クールジャパン機構立て直しなるか。吉本興業と組みミャンマーに「住みます芸人」

アーキー1

ミャンマーに住んでいる芸人のアーキーさん。

吉本興業が、若手芸人5人をミャンマーに送り込む。

これまでも進めてきた、無名の芸人にアジア各国や日本の各地に住んでもらい、人気になったら大阪や東京進出の足がかりになる、「住みます芸人」という仕組みを使ってだ。谷底に突き落として成長を促す、ライオンの子育てのような芸人育成システムだが、ミャンマー派遣については、会社としてもはっきりした狙いがありそうだ。

これまでにアジア6カ国に芸人派遣

若手芸人5人

ミャンマーに派遣される5人の芸人

「住みますアジア芸人」は吉本興業が2015年から進めており、これまでに台湾、タイ、インドネシア、マレーシア、ベトナム、フィリピンに芸人を派遣している。日本から通うのではなく、芸人たちが完全に移住することで、現地への浸透を図っている。

ミャンマーに住むことになった芸人は、遠藤逸人さん(29)、阿部直也さん(29)、おきるさん(33)の3人が結成したトリオ「タイガース」、緑川まりさん(35)とアーキーさん(32)の5人だ。緑川まりさんは、女性芸人として初めて現地に派遣されることになった。

ミャンマーは近年、民主化が進み、高成長を遂げていることから、投資先として注目を集めている。一方で、放送・通信を含むインフラ整備の遅れなどから、企業がビジネス展開をするうえでは、さまざまな課題も残る。

2つの官民ファンドが加わるプロジェクト

芸人派遣のチャート

芸人派遣と官民ファンド

制作:小島寛明

今回のミャンマーへの芸人派遣は、2つの官民ファンドと複数の日本企業が参加する、大きなプロジェクトの一部と見ることができる。

官民ファンドのひとつは「クールジャパン機構」(海外需要開拓支援機構)。同機構や吉本興業、電通などが出資する官民合弁会社「MCIPホールディングス」が日本のエンターテインメントのアジアでの展開を進める。吉本興業に所属する芸人らをアジアに売り込むのも、MCIP社の役割のひとつだ。

10月12日、クールジャパン機構の北川直樹社長は京都市内での記者会見であいさつ。「世耕大臣(経産相)からも、なんとか日本のエンターテインメントを海外に発信してほしいと言われている。人気が出るようにもっていくのが最大のミッションだ」と、政府の後押しを受けている点を強調した。

クールジャパン機構の北川直樹社長

記者会見で芸人派遣への期待感を語る、クールジャパン機構の北川直樹社長。

クールジャパン機構はこれまで、29件に総額約620億円を投資してきたが、2018年3月期決算では39億円の純損失を計上した。北川社長は、7月に新社長に就任し、同機構の立て直しを担う。

さらに、2018年4月に設立されたDream Vision(ドリーム・ビジョン)も関わっている。ドリーム・ビジョンには、クールジャパン機構と海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT)の2つの官民ファンドが出資。地上波のMyanmar National Terevision(MNTV、ミャンマー・ナショナル・テレビジョン)を運営している。

これまで吉本興業からアジア各国に派遣された芸人たちは、YouTuberとして活動したり、イベントを開いたりと地道な活動から始めることが多かった。一方ミャンマーでは、ドリーム・ビジョンがあることから、派遣された芸人たちが、他のアジア諸国と比べて、顔を売る基盤がすでにある強みがある。いきなりテレビに出演できる可能性もある。

MCIPの清水英明社長も「ほかの国と比べると、ミャンマーにはすでに受け皿があるのは、非常にありがたい」と説明する。

クールジャパン機構としては、日本のドラマやお笑いなどのコンテンツをミャンマーに広め、日本の製品やサービスをアピールしたい考えだ。将来的には、ミャンマーからの訪日客の増加にもつなげたいという。

アジアでは「言葉に頼らないネタ」を

住みます芸人のひとりアーキーさんは、すでにミャンマーのヤンゴンで生活している。「ミャンマーに骨を埋めるつもりでやる」と話す。

アーキーさんは20歳のときに吉本の芸人養成所NSCに入り、芸人としての一歩を踏み出した。しかし、なかなか芽が出ず、2014年7月、父親が教育事業を展開しているミャンマーに移り住んだ。

アーキーさんの持ちネタは、「ロンジー脱げちゃった」。

ロンジーは布を腰に巻く、ミャンマーの伝統的な衣装だ。リズムに乗って、ロンジーの巻き方を説明するが、最後には布が床に落ち、下着が見えてしまう。

アーキー2

持ちネタ「ロンジー脱げちゃった」を披露するアーキーさん。

吉本興業の関係者たちは「アジアでは、あまり言葉に頼らないネタがいい」と口をそろえる。

アーキーさんはヤンゴンで暮らして4年になり、日常会話は身についた。それでも、日本語の漫才のような複雑なネタを現地の言葉でつくるのは、かなりハードルが高い。このため、変顔、音楽、リズムや動きといった、言葉に頼らないネタで勝負することが必須だ。

アーキーさんによれば、ミャンマーでは、志村けんさんの映像にミャンマー語の字幕がつけられ、SNSでどんどんシェアされているそうだ。

これまでに各国に派遣された吉本の芸人たちの中には、映画に出演したり、テレビでレギュラー番組に出演したりといった成功例も出はじめている。

クールジャパン機構の北川社長も「1人でも人気者が出たら、ものすごいことだ」と期待する。

(文・写真、小島寛明)

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