名刺交換をしても、そのまま活用できず、眠っている名刺。その名刺が実は大きな可能性を秘めているのかもしれない。
名刺管理サービス大手のSansanの調査によると、名刺交換をした人脈の6割が活用されずに、いわば“冬眠”しているという。さらに、この「冬眠人脈」による経済損失規模を、1社あたり120億円と推計。
しかし、この調査は、大量の名刺が無碍に配られている、とも読み取れる。冬眠人脈の掘り起こしは、どのくらい効果的なのだろうか。
名刺交換をした人のうち、関係が継続したのは、何割くらいですか。
調査は、Sansanが自社が蓄積した名刺のデータや経済センサス、国勢調査から算出した。
名刺1枚当たりの価値は74万円。算出方法は日本企業の売り上げを、名刺流通枚数(Sansanのデータから、名刺交換の平均枚数、国勢調査から対象人口を推定)で割り、算出した。売り上げには、広告や商品の価値など、さまざまな要素が関係するため、今回の試算は、あくまで概算だ。
さらに、Sansanのデータによると、1人当たりの平均名刺交換枚数は105.9枚。名刺を最大限に活用すれば、大きな売り上げを生むはずだが、実態は、以下のようだ。
この冬眠人脈の多い業界はどこだろう。業界全体、1社当たりのどちらも、製造業がトップ。
Sansanが割り出した各業界の機会損失は次の通り。国勢調査、経済センサス、Sansanの業界、産業別のデータから、算出した。業界によって、大きな開きがあり、製造業の1社当たりの機会損失は、181億8400万円にも上る。
名刺を配り過ぎている?
とりあえず名刺を配る日本の習慣により、むしろ効率が下がっているのでは、との見方もある。
撮影:今村拓馬
上記の調査では、冬眠人脈が大きな可能性を持っている結果が試算された。
一方で、今回の調査は、“余分な”名刺交換が大量にされているとも読み取れる。
実際、名刺交換によって、弊害が生まれることがある。
「前職の時は、名刺交換をすると、営業電話がたくさんかかってきて、それに時間を奪われて後悔しました」
あるIT企業の広報の女性(29)は、振り返る。現職の会社はなるべく紙を使わない方針のため、「名刺は、配り過ぎないようにしている」という。
ほかの金融関連のベンチャー企業の女性(34)も、「名刺交換をした人が、必ずしも重要ではないケースが多々あります」と話す。女性は名刺を交換した人のうち6割とは連絡を取る。そのうち関係が続くのは2割、4割はお礼メールで終わる人たちだ。ということは名刺交換した人の4割は、“名刺だけで終わる関係”ということなのだ。「(冬眠人脈の)掘り起こしは可能性を秘めていますが、100%(仕事に生かすのは)は難しい」というのが実感だ。
さらにある程度の人脈のある人なら、名刺交換していなくても、フェイスブックの友達、または友達の友達で、十分仕事で事足りるという人も少なくない。不確実な人脈を開発するより、効率がいいからだ。
Sansanとしては、「自分にとって重要じゃない人脈が、社内で重要だったり、ポジション、仕事の内容によって、(重要度が)変わるケースがある」(広報)ととらえ、眠っている名刺をITで掘り起こしていきたいという。
名刺や冬眠人脈の価値は、人の経験や職種、思考によって、大きく変わってくるのかもしれない。
(文、木許はるみ)