「#家出少女」「#神待ち」という言葉を知っているだろうか。
少女たちがTwitterで泊まる場所を探すときに利用するハッシュタグだ。これらが含まれた投稿やリツイートは先の10月の3連休(2018年10月6日〜8日)だけで5000件を超える。
居場所がなく夜の街やネットの海をさまよう少女たち。相談窓口で待っているだけでなく彼女たちに「出会う」ための試みが、今秋、東京都の新宿区と渋谷区を拠点に始まった。
相談だけでなく洋服やコンドームも配布
夜間巡回バスの開始式で説明をする仁藤夢乃さん。テントではスマホの充電もできる。
撮影:竹下郁子
事業を展開するのは貧困や虐待などの困難を抱えていたり、いわゆるJKビジネスや性売買の被害にあっていたりする中高生世代の女子を支援している一般社団法人Colaboだ。
2011年に団体を設立し、シェルターでの保護や病院などへの同行支援を重ねてきた。今回、厚生労働省と東京都による「若年被害女性等支援モデル事業」の一環として、性売買斡旋業者のスカウトなどが毎晩100人ほど立つという新宿区と渋谷区と連携。夕方5時頃から夜11時頃まで繁華街の近くにバスを置き、10代向けの無料のカフェ「Tsubomi Cafe」をオープンする。
バスの前に並べたテーブルと椅子で自由に食事などをとりながら相談ができる仕組みで、キャンピングカー仕様のマイクロバスには歯ブラシや生理用ナプキン、コンドーム、洋服などもそろえ、無料で配布する。
バスは10月17日から始動。第1・3水曜は新宿、第2・4水曜は渋谷で。
撮影:竹下郁子
本人の意思を尊重しながら状況に応じて緊急時の一時保護も行い、弁護士や児童相談所などとも連携。一時的な支援や問題解決だけを目的とせず、その時々の悩みや気持ちの揺れに寄り添える関係性を築くことが目標だ。同団体代表の仁藤夢乃さんは言う。
「助けて欲しくて駆け込んでくるのはもちろん、『ご飯や生活に必要な物がもらえてラッキー』くらいの感じでも来てもらえたらいいなと。ここで私たちの活動やその雰囲気を知ってもらって、困ったときに思い浮かぶ顔の一つになれたら嬉しいです。これまでシェルターでやって来たことをバスに詰め込んで街に運ぶイメージですね」
「ちょっと寄って行かない?」が掛け声
バスの中には日用品がずらり。
撮影:竹下郁子
Colaboではこれまでも家に帰れず街をさまよう少女たちに声をかけて団体の連絡先を伝える活動を行って来たが、驚かれたり警戒されたりして直接的な支援まで発展するケースは少なかった。バスがあることで「ご飯もあるし、ちょっと寄って行かない?」という声かけができるようになれば、より気軽に足を運んでもらえるようになるのではと考えている。
バスもテントも椅子もピンクで統一されていて、遠くからでもよく目立つ。
新宿区更生保護女性会代表の坂本悠紀子さんは10月6日に行われた開始式で、「少女たちはこのピンクのバスとテントを見たときに、今日は何か食べられるかもしれない、身体を拭く場所があるかもしれないという希望が生まれる。皆さんも彼女たちのことを1日5分でもいいから想像して欲しい」と、支援を訴えた。
少女たちに配布するためにつくった絆創膏やカード形式の鏡には、Colaboのホームページやツイッター、LINE@などのQRコードが印刷されている。制作費はクラウドファンディングで現在も募集中だ。
家出願望のツイートに対応する女性たち
撮影:今村拓馬
Colaboでは毎年100人以上の少女たちと関わってきたが、今年は中高生の夏休みが終わる8月末から9月初旬にかけて相談件数が急増し、4月から9月までですでに200人を超えていると言う。夏休み明けは子どもの自殺が増える。Colaboにも学校に行くつらさを訴える声が大きかったという。
今回のプロジェクトをきっかけに作成したグッズには、SNSなどの窓口が記されている。
撮影:竹下郁子
相談が増えたもう1つの背景として、Twitterで団体のことを知り、連絡してくる少女が増えたからだという。
Twitterには、家出したい少女たちが「#家出少女」「#神待ち」などのハッシュタグを使い、宿泊先を提供してくれる人を探す投稿が数多く見られる。男性と思われるアカウントが少女たちの呼びかけに応じるリプライが複数ぶら下がっていることも多い。
そして今こうしたツイートをする少女たちに対し、匿名アカウントの女性たちがColaboの連絡先を案内する動きが広がっているのだ。
「神待ちしてる女子高生!中学生!ここなら、気持ち悪いオッサンや、エロいことしなくたって、助けてもらえるよ??? あと、無駄な説教とかもないから、まずはここで相談してみたら?7年前に神待ちしてて、モラハラ男に4年つきまとわれたお姉さんからのオススメです!神待ちの前にColaboを利用してみて!!」(Twitterより)
「私たちに代わってネット上でたくさんの人が声かけしてくれたことで、実際にツイートからつながって安全な場所で暮らせるようになった女の子もいます。ネットで人目につかずに危険な目にあうケースにどうアプローチしていくか、今後の課題です」(仁藤さん)
「悪いのは買う大人たち」
居場所を探す少女らのツイートには、Colaboを案内するものや少女らと連絡を取りたがるリプライが並んでいる。
Twitterより
仁藤さんは活動を始めた7年前も今も、困難を抱えて家に帰れない少女たちに言葉巧みに声をかけ手を差し伸べるのは、支援したい大人よりも、買春者やJKビジネスなど性売買の斡旋業者など、彼女たちを危険に取り込む大人たちであることがはるかに多いと感じている。
一方で、被害者である少女たちが誰かに相談したり、支援を利用したりするハードルはとても高い。家庭や学校などさまざまなところで傷ついてきた少女たちは、大人に見放されたり、「逃げるな」「甘えるな」と責められたりした経験がある。そのため自分が悪いと思い込み、困難な状況にいると把握することすらできず、声を上げられないのだ。
「待っているだけの支援ではなくて、街に出て行かなければ出会えない少女たちがいるんです。安全な情報と場所を提供すること、そして『悪いのは買う大人たちだ』ということをこれからも、社会に強く言い続けていきたいです」(仁藤さん)
(文・竹下郁子)