創業時にミドル層の起業家は若年層よりも成功している?元サイバーエージェントCOOが明かす理由と秘訣

元サイバーエージェントの専務取締役COOとして多くの新規事業立ち上げを経験した西條晋一さんが、独立系ベンチャーキャピタル(VC)「XTech Ventures」を創業しました。そのミッションは、「ミドル層」の起業を後押しし、多面的な経営支援・IPO支援を行うことで投資先企業の飛躍的成長を目指す——というもの。

「起業家」というと20代の若い世代を想像しがちですが、なぜ西條さんはあえて30代後半から40代の「ミドル層」にフォーカスするのでしょうか。一般的には「だんだん腰が重くなる」世代のミドル層は、「今の会社で働きつづけるか、新たな環境を求めるか」選択の分かれ道に立たされているのも確か。そこで西條さんに「ミドル層が取るべき選択」について伺いました。

実は「成功確率が高い」ミドル層の起業

独立系ベンチャーキャピタル(VC)「XTech Ventures」のロゴと西條晋一さん

——サイバーエージェントで多くの新規事業立ち上げを経験した西條さんが、このタイミングで起業されたのはなぜだったのでしょうか。しかも「ミドル層の起業をサポートする」という、ユニークなコンセプトです。

フロアマップの描かれたウェルカムボード

これまでも数社を立ち上げて、さまざまな立場で経営に携わってきましたから、特に「このタイミングだから」という意識はありませんでしたね。今年の1月に親会社のXTechと子会社のXTech Ventures2社を立ち上げたばかりですけど、すでに子会社含めて計5社になっていて、メンバーとしては社員6名と業務委託4名、近々入社する2名の10名程度ですから、一人当たりのビジネス領域としてはかなり大きくなってきています。

中でもミドル層の起業にフォーカスしようと思ったのは、理由があります。アメリカの2015年のデータで、ユニコーン企業の創業者の平均年齢は34歳。BtoC向けだとやはり感性のある若い経営者が多いのですが、IoT系は36歳ですし、法人向けソフトウェアだと38歳。起業というと20代のイメージがありますけど、比較的30代、40代も多いんです。それに、2018年4月に発表されたアメリカのサーベイによると、創業時にミドル層だった起業家のほうが、若年層よりも成功を収めている傾向にあるというんです。

米国ユニコーン企業CEOの創業時の年齢(左)と創業しゃの創業時の年齢と現在のCEOの年齢(右)を表すグラフ

私自身、40代半ばになりますけど、2000年初頭、サイバーエージェント(以下、CA)の藤田(晋)さんが24歳で起業して、彼が26歳になる年に私も26歳で入社した。当時は20代の若者が起業して、彼らを支えるのも同年代の20代でした。それから18年経って、いまネット業界を見渡してみると、そのまま当時から活躍していた起業家が業界を牽引しています。当時の会社とは違うかもしれないけど、メルカリの山田(進太郎)さん、GREEの田中(良和)さん……こないだ社長になったヤフーの川邊(健太郎)さんもみんな40代です。

会社の規模やフェーズによって、求められる経営手腕は異なりますが、少なくとも私が軸足を置いている今のネット業界では、ミドル層が起業家として成果を出せるのではないかと思うのです。ただ、実際に起業している顔ぶれをみると、学生や20代の起業家はどんどん現れてきているけど、30代、40代はそこまで多くない。私と同じように大手のネットベンチャーにいたような人たちも、起業ではなく大企業への転職を選んでいて……もちろん、そういった形で経営に参画するのも悪くないけど、もう少し起業する人がいてもいいんじゃないかと思うんです。

想定しているのは、20代からネット業界で働き、成果を出して、プロジェクトマネジメントや新規事業立ち上げを経験した人。私自身、26歳のときにはじめてCAの子会社で経営に携わりましたが、裁量の大きい立場をなるべく早く経験すればするほど、決断の数を多くこなすことができる。その経験が大きく起業に役立つんです。

西條晋一さんの話す様子

——ミドル層が起業に成功する確率が高いのはなぜでしょうか。

さまざまなケースがありますが、今はネットだけで完結するというより、リアルと連携するサービスが主流となってきています。例えば、UberやAirBnBなどはまさにそうですが、既存の規制に抵触しないように、働きかけや対応をしていかなくてはなりません。その点、ミドル層は相手にも安心感を持ってもらいやすいし、学生時代の同期がそれぞれの組織で出世していることもあって、接点を持ちやすいですよね。

