツとかかわったことのない他業種の人材を、外から迎え入れる。

外部人材の登用による彼らの協会活性プランとは、どんなものなのか。「他の競技団体にとって目指すべきロールモデルになりたい」と意気込む太田会長に聞いた。

「スポーツ界はここ最近さまざま(不祥事が)ありましたが、僕らが外部からの人材登用を考えた理由は、2020年東京五輪以降の対応策です。2020以降はすべての競技団体への補助金が大きく減ることになるでしょう。今は2020をにらんだ国からの強化費があるので、多くの遠征に行けます。でも、その五輪が終われば一変する。不足する資金を自分たちで稼いで、強化を継続させなくてはいけません」

公益社団法人日本フェンシング協会太田雄貴会長。

日本の競技団体には、ジョブ・ディスクリプションが不足していて、業務内容や評価基準が非常にあいまいだった。

収益をあげ安定した運営を続ける構造をつくるためには、人材が必要だと考えた。スポーツ庁は2年前に発表した「競技力強化のための今後の支援方針(鈴木プラン)」で、その大きな柱として「2020年以降を見通した強力で持続可能な支援体制の構築」を掲げている。

「減収を何で埋めていくのか。それをフェンシング関係者でやれるのか?と。お金がない、人材もない。ないないづくしがずっと僕たちを苦しめてきた。いい人材にリーチできなかった。それでまずは自分たちに何が足りていないのかを自己分析し、それを埋めてくれる機能をビズリーチと一緒に考えた。つまり必要となるポジションのジョブ・ディスクリプションを明らかにしたのです」

「自分たちの“むら”だけでやってきた」

ジョブ・ディスクリプションとは「職務記述書」と言われる。日本ではあまりなじみはないが、ひとつの職務の内容はもちろんのこと、その仕事の目的や目標、責任、権限の範囲などを詳細に記したものだ。

「うちも含めて、日本の競技団体はここが弱かったと思う。何を業務とし、その人の何をどう評価するのかが非常にあいまいだった。結果的に金メダルを獲ればよかったのかもしれませんが、今は違います。インテグリティ(誠実さ)やガバナンス、運営能力などさまざまなものが求められている」

これまでのスポーツ界によく見られたのは、こんな構図だという。

北京オリンピック男子個人フルーレで銀メダルを獲得した太田選手(当時)

今まで日本の競技団体で必要とされていなかった、インテグリティやガバナンス、運営能力などさまざまなものが求められている。

Getty Images

好成績を挙げた選手が指導者になって、その次に監督になって、強化本部長に。その後は理事、役員になって最終的に会長になる。終身雇用のような(人事)モデル。


「日本のスポーツ界は、そこにお金が介在しているか否かを問わず、人材を含めたものすべてを自分たちの“むら”で完結させていました」

つまり、「勝った人」が「勝たせる」側にまわるという構図だ。

だが、スポーツが高度化しグローバル化、アマチュアからプロ化も進み、昭和の手法が通用しなくなった。根性論のパワハラ指導が受け入れられなくなったことがひとつの象徴だろう。そんな問題が他の競技団体で発覚する以前から、太田会長は疑問を抱いていた。

「ビジネスの世界であれば、ある企業でPRの仕事をしていた人が転職して違う企業でPRの仕事をすると、人材に流動性が生まれやすい。例えば、スポーツの世界でも、例えば柔道の強化本部長がフェンシングの強化本部長をやってもおかしくないのに、そういうケースは聞いたことがない」

収益構造を変えていく

人材が流動化すれば、移動した本人の能力にも幅が生まれる。例えば企業で働く人間がスポーツ界で働ければ違うスキルが磨かれる。そしてまた企業に戻ることで、企業の人材も厚みがでる。企業とスポーツ界が新たな知見、アイデアでつながれる。今回募集する4つの職務のなかでも肝となるのは「経営戦略アナリスト」だ。

「フェンシング協会の方向性を定めていく。収益事業を増やしていくために何をすればいいかを僕らと一緒に考えて実行してもらう。今までのスポーツ団体の事務局の仕事は登録業務と補助金の申請業務だけで良かったのを、収益構造を変えていくわけです。でも、僕らは野球さんやサッカーさんのようになろうとしてはいない。僕らの適正な場所をとらえたい」

マスクのない第4の種目を考える

フェンシング競技中の太田選手(当時)

子どもが楽しそうにおもちゃの剣を振り回して遊ぶ。そんな競技も考えているという。

REUTERS/Issei Kato

太田会長によると、スポーツでテレビの視聴率が最も高いのはフィギュアスケート。競技人口は2000人ほどだ。現在6500人のフェンシングにとって、理想とする競技のひとつだろう。

「そのために『第4の種目』を考えています。ルールがわかりづらくて顔が見えないといわれるので、ルールがわかりやすくて(マスクをかぶらず)顔が見える種目です。元気のいい子どもがおもちゃの剣を振り回して遊びますよね。チャンバラ?いえ、僕らはそれをフェンシングと呼びます(笑)。それも競技への入り口ですから。町のおもちゃ屋さんで気軽に買える道具でできると面白いと思う」

ほかの3つはPRプロデューサー、マーケティング戦略プロデューサー、選手に直接かかわる強化本部ストラテジストですら、フェンシングに馴染みがなくてもいいという。

「職務の一つは、勝つ確率を上げていくためのスカウティングや強化策を練ること。例えば女子のエぺと戦える選手の身長は何センチあった方がいいなど、狙いを定める。選手育成の過程で必要なマーケティングとスカウティングですね」

選手にも経済的自立求める

一方で、選手にも「経済的自立」を求める。10月からスタートする今季から、日本代表のユニホームに選手個人のスポンサー枠を設けた。かつてない画期的な取り組みだ。何%かを協会に収める必要はなく、選手自身がセルフブランディングして自らの商品価値を高めるわけだ。

悪質タックル問題のあった、日大アメフト部のグラウンド。

他のスポーツであった不祥事も自分事として受け止めているという。

撮影:今村拓馬

「他団体のパワハラのニュースも、自分事としてとらえています。今うちに何か問題はあるわけではないが、『うちは大丈夫』とも思わないようにしている。選手とスタッフ、彼らと協会と、どの関係性も対等でなくてはいけない。『フェンシングを発展させる』という目標を共有して、フェアな関係性で進んでいきたい」

募集する4つの職種は、月4日程度勤務。平日の夕方や、週末など時間や日数は応相談。日当は1万5000円。太田会長は

「2、3年後に何らかの結果が出ると思う。うまくいけば、ほかの協会さんもやってほしい。絶対によくなると思う。門戸を開け、新しい風を呼び込むことは社会的に意味がある」

と言い切る。

「スポーツむら」と揶揄(やゆ)される閉塞的な状況を打破し、「みんなのフェンシング」を目指す太田戦略が一石を投じるか。

(文・島沢優子)

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