セブンが“デジタルセブン”への変身を急ぐ理由——拡大路線爆走するファミマの一歩先へ

日経平均株価が急落してショックウェーブが東京市場を走った10月11日、国内小売業界にはもう一つ大きなニュースが流れた。

ユニー・ファミリーマートホールディングスによるドンキホーテホールディングスに対する株式公開買い付け(TOB)だ。セブン&アイ・ホールディングスに対抗するファミマは、ドンキの20%強の株式を取得して、グループ企業にするという。

セブン&アイ・ホールディングスのロゴ

REUTERS/Toru Hanai

激変する日本の小売市場で、業界を牽引するセブン&アイはどう戦っていくのか?

10月11日はセブン&アイの第2四半期決算の発表日。

東京・半蔵門で開かれた会見に出席した井阪隆一社長は、過去最高を記録した2018年度中間決算の内容を淡々と話した。買収で拡げたアメリカのコンビニエンスストア網、セブン銀行を核とする金融事業の成長、国内コンビニで新たに投入した冷凍食品や惣菜アイテム……。収益の伸びを説明するブレットポイントが井阪社長の右後ろにある大型スクリーンに映し出された。

1時間の会見で、セブン&アイが着々と進める大きなプロジェクトに触れた時、井阪社長の語気に一段の強さを感じた。セブン&アイグループのデジタル化だ。今となっては決して斬新な言葉ではないが、約15万人の従業員を有するセブンが近未来の「デジタル・セブン」にシフトすることは、不可欠だろう。

セブンアプリ1000万ダウンロード目指す

セブン&アイ井阪隆一社長

2018年10月11日、セブン&アイの第2四半期決算を発表する井阪隆一社長。

撮影:佐藤茂

2018年6月、セブン&アイはデジタル戦略のファーストステップとして、グループ共通の顧客向けID「7iD(セブンアイディ)」を始めた。このIDと連動して、セブンイレブンとイトーヨーカドーではスマートフォンアプリを導入した。

現在、1日2300万人以上もの客がセブン&アイの2万以上に及ぶ店舗網に足を運ぶ。客の購買動向をアプリ経由のビッグデータを使って的確に把握し、客のニーズを捉え、グループ全体の商品開発に反映して、タイムリーな買い物提案を行う。

セブンイレブンとイトーヨーカドーのアプリのダウンロード数は9月までに、合算で670万に達した。2019年5月までに1000万に達する見込みだ。

百貨店事業のそごう・西武向けのアプリは2018年秋、ロフト(Loft)や赤ちゃん本舗(アカチャンホンポ)向けは2019年春にスタートする。また、セブン&アイはスマホ決済の導入を2019年中に開始する。“リアル”の世界を生き抜いてきたセブン&アイにとって、2018年はデジタルの世界に本格的に足を踏み入れる年となった。

「データをアナライズ(解析)できる人材を育成できるようにしていきたい」と井阪社長は11日の会見で述べ、多くのデータサイエンティストが働く数年後のセブン&アイの姿を連想させた。

航空、通信、銀行、鉄道、商社と作るデータラボ

セブン&アイ・データラボのコンセプト

セブン&アイ・データラボのコンセプト。

セブン&アイHPより

セブン&アイのデジタル戦略のもう一つの狙いは、潜在需要と潜在市場の開拓だ。同社は6月に「セブン&アイ・データラボ」を10の企業とともに立ち上げ、ビッグデータで連携しながらデータ分析を行っていく。今後はさらに参加企業を増やし、データからビジネス機会を探る取り組みを強化する。

現在までに、全日本空輸(ANA)、NTTドコモ、ディー・エヌ・エー、東京急行電鉄、東京電力、三井住友フィナンシャル、三井物産などがこのデータラボに参画している。

個人情報を除いたデータを使うことで、「ある特定の客が好みのファッションや本を、いつ、どんな場所で買い物をするのか」という傾向が見えてくる。その傾向などから、ブームやヒットする商品の予兆やニーズを見通して、販売プロモーションを仕掛けたり、新しい客層にアプローチすることが可能になると、セブン&アイはデータラボの存在意義を発表している。

また、複数の企業が持つビッグデータやSNSの検索情報と連携すれば、買い物に制約が生じうる地域を特定することも可能になってくる。

コンサルティングファーム・ローランドベルガーで未来の小売市場を研究する福田稔氏は、「小売店舗はチェーンオペレーションの時代に一区切りがつき、ローカルの顧客と文化特性への対応が鍵となってきている」と話す。

2025年以降に来るミレニアル世代中心の消費社会

ファミリーマート

ユニー・ファミリーマートも今回のTOBについて、競争力と収益力を強化しながら、データマーケティングなどの顧客基盤の構築や金融分野でも協業を進めると述べている。

REUTERS/Sam Nussey

「ロボットやAI(人工知能)をはじめとするデジタルの活用では、ローカル特性とのリミックスが重要。ローカルとデジタルの特徴を取り入れたカスタマージャーニー(客が商品を知って購買するまでの思考や感情、行動などのプロセス)の設計と、最高の顧客体験の追求が、今後のリテール企業の生き残りの鍵だろう」と福田氏は言う。「団塊の世代が市場から消え、ミレニアル世代が消費の中心となる2025年以降は、そのうねりが顕著となる」と加えた。

ニッセイ基礎研究所・チーフエコノミストの矢嶋康次氏は、「労働人口が減少する中で、テクノロジーを活用したよりデジタルで、よりテックなセブン&アイには、さらなる成長の可能性があるだろう」とした上で、「テックなセブンに変化させるための舵取りが経営陣には必要になってくる。そして、コンビニという町のプラットフォームは今後、さらにグループ(セブン&アイ)の成長の大きな鍵を握る」と話す。

セブン&アイは46都道府県で約2万600のセブンイレブンを展開し、エリアライセンスを含めた世界の店舗数は6万7000を超える。売上高に当たる営業収益は年間で6兆円を突破した。

一方、国内外合わせて約2万4000のコンビニ店舗を展開し、セブンを追うユニー・ファミリーマートは、2018年2月期連結決算で1兆2753億円の営業収益を計上。インバウンド客で賑わうディスカウント大手のドンキは年間1兆円弱を売り上げる。

『小売再生 リアル店舗はメディアになる』の著者、ダグ・スティーブンス氏は著書の中でこう語る。

「今日とは違い、実店舗は消費者の購入プロセスの終着点ではなくなり、出発点になる。現実の体験が呼び水となって、消費者は長期にわたりブランドとのデジタルな関係を構築するようになる……。店は、身体、感情、知性のすべての面で強力な起爆剤の役割を担う。だが、そのほとんどの瞬間はネットワークに接続されたデジタルなものになる

セブン、ファミマ、ローソンのコンビニ決戦は今後、デジタルの世界に主戦場を移し、その対決は小売や金融などの垣根を越えた、よりし烈なものになるだろう。

(文・佐藤茂)

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