また、日本では少子高齢化が進み、若者向けよりもシニア向けのサービスがニーズもある。その点、ミドルのほうがユーザー目線に近いと言えますし、成功する確率も高いのではないでしょうか。

——とはいえ、これまで大企業で働いてきた人にとっては、「いきなり起業」というのは別世界の話に感じられるかもしれません。

それなら、ベンチャーに挑戦してみるのも良い選択だと思いますよ。大企業にいる人は重々感じているとは思いますが、上を見てもポストがふさがっていて、出世はおろか希望の部署にさえ行けそうにもない。それなら、ベンチャーに活路を見いだすのもアリだと思うんです。

——けれども「まったくの未経験のネット業界、未経験の職種に」とはいきませんよね。

そうでしょうか。以前は「35歳限界説」なんてあったかもしれないけど、今はスキルさえあれば40代でも転職できますし、ITと既存産業の境目も曖昧になってきていると思います。

「大企業にいたから、ITのことはサッパリ」みたいに考えている人もいるでしょうけど、案外IT企業でも大してITの最新事情をよく分かっていない人も多いですよ(笑)。「TechCrunchとTHE BRIDGEにはこんな記事が載ってたね」なんて話しても、7割くらいは知らないんじゃないかな。ある種、「それでも仕事ができてしまう業界」というか、もっと専門的なプログラミングでもデザインでも、やってみれば案外できるものだし、飛び込んでみると「なんだ、こういうことか」と思えるくらい。仕事を覚えて行く意志と努力があれば、乗り越えられると思いますよ。

日ごろ、大企業に勤める人と話していると、往々にして「今と違う仕事がしてみたい」と思っている人が多いんです。そう考えると、未経験の人でもどんどんチャレンジさせるベンチャーは寛容な気がします。

XTech Venturesのロゴのついたパソコンと西條晋一さん

——ベンチャーがミドル層に求めているスキルはどんなものでしょうか。

“地頭が良い” というか、コミュニケーションスキルが高いとか、プレゼンに説得力があるとか、一般的なビジネススキルでいいと思うんです。むしろスキルというより重要なのは、マインドセットかもしれない。よく「知っているか、知らないか」という言葉を使うんですけど、何かを経験してそれを知るだけで、心理的ハードルがグッと下がるじゃないですか。そういう心持ちにどれだけなれるか、というところですね。

例えば、“経営”って難しいように思えるでしょうけど、このご時世ネットを使えば3日で会社は作れるし、必ずしも司法書士に頼む必要もない。資本金も大して必要じゃないし、事業計画、資本調達、採用・・・やってみると意外とできるものなんですよ。実際、うちは先ほどお話しした通り子会社が4社ありますけど、事業責任者たちにリアリティを感じてもらうために、定款作りや事業計画、資金調達など一通り全部自分でやってもらったんです。もちろん私も一緒にサポートしましたけどね。

——「分からないけど、まずは自分でやってみよう」と思えるかどうか、ということですね。

少し話は変わりますが、最近、ある若者に「起業したいけど、すぐに起業するか、それとも大企業で経験を積んでから起業するか、迷っている」と相談されたんです。その場合、「起業しよう」という気持ちが継続できるかがいちばんのリスク。それが継続できるなら焦る必要はない、と伝えました。皆さんも覚えがあると思うんですけど、入社したばかりのころは「将来こんな仕事をしたい」「こんなことをしたい」という希望があるけど、だんだん愚痴の割合が高くなってくるじゃないですか。

私の周りの成功している起業家たちは、昔からずっとブレないんですよ。事業案は変わっても、「こうありたい」と強く思い続けられるかどうかが大切です。どうしても大企業にいると丸くなって、ミドルを迎えたときに「やってみたら」と言われても、なかなか踏み切れないことが多いんです。

