『ヴェノム』サプライズヒットでソニー収益増に期待──映画事業は再建するか

ソニー・ピクチャーズの映画『ヴェノム(Venom)』が2018年10月5日にアメリカなどで公開されて以来、快進撃を遂げている。ソニーは10月30日、2018年度第2四半期決算を発表したが、株式市場では苦戦してきた映画事業の復活を期待する声が一段と強まる。

俳優のトム・ハーディ氏

映画『ヴェノム』のプレミア試写会に出席した俳優のトム・ハーディ(左)と女優のケリー・マーセル。

REUTERS/Mario Anzuoni

『ヴェノム』は北米映画興行収入の週末ランキングで首位をとると、全世界の興行収入は4億6000万ドル(約515億円)を突破。米デッドライン(Deadline)によると、ソニーは2018年、前年末に公開された『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』や、『イコライザー2』、『モンスター・ホテル クルーズ船の恋は危険がいっぱい?!』などのヒット作品を連発し、全米累計興収が10億ドル(約1120億円)を超えたという。

「吉田憲一郎CEO率いるソニーが映画事業を再建できると確信する」と述べるのは、ジェフリーズ証券で日本のエレクトロニクス企業を分析するアナリストのアツール・ゴヤール氏。「我々は依然としてソニーの成長の牽引役はゲームと音楽、それとイメージセンサーだと考えるが、ソニーの映画事業は今、正しい方向に向かっている」と、ゴヤール氏は10月12日付のレポートで述べている。

2018年度の連結売上高を8兆7000億円(10月30日現在)と見込むソニーは、映画事業の売り上げ予想を1兆円としている。セグメント別で見ると、映画事業は、同社の主軸事業であるゲーム&ネットワークサービスの2兆3500億円や、金融事業の1兆2700億円、ホームエンタテインメント&サウンドの1兆1500億円に次いで、4番目に大きな事業となる。

営業利益予想では、映画事業は500億円と、売上高予想に対する利益率は低い。因みに、9100億円の半導体事業の売り上げ予想に対して、ソニーは1400億円の営業利益予想を立てている。ゲーム&ネットワークサービス事業の営業利益は3100億円を見込んでいる。

現れては消える売却説

ソニー吉田憲一郎CEO

ソニーCEOの吉田憲一郎氏(撮影:2018年5月)。

REUTERS/Toru Hanai

ソニーの映画事業は苦戦を強いられてきた。過去、同事業の売却説は幾度となく聞かれた。

2013年、米アクティビスト・ファンド、サードポイントを率いるダニエル・ローブ氏が、ソニー・ピクチャーズエンタテインメントを上場させて、2割弱の株式を売り出すべきだと提案。当時のCEO、平井一夫氏は、エンタテインメントはソニーの中核事業だとして、ファンドからの提案を退けた。

2017年、ソニーが2016年度に800億円を超える映画事業の営業赤字を計上すれば、市場からは再び事業撤退の可能性が囁かれた。

前出のゴヤール氏は、吉田氏がCFOに就任した2014年以降、ソニーは取捨選択を徹底してテレビ事業を売却する一方で、イメージング・プロダクツ&ソリューション事業を拡大させたことを高く評価している。2018年4月にCEOに就任した吉田氏を中心とする現在の経営陣にとって、(スマートフォンの)モバイルと映画の2つの事業の弱さは悩みの種だ。

『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』に続く『ヴェノム』のヒットは、ソニーが映画事業を再建する上で、それを後押しするタイムリーヒットとなった。

しかし、映画事業の再建を期待する一方で、ゴヤール氏は「早まった期待はすべきでない」と加え、ソニーの収益を分析する上で、映画興収の伸びに対する慎重な考えを述べている。「映画の成功は直ちに企業収益に寄与することはないだろう。興行収入の多くはマーケティングコストや開発コストをカバーする。ソニーへの利益は後からやってくる。2017年のジュマンジのビッグヒットは今年、そして翌年の収益に影響してくるだろう」

(文・佐藤茂)

(編集部より:第2四半期決算の内容を加え、記事は2018年10月30日17:00に更新しました)

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