オフィスを離れて気分転換にカフェでリラックスして作業。そういう使い方をしたい人にとってSurface Goはどんなマシンなのだろうか?
過去最小サイズのSurfaceこと、「Surface Go」。個人的に普段メインの取材機材として 10.5インチ版iPad Proを使っていることもあり、「iPad Proの課題をどこまで解決できて、何が変わってしまうのか」が気になっていた。ここではあまり数値的なデータによるのではなく、週末を挟んで数日感、触って気づいた体験性能を見ていきたい。
比較対象:仕事道具としての「iPad Pro」を考える
今となっては珍しくなった、4辺の額縁がやや太めのデザイン。本体(タブレット)とキーボード(タイプカバー)とを合わせた重量は約765g。
以前、ITジャーナリストノ石野純也さんにも書いてもらったが、取材現場でiPad Proを使う人は、記者界隈ではこの数年で増えている。
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iPad Pro初代が発売された2015年頃は、ビジネス向けの用途はかなり懐疑的に見ていたが、その後iOSが9から11、さらについ最近iOS12にまで改善が進んで、道具としての割り切りと完成度が出てきた、という事情もある。
まとめると、iPad Proの特徴は以下のようなものになる。
- スリープからの復帰がPC比で爆速。待ちがない
- いつでも無思考でインターネットに繋がることによる準備ストレスの大幅な低下
- 比較的薄くて軽く、バッテリー駆動10時間
- スプリットビューのおかげで画面を広々使える。作業によってはWindowsのマルチタスクより良い(メモしながらTwitter投稿、資料表示など)
[iPad Proの悪い部分]
- データ連携で組み合わせ可能なアプリに制限がある(仕事で使うにはワークフロー設計が必要)
- 仕事に欠かせないMS Officeは、書類作成にはストレスのある操作性
- アプリの安定性に難あり。組み合わせ次第の部分もあるが、日本語入力が突然フリーズするケースがある
今回は、iPad Proのこうした特徴をベンチマークに、比較していった。
Surface Goはどれくらい「コンパクト」なのか?
日本版価格が6万4800円からとやや残念なことになってしまったため、「お手頃価格」であることがウリではなくなったSurface Go。それでも、10インチというiPad Proを意識したとしか思えないサイズ感は大きな魅力の1つだ。
iPad Pro 10.5は、週末のちょっとした外出のときにボディバッグにスッと収まる絶妙なサイズ。持ち歩きやすさは、10インチ級のマシンにとって重要な要素だ。Surface Goはどうだろうか。
横幅が約40センチのバッグ。ウェストバッグとしてもボディバッグとしても使えるもの。見た目より容量があってiPad Proの持ち歩きにも重宝している。
上の写真がいつもiPad Proを持ち歩いているバッグ。グレゴリーの公式サイトで調べると、現行製品ではテールメイトS相当のサイズのようだ。
Surface Goを入れてみると、iPad Proより四隅がやや突っ張るものの、すっぽりとバッグに入った。外出を想定して、いつもの同じ携行物(といっても、サイフとスマホ、アップルのAirPodsのみ)を詰めてみても違和感なく収まる。バッテリーは公称約9時間もつから、丸1日屋外でヘビーに作業するのでもなければACは不要。この辺のモバイル性はiPad Proとほぼ同等と言える。
10インチの画面は「小さい」のか?
