決算とは少し離れますが、新しい取り組みの一環として「海外での子育て」事情というものも試してみたいと思いますので、お付き合い下さい。
我が家には5歳と3歳の男の子がいます。二人ともアメリカで生まれてアメリカの学校に通っています。
私自身は完全に日本で育ったので、アメリカでの子育てや教育事情というのは全く初めてのことが多く、毎日戸惑うことも多いわけですが、逆に学ぶことも非常に多く、とても刺激的です。
最近日本でも、これまでのような受験教育に偏った勉強だけではなく、短期であれ長期であれ、海外に留学させたいと思っている親の方、あるいは日本でインターナショナルスクールに通わせたいと思っている方も多いと聞きます。
そこで新たな取り組みとして、非常に偏った情報かもしれませんが、シリコンバレーでの子育て事情の中から、私が学んだことをシェアしてみたいと思います。
ここでは子供の例をお話しますが、人間を育てるというテーマは大人でも、例えば会社における人材のマネジメントにも役立つ話でもあると思いますし、個人的にとても勉強になっています。
第1回目は子供の褒め方です。
アメリカはとにかく子供を褒める!?
今年から長男がリトルリーグに所属して、野球を始めました。
野球といってもまだ5歳なので、当然出来ることと出来ないことがあるわけですが、アメリカのリトルリーグは5歳6歳7歳のチームでさえ、すぐに試合をさせます。
試合といっても、毎回のイニングごとに全員が打席に立ち、打てるまでコーチがボールを投げ続けるという、ルールがあるのかないのかよくわからない状態です。それでも実際に試合という形で全員にプレイさせます。
日本の部活の感覚からするとありえないと思いました。さらにすごいと思ったのは、とにかく子供を褒めるのが上手だということに尽きます。
バットにボールが当たらなくても、ボールがうまく取れなくても、投げられなくても、とにかく子供を褒め続けます。
日本で育った私の感覚からすると「おー、そこで褒めるか!」と言うシーンが多発するわけです。おかげで子供を褒めるボキャブラリーがとても増えました。
一方で‥‥子供の褒め方には注意「Inverse Power of Praise」
一方で、褒め方を間違うととても危険だ、という学説が最近出てきました。
この日本語の記事に書かれている内容に非常に似ています。
英語では「Inverse Power of Praise」(意訳: 褒めることの副作用)と言います。
コロンビア大学の心理学者、キャロル・ドゥレクによる、400人の5年生に対する過去10年の実験では、以下のようなことが明らかになっています。
まず子供を二つのグループに分け、両方のグループに非常に簡単な同じタスクを与えます。
一方のグループに対しては、タスクが完了できた際に「すごいね」と褒めます。もう一方のグループに対しては褒めることなくそのままにします。
何度かタスクを繰り返した後に、両方のグループに対して同じく「もっと難しいタスクにチャレンジしたい人はいますか?」と聞きます。
「すごいね」とたくさん褒められたグループは、より難しいタスクにチャレンジしたがらない傾向にあることがわかりました。
この実験が意味するところは、褒めるという報酬を与えることで、子供は褒められたいがためにタスクを「失敗せずに」完了させたいと思うようになり、より難しいタスクは失敗する可能性が高くなるので、チャレンジしたがらなくなる、というものです。
つまりタスクができたという「結果」を褒めすぎると危険だというわけです。
とは言え、子供は当然褒められたい生き物ですので、どのように褒めたらいいのでしょうか。
結果を褒めるのではなく、指摘する
私が先輩パパから学んだところによると、褒める場合は「結果」を褒めるのではなく以下の三つのいずれかを「指摘」してあげるのが良いというものでした。
・Process(プロセス)・Improvements(改善)・Effort(努力)
プロセスというのは例えば「上手に絵が描けたね」と絵の完成度を褒めるのではなく、「今日は青く色を塗った後に黒い線を引いたね」という具合に、具体的に子供ができたこと(行動)を「指摘」するというものです。
改善というのは、例えば「前回よりも多くのたくさんの色を使ったね」と指摘するようなケースです。
努力というのは、「これまで何回か練習したから、今までよりもたくさん書けるようになったね」と指摘するようなケースです。
いずれの場合も、結果を褒めるというよりは、子供ができたことをポジティブに指摘してあげる、というのがポイントです。
子供を褒めすぎているとドキッとした方は、ぜひ注意してみてください。
シバタナオキ:SearchMan共同創業者。2009年、東京大学工学系研究科博士課程修了。楽天執行役員、東京大学工学系研究科助教、2009年からスタンフォード大学客員研究員。2011年にシリコンバレーでSearchManを創業。noteで「決算が読めるようになるノート」を連載中。
決算が読めるようになるノートより転載(2018年10月9日の記事)