「Surface Laptop 2」。新色のブラック(左)とブルー(右)を比較。単体で見ると一瞬どちらがどちらかわからなくなるが、並べるとこの通り。
10月10日日本マイクロソフトは、先日アメリカで発表された「Surface」シリーズを日本国内でお披露目するためのプレスイベントを開催した。発表されたのは、「Surface Pro 6」「Surface Laptop 2」「Surface Studio 2」、そして「Surface Headphones」だ。
このうち特に「Surface Pro 6」「Surface Laptop 2」について、簡単なインプレッションをお届けしたい。一言でいえば「いい意味で変わっていない。けれども、本当の変化はこのあと来る」というところだろうか。
「好評ならばデザインは変えない」強気のブランド戦略
米マイクロソフトのコーポレートバイスプレジデント、チーフプロダクトオフィサーのパノス・パネイ氏。Surfaceシリーズ全般の責任者だ。
新モデルの最大の特徴はシンプル。「黒いこと」だ。
Surface Pro 6とSurface Laptop 2には、これまでラインナップにはなかったボディーカラーの「ブラック」が追加された。アルミボディのカラーからキーボードまですべてを同じテイストの黒で統一した、非常に見栄えのするデザインである。
一方で、それ以外の外観の変更点はあまり見えない。デザインはこれまでの意匠と共通で、よく知った「Surface」そのものに見える。
今回、マイクロソフトはあえてデザインなどをまったく変えていない。CPUなどの変更を中心としたマイナーチェンジ……という見方もできるのだが、CPU性能が大幅に向上(Surface Pro 6の場合で、前モデルから67%、Surface Laptop 2の場合で85%の高速化)していることから、内部の冷却系には大きく手が入れられている。
Surface Laptop2(左)と、Surface Pro 6のブラックモデルを並べた。正面の陰影で写真では少し色味が違って見えるが、現地で見る限り質感も色も同じだった。
米マイクロソフト・Surface担当コーポレートバイスプレジデントのパノス・パネイ氏は、「良いデザインは長く支持される。人々は、使い慣れた良さを評価するもの。妥協のない設計・ものづくりがあって、はじめてそれは可能になる。しかし、中身はまったく違う。大きく中身を変えつつ、使い慣れた良さをそのまま実現することに腐心した」と、開発ポリシーを説明する。
パネイ氏はSurface事業を立ち上げから担当し、現在も総責任者を務めている。マイクロソフトがPC事業で「Surface」というブランドを確立するまでの8年間で、顧客から学んで作り上げたのが、「良いデザインのものを徹底して作り、それを磨きつつ継続する」ということだった。
だから、今回の機種のデザインが変わっていないのは「必然」とも言える。
特にこのことは、Surfaceの人気が高い「日本」でプラスに働く可能性は高い。マイクロソフトはプレスイベントで、従来のSurface ProとSurface Laptopの顧客満足度がともに「99%」と極めて高く、前年度比で32%も成長している、という数字を発表した。現在のPC市場において、32%というのは驚くべき成長率であり、だからこそ、彼らは日本市場に注目する。
Surface Laptop 2の競合比較。ノート型Macよりもバッテリーが持つことをアピール。同じ土俵で戦う競合だが、Macはアルミを押し出したインダストリアルな印象、Surfaceシリーズは布風のアルカンタラ素材を使った柔らかい印象と対照的だ。
「USB Type-C」から見えるモデルチェンジの境目
Surface Pro 6のブラックモデル。アルカンタラ仕様のほか、従来どおりの指紋センター付きのタイプカバーもある。アルカンタラの質感は、実は昨年のプロよりも表面仕上げを滑らかに変えているという。
とはいえ、変わったことも「変わるべきなのに変わらなかったこと」もある。
Surface Laptopは昨年登場した製品だが、今年の「Laptop 2」は、製品の位置づけが少々変化した。
昨年の発売時には「教育市場を意識しているが、少々高級」という位置付けだった。CPU性能も少し抑えめな設定がなされていたし、組み込まれているOSも、「Windows 10 S」という、安全性重視でアプリのインストールに制限があるものになっていた。