膝置きでタイピングしているイメージ。10インチだから、一般的なノートPCに比べるとやや小さめ。
10インチという画面サイズは、どんなに解像度を高くしたところで、物理的な面積が小さい。だから、このサイズをどう有効活用し、何を諦めるかという、割り切りがポイントになってくる。
iPad Proの場合は、スマホ版iOSを発展させた「タブレット専用のUI」をつくることで割り切っている。
画面を左右2分割にするだけだと3つ以上のマルチタスクができないのでは?と思う人もいるかもしれないが、この仕様でほとんどの人が事足りることは、今のiOSの進化が証明している。
用途次第だが、記者の取材仕事だと、メモアプリ+右脇にTwitterアプリが定位置。これが非常に使いやすい。
これとほぼ同じことは、Surface Goでもできる。Windowsの画面分割機能は、10インチくらいのサイズにはちょうどいい。がんばってウィンドウモードで使ったところで、各窓が小さくなって使いにくいだけだ。
ただ、iPadとSurfaceを比較しながら使ってみると、体感ではSurfaceの方が「何か画面が狭いな」という感覚を感じやすかった。
原因をたどっていくと以下の2つが理由になっているようだ。
- 画面に表示する文字サイズが細かいこと
- ブラウザーのタブやOSの操作系などのボタンが小さいこと
このうち文字サイズについては、OS自体の文字サイズを標準設定より拡大することで対処できた。
一方、画面上のボタン類が小さいことは、そもそものWindows10の設計の問題もあるので、完全解消は難しい。Windowsは「タッチとマウス両対応」と建前では言っているし、ブラウザーのEdgeも当初に比べてタッチ操作向きにUI改善も進んだが、依然として操作系の設計はマウス向けに寄っている。
極端に言えば1ドット単位の選択もありえるポインター(マウス)を前提とした操作系を、幅1センチ近くある指で操作すると「押しにくい」「画面が狭い」と感じるのは当たり前。この操作感の違いは、店頭の実機を試すときに注意してみてほしいところだ。
似ているようでかなり違う「画面2分割」の使いやすさ
こんな風に全画面表示で使うぶんには狭さはあまり感じない。3つ以上のアプリを切り替えるマルチウィンドウでの操作は、iPad Proに慣れて以降、このサイズのマシンではあまり積極的に使わなくなった。
一方で、iPadに比べた利点は「アプリの自由度の高さ」。これに尽きる。
極端にパワーが必要だったり、特殊なハードが必要なものを除いて、基本的にほとんどのアプリが問題なく動く(はずだ)。
はず、と書いたのは、今回の試用機がWindows 10S限定での試用という制限があり、ストアアプリしかインストールできなかたっため。Officeをはじめいくつか日常的なアプリをインストールしてみた限りでは、「これは……」と感じるような遅さはない。ごく普通に使えて、気分を盛り上げてくれる優れたデザインのノートPCだ。
ちなみに廉価クラスのSurfaceといえば、2015年発売のSurface 3があるが、こちらも実は所有していた。ただ今から見ると使い込み評価はイマイチで、メモリーが最大でも4GB(Surface Goは最大8GB)ということもあり、動作にストレスを感じることがたびたびあった。
今回のSurface GoのCPUは「Pentium Gold 4415Y(1.6GHz)」、Surface 3は「Atom x7-Z8700(1.6GHz)」。クロック数は同じでも世代がそもそも違い、メモリー容量も上位モデルは8GBと倍増しているので、Surface Goの動作はかなりまともだ。
机上での利用時は、キックスタンドはここまで寝る。ペンを使う際や、対面でプレゼン資料を相手に見せるなどの使い方に便利だろう。
過去のSurfaceシリーズと同様、microSDカードスロットはこの位置に。容量が少ないモデルを買って、microSDカードで実質的な記憶容量を増設するといった使い方ができる。
画面分割に話を戻そう。
iPadも専用アプリであれば使いやすいが、業務系アプリはそもそもWindows版しかないことも多い。Webアプリについても、ブラウザーの仕様の問題で、iPadで動かすとデスクトップ版Chromeブラウザーなどとは違う挙動になることもある。こういう心配が一切ないのが、Surface Goの大きな強みといえる。
細かい指摘をすると、汎用性の高さが諸刃の刃になっている部分もなくはない。端的なのは画面分割時のアプリの挙動だ。
iPadの場合は、分割比率がどんな比率でも、2つのアプリはおおむね正常に表示できる(分割非対応アプリは、全画面表示しかできない。Gmailはいいかげんに分割対応してほしいものですが……)。
一方、Surface Goの場合、分割比率を狭めすぎると、うまく表示できないアプリが出てくる。これはもちろんマイクロソフトの問題ではなく、サービスのベンダーの対応レベルによる。僕の環境では、これが顕著に出たのがSlackだった。
ブラウザーとSlackを分割モードで表示したところ。このくらいの幅になると、Slackはチャンネルしか表示できなくなるようだ。うまく自動的にモバイルモード的な表示になってくれると良いのですが……。
ブラウザーとSlackの2画面表示では、Slack側の幅を狭めすぎると、まともに表示できなくなる(表示がチャンネル選択の左ペインだけで埋め尽くされてしまい、タイムラインである右ペインが見えなくなる)。「モバイルモード」的な表示オプションがあるのかと探して見たが、どうやらそれもなさそうだ。
Slackほどの人気アプリでもこういうことが起こってしまうのは、汎用性の高さゆえに痛し痒し、という部分ではある。
一方でSurface Goの圧勝といえるのはOffice。ビジネス系の書類、特にデータをまとめたり書面を作る作業には、ExcelやWordは欠かせない。iPad版のオフィスは表示するだけならまだ良いが、クリエイティブ作業にはまったく向いていない(入力にしづらさは、一度体験版機能でも使ってみると、ものの1分でわかる)。
Officeがないと仕事にならない、という人は、この点だけでも「Surface Go一択でキマリ」になる可能性がある。
文字入力・モバイル仕事環境としての評価は?
