コインチェック買収の狙いは人材——マネックス松本社長が語るネット証券20年のその先

ネット証券が本格参入して2018年の今年で20年目。1999年の株式売買手数料の自由化後、ネットならではの安さを武器に、伝統的な対面営業が主体だった大手証券会社からシェアを奪い、いまや個人の株売買代金シェアの8~9割を握っていると言われる。

マネックスグループの松本大社長。

ネット証券の歴史も、はや20年。マネックスグループの松本大社長は業界の草創期から経営の一線に立ち続けてきた。

撮影:今村拓馬

しかし業界全体としては、短期売買を繰り返す一部のヘビーユーザーからの手数料収入に頼りがちな収益構造から抜け出せないなど課題も残る。

さらなる成長に向けて各社ともに新戦略を模索するなか、老舗のマネックスグループは2018年4月、仮想通貨の巨額流出問題を起こした交換業大手・コインチェックの買収を発表し、注目を集めた。業界の草創期から経営の一線に立ち続けるマネックスグループの松本大社長に、「次の一手」を聞いた。

ブロックチェーンがゲームを変える

欧州にある仮想通貨のマイニング(採掘)施設。

欧州にある仮想通貨のマイニング(採掘)施設。仮想通貨ブームに乗った関連ビジネスは世界中で展開されている。

REUTERS/Hazir Reka

——仮想通貨の将来性についてはさまざまな見方がありますが、この分野に力を入れる理由は?

単に「仮想通貨のトレーディングビジネスを手がける」といったことでないのは、もちろんです。

最大の狙いは、ブロックチェーンのテクノロジーです。この破壊力はすごい。大手金融機関の過去の「蓄積」なんか関係なくなるように、金融業界の「ゲーム」をがらっと変えてしまう可能性があります。

例えば、トヨタ車のエンジンをつくるには技術などの蓄積が必要で、ゼロからつくるには数十年かかるでしょう。ところがブロックチェーンなど今のテクノロジーの世界は、ミュージシャンやアスリートと同じで、高校生でも世界トップクラスになれます。

ブロックチェーンに関わる若くて有能なエンジニアのコミュニティは今、ほとんど仮想通貨まわりにある。そんなコミュニティが私たちのグループと一緒になるのは、すごくエキサイティングなことです。

このテクノロジーをどうビジネスに応用するか。いくつか面白いアイデアはありますが、今は秘密です。

フィンテックというテクノロジーはない

マネックスグループの松本大社長。

撮影:今村拓馬

——フィンテック、ですか。

フィンテックって、よく意味が分からなくて。ファイナンスの会社がテクノロジーをどう利用するか、テクノロジーの会社がファイナンスにどう取り組むかであって、「フィンテック」というテクノロジーがあるわけじゃない。自動運転とは言っても「モビテック」なんて言わないですよね。

メガバンクはフィンテックに強い関心を示しているじゃないですか。「優秀なエンジニアなら20代でも部長と同じ給料」なんてことはできないけど、「フィンテックのスタートアップに出資」であればできる。何か「アリバイ」のようなにおいを感じます。だから、僕はフィンテックという言葉は好きじゃないんです。

ちなみにテクノロジーでは、ブロックチェーンとともに人工知能(AI)に注目しています。AI関連のテクノロジーをグループ内に取り入れる方策も考えています。金融でいえば、ブロックチェーンとAIの2大テクノロジーが「ビッグバン」と言えるのではないでしょうか。

マネックスも「20歳」、外から若い力を

ネット証券業界のイベント

10月7日、東京・渋谷で開かれた、個人に長期投資を呼びかけるネット証券業界のイベント。松本氏ら主要5社のトップらが集結した。若者も含めて顧客層を広げ、安定収益につながる長期マネーを取り込むのが業界全体の課題だ。

撮影:今村拓馬

コインチェックのマネックスグループ入りのもう一つの狙いは、若くて優秀な人材です。

私たちの会社は、もうすぐできて20年。私は会社をつくった時に35歳でしたが、もうすぐ55歳です。

若い人たちは優秀だし、違う世界観を持っている。そういう人たちとどんどん混ざっていかないと、組織は新しい時代に対応していけません。

新卒の人でも会社のヒエラルキーの中に入ると、よほどの異端児でもなければ「上」の意向に染まりがちになる。外から若い力を導入することは、組織運営の面でとても重要だと思っています。

関連記事:「最も優秀で欲深い人たちが仮想通貨のイノベーション起こす」マネックス松本氏が語る買収5つの理由

「発明」にはリスクがつきもの

2018年2月、仮想通貨NEMの巨額流出問題をめぐり、詰めかけた記者団の質問に東京都内で答えるコインチェック幹部。

仮想通貨NEMの巨額流出問題をめぐり、詰めかけた記者団の質問に東京都内で答えるコインチェック幹部。この問題は国会でも取り上げられるなど大きな関心を集めた。

REUTERS/Toru Hanai

——仮想通貨に関してはコインチェック以外でも流出事件が相次ぐなどしており、リスクを心配する声もあります。

例えばデリバティブ(金融派生商品)とか、もっと言えば株式やお金そのものだって、最初は「なんじゃこりゃ」と言われ、いろんな問題が起きたりもしました。それが時間をかけて「こなれて」いき、人々の生活や世界経済全体にとって役立つものになっていきました。

仮想通貨も、そんな経済の長い歴史の中で生み出された「発明」の一つだと思います。規制当局などとも話をしながらルールを作り、良いものにしていかないといけません。時間も労力もかかります。当然、リスクもつきものです。

リスクをしっかり認識しながら、それをコントロールして、最終的に経済全体にとってプラスになるようなものを私たちが作りあげていく。そういうことだと思っています。

若い顧客層の開拓にも期待

マネックスグループの松本大社長。

撮影:今村拓馬

——政府も証券業界も「貯蓄から投資へ」と旗を振ってきましたが、個人の預貯金から投信や株式への資金シフトはなかなか進みません。

投資家の層をさらに広げていくことは大きな課題です。

特に若い人たち。マネックスに新卒で入ってくる学生と話すと、「投信とか株式は買ったことはないけど仮想通貨なら持ってます」という人も多い。若者が投資自体に興味がない、ということはありません。

そういう人たちに「仮想通貨は利益にかかる税率も高めだし、リスクも高い。例えば、ETF(上場投資信託)などで長期分散投資するやり方もあるんですよ。その方がリスクも抑えられますよ」と。若者に限らず、何かのきっかけで投資に興味を持った人に、そういう知識をきちんと伝えていきたい。

私たちの会社ができた当初は、社内にも株式投資の経験者はほとんどいなかったので、株や投資にまつわる専門用語を分かりやすく言い換えて説明する、といった努力をしました。ネット証券はこの20年で「市民権」を得てしまったので、そうした問題意識が減っている面はあります。私たちが「新しい業態」だった頃のような努力をもう1回、する必要があると思います

この点でもコインチェックのグループ入りには意義があります。コインチェックの周りには多くの若者が集まっています。その人たちに「こういう投資のやり方もあるんだよ」という知識を伝える、といったコラボも考えていきたいです。

(取材・文、庄司将晃)


松本大(まつもと・おおき):1963年生まれ。東京大学法学部卒。 ソロモン・ブラザーズ・アジア証券、ゴールドマン・サックス証券などで勤務。1999年、ソニーとの共同出資でマネックス(現マネックス証券)を設立。以後、経営の一線に立ち続ける。

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