西條晋一さんの話す様子2

「挑戦するミドル層」に立ちはだかるさまざまな壁

——西條さんは事業を通じてミドル層の起業を後押ししようとしていますが、実際のところ、ミドル層にはさまざまなハードルや壁がありますよね。

確かに、新しい知識を学ぶことが億劫になったり、分からない分野に対して抵抗感を覚えたりしますよね。予防線を張るような習慣が身に染みついてしまっている。

実際、収入の問題もあるでしょう。例えば「今、外資系の投資銀行にいて、年収2000万円超えている」とかなら、起業をためらうのも無理はありません。住宅ローンや子育てにかかる費用もあるでしょうし。ただ、会社員として働いていて、そろそろ限界も見えてきた場合、そこにいつづけることがリスクにもなりかねない。

ベンチャーの場合、自分の年収を1000万円に設定したとしても、事業計画が妥当なら出資者から非難されることはないと思いますよ。昔は「会社が黒字化するまで、社長は自分の収入を300万くらいに低く抑える」みたいなのが常識でしたけど。それに、今は共働き世帯も多いですし、自分の稼ぎが600万円でも生きていけるじゃないですか。

——ミドル層にとってもっとも高いハードルはなんだと思いますか。

これはミドル層に限らず、起業を考えているすべての人に当てはまりますけど、「何をやるか」ということですよね。学生や20代ならまずは起業してみてから考えるスタイルでもありですけど、30、40代でそれをやるのは難しい。ましてや家族がいるとなれば、なおさらで。

西條晋さんの話す様子3

——起業で成功するには、やはり優れたアイデアが必要ですよね。

アイデアを考えるには、自分自身を空っぽにすることです。マインドフルネスとか、スポーツジムで身体を動かすのもいいし、私も寝る前の1時間はぼーっとしたり、自己暗示をかけています。

それと、自分と対話をする意味でオススメなのは、読書ですね。内容そのものもためになりますが、それに自分がどう考え、反応するか、というのを考える時間にもなります。本屋に行ってみると、自分が潜在的に興味を持っていること、欲求がよく分かると思いますよ。私もよく本屋に行きますが、自己啓発系の本が目に留まるときは「何かに頼りたくなってるのかな」とか、人事の本なら「あぁ、採用を強化したいのか」とか、旅行の本なら「最近、休めてないんだった」とか・・・自分をニュートラルに戻したうえで、対話していく。そうすると、自己認識が高まって、やりたいことやアイデアが浮かんでくるんです。

それでも、そう簡単に良い案は出てこないんですよ。実は、私も今年の1月1日の時点で、何をやるか決めていなかったんです。VCはやろうと思っていましたけど、それ以外の事業はノープランでしたから。

ただ、別に自分でアイデアを考えられないなら、私たちにまかせてもらえればいいんですよ。VCから提案することも可能ですから。「起業と経営の分離」と呼んでいるんですけど、「所有と経営の分離」みたいなものです。経営は経営のプロにまかせて、投資家は資金を出す。それと同じように、「自分にはこういうスキルがあるんですけど、何か経営者を探している事業プランありませんか」と聞いてみる。そうやってアイデアは他の人にまかせて、自分は経営に専念するという選択肢もアリだと思うんです。

——なるほど。ただ、そういう接点を持てるような行動を常日頃から意識しておく必要がありますよね。

私の場合、幸運だったのは、CAの戦略のなかで「子会社ではこういう事業をしてほしい」という方向性があって、それに対して私が経営者としてエグゼキューションをかけていく流れだった、ということです。3社目からは自分から役員会に提案しましたけど、2社目まではそんな感じでした。ですから、経営者の近くに身を置くことがいちばん近道なんでしょうけど、少なくとも考えていることを誰かに話したり、壁打ちしてもらったりしたほうがいいですよね。

西條晋一さんの話す様子4

ミドルが変われば、社会は変わる

——ミドル層がこれまでとは異なる環境で活躍するのに必要な要素はなんでしょうか。

もしVCとして、誰か経営をお願いできる人を選ぶとしたら、やはりその人の人間性や信頼性を見ますね。やっぱり、魅力的な人かどうかは重要なんですよ。それによってどんな優秀な人材を採用できるかどうかが変わってきますし、それこそが会社の成長を担っていきますから。

それと、「やりきる力があるかどうか」ということ。これは、私自身結構しつこいタイプなんですけど、CAの時にゲーム会社を立ち上げたのは、10歳くらいの時に「いつかゲームを作りたい」という夢があったからなんです。大学4年生の時には「いつかVCをやろう」と思っていて、2004年にはその夢を叶えられた。ずっとその夢をメラメラと燃やしつづけているわけではないけど、種火のようにジワジワと持ちつづける。「意志を継続する」って、本当に難しいことなんです。