主要キーのキートップのサイズ(幅)は、実測14mm程度。狭さを感じないレベルの十分な広さがある。
端の方の変則ピッチのキーは幅11ミリ程度。ちょっと狭さを感じるが、取材のメモ取りに使った限りでは、特に誤入力が増えたような印象はなかった。
最後に、モバイル環境として評価してみよう。
クリエイティブな用途に欠かせないキーボード。これは、さすがにSurface Goはよくできている。個人的にはiPad Proのキーボードも見た目に反して打ちやすいと思うが、10インチクラスとしては大きいタッチパッド、しっかりしたキーボードによる生産性の高さは別格だ。
また入力よりも明確な「差」を感じたのは、「使い始め」の快適性だった。
具体的には、スリープからの「復帰」と「接続までの待ち」だ。これは、毎日何度も経験するので、待たされ感があるとストレスを感じやすい。例えば、メールやSlackを読む場合。Surface Goでは
- 座る
- PCを開く
- スリープ復帰待つ
- ログイン認証
- その間にスマホのテザリングON
- Surfaceのネット接続を確認
- メール読む
と、結構なステップがある。時間にすれば素早く作業すれば1分ほどだが、色々と忙しい。
一方iPad Proでは、
- 座る
- キーボード開く
- ↑と同時に指紋認証
- メール読む
となる。2〜4はほぼ一瞬で済むので、体感的にはキーボードを開いたら速攻メールを読んでる感覚だ。
iPad Proはスマホゆずりの復帰速度(まさに一瞬)、スリープ中もネット常時接続が当たり前。同じようなサイズ感でも、かたやPCゆずりのレスポンスのSurface Goは、iPadに慣れた身からは、復帰が「かなり遅い」という印象が残った。ネット接続についても、いまはWi-Fi版しかないので、スリープ復帰ごとに煩雑な接続確認が必要になる。
iPad Proユーザーが「乗り換える」要素は“いつでも・どこでも”の生産性
Surface Go日本版が発売されて1カ月ちょっとが経って、本家「Surface Pro 6」も登場した。日本での発売は10月16日からだ。
新しいSurface Proがどうなるのか気がかりだった人もいるかもしれないが、発表された内容を見る限り、Goを検討している人にとっては朗報(?)の仕様と言える。性能の違いもそうだが、従来のProをみる限り、画面サイズの違い(Go:10インチ、Pro 6:12.3インチ)による用途の差は結構ある。形は似ていても、価格なりに使い道が違う機種、というところだ。
さて、仮にiPad Proユーザーが乗り換えるケースを考えると、「Officeが完璧」「その気になれば、完全なWindowsで作業できる」という点が、最大の評価点だ。
出先でのタイピングと原稿書き、調べ物がメインという局地戦型の記者仕事は、ある意味で非常にiPad向きだ。
そうではない一般のビジネスパーソンは、iPadではいろいろと工夫が必要なケースが出てくるとことが想像できる。「アプリAとアプリBを組み合わせるときは、間にクラウドを一回噛ませて……」みたいな説明が必要なことは、iOS12世代の2018年になっても、iPad Pro(というかiOS全般だが)における、長年続く弱点のままだ。
もちろん、メールとブラウザーと対応アプリだけで仕事が完結する人なら、iPad Proもあり。けれども、大多数の「ビジネスにまつわるアレコレを、1台でなんでもこなしたい」という人には、オールマイティさという意味でGoがジャストフィットになるはずだ。
(文、写真・伊藤有)