だが、結果的に見れば、「Laptopを教育向けに推す」路線はなくなった。実際のところ、昨年のモデルも、購入したのはほとんど「普通のPCユーザー」だったのだ。そのため、今年のSurface Laptop 2は、「スタイルを古典的なクラムシェル型にした、普通のPC」として展開されることになった。OSも一般的な「Windows 10 Home」に改められている。これは、マイクロソフト自身が「Windows 10 S」の展開を諦めたことと無関係ではない。これは好ましい変化といえる。
一方、変化すべきだったのに変わらなかったこともある。新型のSurface Pro 6・Surface Laptop 2ともに、インターフェースとして「USB Type-C」が採用されていないことだ。
「変わらなかった部分」で指摘したUSB Type-Cの非搭載。アクセサリーの接続にフルサイズのUSBは便利だが、充電にはUSB充電器が使いまわせるType-Cを支持する声は増えてきている。
8月に発売された低価格モデル「Surface Go」や、ハイエンドモデルの「Surface Book 2」では採用されており、インターフェースと充電、両方で利用できる良さがあった。スマホでは標準的なインターフェースになっているし、他社のPCでも採用が進んでいる。
Surface Pro 6・Surface Laptop 2で採用されなかった理由について、パネイ氏は「充電機能など、検討すべき項目が多かったため」と発言している。この辺は、「設計変更したとはいえ、実際にはフルモデルチェンジではない」という事情がこうした部分に現れている、という見方はできるだろう。
Surface Pro 6の場合、タイプカバー(キーボード)は取り外し式。写真ではブルーとブラックに見えるが、本体色としてはプラチナとブラックだ。
Laptop 2は天板の色も変わる。カラバリの違いを楽しむならこちら。
また、Surface Proについては、CPU性能やメモリー搭載量を大きく落とした「低価格版」もあったが、今回はなくなった。これは、その役割をSurface Goに譲ったためだろう。一方で、前モデルにはあった「LTE内蔵版」の発売予定がない、というのは気になる。マイクロソフトとしては、LTE内蔵もSurface Goだけでいい(こちらは年内に出荷開始)、という判断なのだろうか。
日本でも「サブスクSurface導入」発言の衝撃
アメリカで展開されるサブスクリプション(月額制)のSurface。1世代前のモデルが中心。契約期間(18カ月〜36カ月)に応じて月額料金が変動するなど、よく考えられている。ProのLTEの場合、この仕様で18カ月契約に変更すると、月額が123.22ドル(約1万3800円)に上がった。
Surfaceを巡っては、より大きなトピックもひとつあった。
アメリカでは新Surfaceの発表に合わせ、月額制サブスクリプションで提供する「Surface All Access」という販売形態の導入が発表されていた。10月3日の発表時の記事でも詳しく説明されているが、これは、スマホにおける「分割払い」型の販売モデルを、PCにも導入しようという流れでもある。
今回、「価格や実施時期などの詳細は未定」としながらも、日本でも「Surface All Access」の導入が検討されていることを公表している。これが実現すれば、日本でもPCを購入するハードルを下げる動きが加速することになるだろう。
日本マイクロソフト・執行役員 常務 コンシューマー&デバイス事業本部長の檜山 太郎氏。
日本マイクロソフト・執行役員 常務 コンシューマー&デバイス事業本部長の檜山 太郎氏は、
「日本でもPCの利用の土台を広げて行く必要がある、という分析から、導入の検討を進めている。日本ではPCとOfficeアプリがセットになって売られてきた歴史が非常に長く、いきなり導入すると混乱も生む可能性がある。マイクロソフトOfficeのサブスクリプション版のPCへのバンドルも含め、『サブスクリプション』というビジネスモデルそのものの導入を考えていきたい」
と話す。
これが実現すれば、日本におけるPCの中で、Surfaceの人気がさらに高まる可能性も十分にある。また、他のPCメーカーがどう判断するか、という点も興味深い。
日本におけるPCの受け入れられ方に、大きな変化を促すものになる可能性は高い。
(文・西田宗千佳、写真・伊藤有)
西田宗千佳:フリージャーナリスト。得意ジャンルはパソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主な著書に『ポケモンGOは終わらない』『ソニー復興の劇薬』『ネットフリックスの時代』『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』など 。