本体色はホワイトというより、薄いグレー。全面マット仕上げだ。音響機器メーカーがつくるものとは少し違った端正なハイテク感を感じるデザイン。Surfaceに共通するものがある。
10月3日にマイクロソフトがグローバル発表した最新Surfaceシリーズ。高速化し細部をブラッシュアップした「Surface Pro 6」「Surface Laptop 2」など既存モデルの次世代機アップデートの中で、ひときわ異彩を放っていたのが、ノイズキャンセルヘッドフォン「Surface Headphones」(以下、Surfaceヘッドフォン)だった。
10月10日、日本向けの記者説明会の中で、ヘッドフォンについても2019年中の日本発売が明らかになった。短時間ながら現地で触れた実機プロトタイプの印象とは?
デザイン、装着感、オーディオメーカーにはないUI設計
平置きしてみたところ。ボタン類は右耳の円周方向にいくつかある。また、イヤーカップの平たい部分は、タップすることで再生・一時停止などの操作も可能。カップの外周を回転させて音量やノイズキャンセルの効きを調整できるが、特に刻印がないので外観からは付加機能は分からない。あえてこのデザインにしているのだろう。
Surfaceヘッドフォンは、本体に通話用のマイクを内蔵した、いわゆるBluetooth対応のノイズキャンセル無線ヘッドフォンだ。WindowsマシンにBluetooth接続することで、マイクロソフトの音声AI「コルタナ」も使え、価格は350ドル(約3万9000円、日本価格は未定)。
同種の既存製品としては、ボーズの「QUIETCOMFORT 35 ワイヤレスヘッドフォンII」(約4万円)や、ソニー「WH-1000XM3」(約4万3000円)などが競合になる。価格帯もほぼ同じだ。
ノイズキャンセル機構を持つヘッドフォンは市場にいろいろ出ているが、ノイズキャンセルの「効き」や「自然さ」には製品によってかなり違いがある。特に新参メーカーは、店頭試聴でよく吟味した方が良いジャンルの製品といえる。
回転させてみたところ。こすれるような感覚はなく、スムーズで滑らかに回る。ノイズキャンセルの強さに応じて、ピコッという電子音や、音声アナウンスが聞こえる。
装着してみると、試作機は耳全体をふわっと覆うようなイヤーカップで、耳を押さえる側圧も体感ではあまり強くない。長時間使用でどういう印象になるかは分からないが、装着感は良い。スペック上の重量は約290g。これはボーズQC35IIの+56g、ソニーWH-1000XM3より+35gと重め。ただ、重心設計がうまいのか、特にずっしりくる印象はない。
意外というと失礼かもしれないが、デザイン、装着感含めてしっかり設計してある製品の印象を受ける。少なくとも、中国や台湾メーカーのOEMにロゴを付けただけ、というような製品の仕上がりではなかった(実際には、ロゴは実機の側面にWindowsマークがサラッと入っているだけでデコレーションはほとんどない)。
イヤーカップは柔らかな素材で耳をすっぽり包むデザイン。
試作機はSurfaceとつながっていて、ストリーミングで音楽を聞くことができた。
Surfaceヘッドフォンがユニークなのは、右耳と左耳のイヤーカップ外側がオーディオのボリュームのように回転するようになっていることだ。右耳で音量、左耳でノイズキャンセルの強さ調整(13段階)ができる。
耳の回転機構が複雑なことがわかるカット。ギアが組み込まれているようで、これによってスムーズな回転と操作感が得られている。
音楽なしで左耳のダイヤルを少しずつ回していくと、耳栓をしたようなノイズキャンセル独特の感覚が強まって、周囲の騒音がサーっと消えていく。人の声は完全に消えはしないが、これは逆位相の音で騒音を打ち消すこのタイプの特徴。ただ、それでもかなりミュートされる。
ここに音楽再生を加えると、ほとんど外の音が聞こえなくなった。ノイズキャンセル最大状態になると、音声アナウンスでそれを知らせてくれる。
Surfaceヘッドフォン発売時期の公式アナウンスは「2019年」。1〜2月なのか、来年度までズレ込むのかはまだ分からない。
逆にノイズキャンセルを弱めていくと、最弱以下では外音をマイクで取り込む「アンビエントモード」になる。このモードではノイズキャンセルがオフになるだけではなく、マイクで外音を強調するので、耳で聞くよりも人の声が増幅されて聞こえる。ちょうど、トンネルの中で人の声を聞いてるような印象、といえば連想しやすいかもしれない。
現場はオーディオ的な音質の良し悪しが試せる環境ではなかったものの、ノイズキャンセルの効き具合も悪くないし、自然。試作機だからか両耳のダイヤルなどの反応が少し不安定な部分あるにしても、第一印象として「これは意外とちゃんと作ってあるぞ」という感想を持った。
ちなみに、ダイヤル式でノイズキャンセルの効き具合が調整できるのは非常に珍しく、13段階と細かく刻んでいる製品もあまりない。最近の同種のヘッドフォンでは、スマホアプリと組み合わせて、アプリから強弱が調整できたりするものも多いが、個人的にはヘッドフォン単体ですべて完結する方が本来、望ましいと思う。その点でも、Surfaceヘッドフォンはなかなかよく考えてある。
Surfaceヘッドフォンで「クリエイティビティを発揮してほしい」
米マイクロソフトのコーポレートバイスプレジデント、チーフプロダクトオフィサーのパノス・パネイ氏。Surfaceシリーズ全般の責任者だ。
この日の記者説明会に登壇した米マイクロソフトのSurfaceシリーズ全体のプロダクト責任者、パノス・パネイ氏は、Surfaceヘッドフォンの企画意図を「クリエイティビティを発揮してもらえるように。プライベートと仕事のライフスタイルは今非常に近いものになってきている。Surfaceヘッドフォンは集中するために使ってもらいたい」と説明していた。
Surfaceシリーズは場所を選ばず仕事を片付けるビジネスの相棒だから、その集中力をブーストするツールとして、新しいアクセサリを企画した、ということのようだ。
スペックシート上のバッテリー駆動時間は最大15時間。ボーズQC35IIは最大20時間、ソニーWH-1000XM3は最大30時間だから、競合に比べてるとやや短めだ。
日本での発売は2019年中、価格未定というアナウンスだが、アメリカでの出荷は2018年11月19日と比較的近い。製品としての完成はそれほど遠い話でもない。
時期をあらためて製品版が試せるときが来れば、競合になるボーズやソニーと比べてどの程度性能なのか、ぜひ試してみたい製品だ。
(文・写真、伊藤有)