でもそれって、別に「ひとりでなんとかしよう」としなくてもいい。私だって、ひとりで何かを成し遂げるのは向いてないんですよ。大学の時、単位の目処がついて、深夜までゲームやって、昼ごろ起きて「(笑って)いいとも」を観て、午後になったら出かける、みたいな時期が半年くらいありましたけど……ほんとダメでしたね(笑)。経営者の秘書とか奥さんなら分かると思いますけど、経営者ってわりとひとりだとダメになりやすいんですよ。「仕事しているときだけはちゃんとしてる」みたいな。だから、会社という「熱量のある組織」が必要なんです。行くと励まされるし、少しテンションも上がる。

「熱量のある組織」は会社に限らなくてもいい。ベンチャー業界にもいくつかコミュニティやサロンがありますけど、よくあるのは10人くらいのメンバーがいて、そのうちひとりが上場すると、次々と他のメンバーも上場する、みたいなこと。

私自身もそういう経験があって、最初の会社のときにアタッカーズ・ビジネススクールという大前研一さんの起業スクールに第二期生として通ってたんですけど、200名くらいいた同期のうち、3人くらい上場企業の社長になったんです。当時はネットも発達していなかったし、今みたいにサロンやコミュニティがたくさんあるような状況ではなかったけど、人がやっているのを見て、「あいつができるなら自分もできるんじゃないか」とか、「あの人がやるなら俺もやってみたい」と欲が湧いてくるもの。

自分の周りにそういう、志の近いような友人知人を集めるとか、玉石混交ではあるけど何か合いそうなコミュニティやサロンに入るとか、そういう環境に身を置くことで変わってくると思います。

西條晋一さんの話す様子5

——とはいえ、なかなか挑戦するほどの勇気が出ない人も多いと思います。そんなミドル層に何か掛ける言葉は?

起業とか、ベンチャーへ転職するとか、自分とはまったく違う世界のことだと思うかもしれないけど、つまり、今は「自分の生き方を自分で選ぶ時代」になりつつあるということ。キャリアプランを考えることは、ライフプランを考えることでもありますよね。

私事ですが、XTech を1月に起業したものの、2月までは本格的には仕事していなかったんです。子どもがちょうど中学受験で、その世話をしなければならなくて。そういうことってよくありますよね。

うちの会社にも子育て中の社員がいるので、夜7時には仕事を切り上げて、子どもをお風呂に入れて、そのあとに家でもう少し仕事をする、なんてこともありますよ。逆に、「いま頑張っておきたいから」と、働きたい人は思う存分働けばいい。

飲み会に無理やりつきあわされることになったり、上司が遅くまで会社にいるから、部下たちもなかなか早く帰れなかったり……。リモートワークにしても、「職種によってはできないから、不公平だ」とか、「在宅勤務の人にはちゃんと働いているかチェック機能がある」とか……。そういうのを我慢してまで、そこで働きつづけなければならないのでしょうか。

その気がなくても、転職活動をしてみるのもいいかもしれない。自分の客観的なポジショニングや市場価値が把握できますし、かえって「今の会社がいい」となれば、それでいい。

「こういうことがやりたい」というのがあるなら、どんどん挑戦したほうがいいんですよ。そうやってみんなが起業したり、転職しまくったりすれば、大企業も「このままじゃ良い人材が採用できない」と分かって、態度を変えていくはず。そうやって社会が良くなって、みんなが自分の意志で動けるようになれると良いですよね。

西條晋一さん

(取材・大矢幸世、岡徳之、撮影・ 伊藤圭)


西條晋一:XTech株式会社 代表取締役CEO。サイバーエージェントにて、多くの新規事業、子会社立ち上げに携わり、複数社の代表取締役を歴任。2008年には本社の専務取締役COOに就任、2010年から約2年間は米国法人社長を兼務しシリコンバレーに駐在。2013年11月にWiL共同創業者ジェネラルパートナーに就任。その他、Qrio代表取締役、コイニー取締役、トライフォート社外取締役を歴任。2018年1月にXTechとXTech Venturesを創立。

"未来を変える"プロジェクトから転載(2018年9月27日公開の記事)

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