トヨタ×ソフトバンク提携には「必然」しかない ── 平成最後の衝撃協業を読み解く

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左からソフトバンク宮川 潤一 副社長、孫正義会長、トヨタ自動車 豊田章男社長、友山茂樹副社長。

撮影:伊藤有

10月4日に開かれたトヨタ自動車とソフトバンクの戦略提携と、新会社「MONET Technologies(モネ テクノロジーズ)」の設立発表は多くの人々を驚かせた。何しろ、当事者である両トップに「両社は相性が悪いと思われている」(トヨタ自動車・豊田章男社長)「話を聞いた時『ホントか?』と思った」(ソフトバンク・孫正義会長)と言わせるくらいなのだから。

だが提携の内容を詳細に分析すると、なるほど、「この提携はこの両社でしかあり得ない」ことが見えてくる。

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約20年前、豊田社長が課長をつとめていた時代に孫会長からの提案を断った経緯から「トヨタとソフトバンクは相性が悪いのでは?という噂があったようだ」と自ら発言。その後、ヤフー検索の結果を引き合いに出し、自分と違って孫会長は笑顔ばかり。このアルゴリズムはなんとかしていただきたい、とジョークを飛ばして会場がドッとわいた。

なぜトヨタはソフトバンクを選んだのか?理由は明白だ

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両社副社長による戦略提携のプレゼンテーションのあと、孫正義ソフトバンク会長、豊田章男トヨタ自動車社長がそれぞれ登壇し、ビジョンを語った。写真はモビリティAIの群戦略に関して語る孫会長。

撮影:伊藤有

多くの人がまず思うのは、「なぜトヨタはソフトバンクを選んだのか?」ということだ。「NTTドコモやKDDIでもいいのでは」と思う人はいるはずだ。特にトヨタは、KDDIにとって第2位の大株主(持ち株比率は12.40%)。ならば、まずKDDIと組むのが妥当な選択に思える。

けれども、それは今回の場合ありえない。なぜなら、トヨタは「大手携帯電話事業者・ネット事業者」と提携したのではなく、「IT投資グループ」であるソフトバンクグループと提携した、というのが実際のところだからだ。

トヨタ・友山茂樹副社長は、提携の経緯を「弊社から持ちかけ、両社の若手グループで検討した」と説明している。発表会においては相思相愛を強調したが、基本的には「トヨタが求め」「ソフトバンクが両手を挙げて応じた」という流れなのだろう。

トヨタが欲した「ライドシェア」が生み出す膨大なデータ

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ウーバー、DiDi、Grab、Ora。各地域で存在感を示すライドシェア大手に、それぞれ実質的な大株主となっている先見の明が、20年の時を経てトヨタとの提携を実現した直接的な理由と言える。

トヨタはソフトバンクグループのなにを求めたのか?

それは「ライドシェアのトップグループ」の知見だった。ソフトバンクは、ウーバー(北米・欧州)、DiDi(中国)、Grab(東南アジア)、Ora(インド)といった、ライドシェア大手の筆頭株主になっている。

「4社で全世界のライドシェアの乗車回数の90%を占めている」と孫会長が語るほど、影響力は大きい。そして何より重要なのは、巨大なシェアを背景に「配車」「運転」に関する情報が集まり続けている、ということだ。

「(配車アプリは)単なるアプリだと思われている。まったく的外れな表現で、過小評価。モビリティのプラットフォームであり、AIを使ったサービスのプラットフォームである」

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単なるアプリだと思うのは過小評価だ、と自身の見解を語る孫会長。配車アプリから取得できる莫大な利用データは、地域ごとの需要分析や、価格を需給に合わせて大きく変動させたり、15分後の需要を予測する未来予測にまで生かされている。

孫会長は発表会でそう言い放った。データが集まること、それを解析することがそれらの企業の「価値」だとすれば、ライドシェアをアプリで語るのは確かに過小評価だ。携帯電話事業者はそれぞれで「AI配車」や「自動運転」の技術開発を進めているが、日々集まるデータの量という観点でみれば、実際にビジネスをしているトップグループとは、何桁も引き離されている。

