CERNで働くために、物理学者である必要はない。
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- CERNでは世界で最も権威ある科学者たちが、素粒子物理学の研究を行っている。
- だが、CERNの人事責任者、ジェームズ・パービス氏によると、CERNで働くために物理学者である必要はない。
- パービス氏にCERNの選考プロセスについて聞いた。
CERN(セルン)の名前を耳にするのは通常、ビッグ・ニュースがあった時。
物理学者が「ヒッグス粒子」を発見したとか、あるいは批判派がCERNにある長さ27キロの素粒子加速器が世界を破壊する可能性があると叫んだ時。
ジュネーブにあるCERN(セルン、Conseil Europeen pour la Recherche Nucleaire:欧州原子核研究機構)は、宇宙の神秘を探求している。ノーベル賞受賞者を含む、世界で最も権威ある科学者たちが今、素粒子物理学の研究を行っている。
そんな科学者たちと一緒に働くにはどうすればいいのか? CERNの人事責任者に聞いた。
物理学者でなくても良い
まず一番に覚えておきたいことは、物理学者である必要はないということ。機械工学、土木工学、そしてITの仕事がある。学位や経験は不問。また消防士、溶接工、土地開発や保険の専門家も募集している。
CERNが応募者に最も期待することは、最高の人物であること。複雑なテクニカル・オペレーションを担当するスタッフは、極めて正確で、才能豊かであることが求められる。
だが、トラウマになるほどテストしようというわけではない。
「そもそも、応募者全員に期待しているわけではない。我々も応募者も、双方が決断しなければならないので、応募者全員に良い経験をしてもらえることを望んでいる」とジェームズ・パービス(James Purvis)氏は語った。
「必ずしも高得点の応募者を採用するとは限らない」と人事責任者のパービス氏。
CERN/James Purvis
選考を行う時は丸1日かけ、応募者にテストと面接を受けてもらい、応募者の得意分野を見極める。
グーグルやスペースXの入社試験の問題を見たことがあれば、CERNでも同じような質問に答える必要があると思うかもしれない。
だが、パービス氏はまったく違うと述べた。
「難しい質問に答えてもらうわけではない。仕事に必要なスキルに関する経験や知識を示してもらう」
応募者の多くは、面接に加えて、実技試験にも備えなければならない。例えば消防士なら、緊急事態とその適切な対応をシミュレーションしなければならない。数学者は仕事に関連する数学の問題を解かなければならない。
「だが、必ずしも高得点の応募者を採用するとは限らない。志望動機も同じくらい重要」
採用の傾向は、CERNでもかなり変わってきた。CERNを「才能の戦争」と呼ぶ人もいるが、パービス氏はそこまでではないと語った。
「戦争というよりは、競争」
夜、何をして起きているか?
たとえ「競争」だとしても、選考プロセスが厳しくないということではない。何よりもまず、ジュネーブに来る前に情報収集しておくことは当然のこと。
「最低限、CERNについて少しは調べておくべき。名前に『核』が付いているというだけで、核工学をやっていると思っていた人もいた」
人事責任者になる前、採用担当者としてパービス氏は必ず「志望動機を教えてください」と聞いていた。
同氏はリンクトインに、この質問への答え方を書いている。
「夜、何をして起きていますか?」など、変わった質問をすることもある。
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「当然、応募者の熱意を正確に知ることができる万能な質問はない。だが、答からは志望動機がよく分かる」
パービス氏によると、志望動機を実際にしっかり考えたことがない人は「国際的な環境で働きたい」などと答えがち。だが、この回答では良くないと同氏は述べた。なぜか?
「近くにあるマクドナルドも国際的な環境」とパービス氏 ── この答では準備が足りない。
「夜、何をして起きていますか?」といった変わった質問をすることもある。
パービス氏は応募者に、求人広告を注意深く読むことを勧めた。
「面接で聞かれる質問のほとんどは、求人広告とそこに記載されている必要なスキルに基づいている」
応募書類はアート
応募書類で印象づけて、面接を受けにジュネーブまで来てほしいと採用担当者に思わせるにはどうすればよいのだろうか?
「履歴書の書き方で、人柄が大いに分かる。絵のようなもの」
パービス氏は、ちょうどインフォグラフィックスが流行ってきた頃に、インフォグラフィックスで応募書類を作成した学生について触れた。
皆が履歴書にインフォグラフィックスを取り入れなければならないということではない。だが、珍しい、オリジナリティのある履歴書が目立つことは確か。
パービス氏によると、最近ではカバーレターを作らず、手間を省くことは珍しくない。その代わりに同氏は、自分自身について「ツイートくらいの長さで」、履歴書の一番上に一言添えることを勧めた。
自分の得意なこと、好きなことを考えてみよう。そして一般的で、よくある表現、例えば「私は優れたチームプレーヤー」といったコメントは避ける。なぜなら、CERNの担当者が正確にチェックすることができないから。
ノーベル賞受賞者が隣に
応募書類が誰かの目に留まれば、あなたは「非同期のビデオ面接」を受けることになる。採用担当者は事前にあなたへの質問を録画する。あなたはそれを再生し、質問に答える様子を自分で撮影する。
CERNで働くには母国語に加えて、英語、そして、できればフランス語も話すことができ、ジュネーブに移住することが不可欠になる。クリアすべき基準が多いように思えるが、ではなぜ、多くの応募者が集まるのだろうか?
パービス氏は、ユニークな仕事環境のためと述べた。
「カフェテリアでは、CERNの所長やノーベル賞受賞者の隣に座ることになる。階層は非常にフラット」
30年前に学生アシスタントとしてCERNの技術部門で働き始め、後に人事部門に移ったパービス氏は、それを一番良く知っているだろう。
CERNは第二次世界大戦後、ヨーロッパの平和プロジェクトとして設立された。あのときの感情は、今も感じることができる。
「協力がCERNのDNAに書き込まれている」
(翻訳:Ito Yasuko、編集:増田隆幸)