そして、トヨタはまさにその価値を正しく評価したからこそ、ソフトバンクグループとの提携を選んだ、ということになる。

ソフトバンクグループ側から見れば、自社が持つデータの価値を生かすチャンスが、世界最大級の自動車会社の側からやってきたことになる。提携を否定する要素はどこにもない。

「プラットフォーマー」へと脱皮するトヨタ、「リアル」を欲するソフトバンク

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ソフトバンクの「群戦略」になぞらえて、トヨタは「仲間づくり戦略」だとする豊田社長。

では、なぜトヨタはそこまで「ライドシェアから得られるデータ」に固執したのか? それは、彼らが自動車を売る会社から脱皮しようとしているからだと筆者は思う。

今年1月の世界的なテクノロジー展示会・CES2018で、トヨタは、将来の自動運転を見据えたMaaS(Mobility as a Service)プラットフォームである「e-Palette」を発表した。

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CES2018で発表されたトヨタのMaaS事業構想「e-Palette」。ステージには豊田社長のほか、自動運転子会社TRIの幹部も登場した。

撮影:西田宗千佳

業務向けの自動運転車を、物流・交通だけでなく、物販やコワーキングなど、「移動が絡むビジネス」すべてを包含するビジネスの土台とすることを狙っている。そのためには、自動運転の技術はもちろんだが、効率配車やサービスの内容に応じて車体の利用状況を変える技術、課金や車体の運行管理など、広範な「プラットフォーム技術」が必要になる。

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合弁会社MONETでのサービス展開構想。2020年、つまりオリンピックを目指し配車を含めたオンデマンドモビリティサービスを開始し、2020年代半ばにe-Paletteのサービス展開を目指す。

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ソフトバンクがMaaS事業に共同で取り組む背景として、高齢化社会の加速や、恒常化している赤字バス会社の現状などを挙げ、社会課題の解決策として挑むことを強調した。

CES2018での発表の際、豊田章男社長は、「もはや我々のライバルは自動車メーカーだけではない。アップルやグーグル、フェイスブックなども強力なライバル。ソフトウエアの技術が非常に重要になる」と語った。e-Paletteがプラットフォーム技術である以上、仮想敵は「プラットフォーマー」になる。ならば、プラットフォームビジネスを知り尽くし、仲間を多く持つ企業とのアライアンスが必要になる。

一方で、プラットフォーマーには「リアル」である自動車をコントロールするノウハウが決定的に欠けている。

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自動車業界を取り巻く4つの変化を「CASE」という言葉で説明する豊田社長。

「自動車は売ったら終わりではない」

豊田社長は発表会でもそう語った。整備が必須であり、中古市場があり、アフターマーケットがある。整備不良や故障は人の命につながる。いかに信頼性を担保するか、長く製品を動くものとして維持していくかが、産業全体では非常に重要な要素だ。これは、せいぜい数年のサイクルで回っているサービスプラットフォームとはまったく異なる要素と言える。

だからこそ、ソフトバンクグループのようなプラットフォーマー志向の企業は、最終的に「リアル」な企業と協業をせねばならない。それが「トヨタ」の存在だったのだ。

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日本を代表する経営トップ2人のトークでは、20年前に当時課長だった豊田社長に提携を断られた際の心境を「大きな岩の前で、(トヨタという存在を)仰ぎ見る感じ」(孫会長)だったと語った。

このように考えていくと、今回の提携はまさに両者の思惑が一致していることが見えてくる。次の課題は、いかにビジネスを具体化するかだ。そのためには、国内法制度を含めた「環境変化」への働きかけが重要になる。

今回の発表では、100カ所での展開を想定した、実証的なビジネス展開についての言及もあった。

これは、大手2社から国に対しての、ある種の圧力ではないかと感じる。

(文・西田宗千佳、写真・伊藤有)


西田宗千佳:フリージャーナリスト。得意ジャンルはパソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主な著書に『ポケモンGOは終わらない』『ソニー復興の劇薬』『ネットフリックスの時代』『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』など 。

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