何を持って、どこを目指し、どのように走るか——。モノも場所も働き方も選択肢が豊富な世の中だから、それを選び取るセンスが求められる時代。そんな中、心ときめく「好き」をキーワードに、自分らしい「Lifegenic」な生き方を軽やかに実現している人がいる。
自身が学生時代に立ち上げた「ハピキラFACTORY」の社長を務めながら、ソニーモバイルコミュニケーションズの正社員としても働く、パラレルワーカーの正能茉優さんだ。
好きなことを仕事にする大人との出会い
ソニーモバイルコミュニケーションズの社員で、ハピキラFACTORYを経営する正能茉優さん。
1991年生まれ。ミレニアル世代の正能さんは、大学時代に地方の商品を「かわいい」を切り口にプロデュースして発信・販売する「ハピキラFACTORY」を起業した。 今年で7年目に入るというハピキラでは、日本郵便とともに地方のお菓子を使った母の日・子どもの日のギフトをプロデュースしたり、佐賀県の小城羊羹をお歳暮として企画したりと、日本全国で商品づくりに取り組んでいる。また2017年からは、若手農家と消費者を直接つなぐ一次産品の流通「My農家BOX」の企画や運営もしているとのこと。
ハピキラ初の商品は、長野県小布施町の老舗栗菓子店・小布施堂の商品「栗鹿ノ子」を、バレンタインギフトとして若い女性向けパッケージに変えたもの。
東京生まれ、東京育ち。学校のテストでは真っ白な紙が配られ、暗記した知識ではなく、考え方やアイデアを大事にする小学校に通った。週末は家族とともに北軽井沢で過ごし、いつのまにか環境問題に関心を持つように。
虫や花が大好きで「自然の素敵なところを、世の中に伝えたい」という思いで、小学6年生の時、読売新聞の子ども記者になった。高校卒業までの7年間、取材や記事の執筆など、記者として活動したという。
「幼い頃、働く大人として知っていたのは、会社員の父と学校の先生くらいでした。でも、記者活動を通して、作家の先生やバイオリニスト、キャスターに映画監督など、たくさんの働く大人にお会いしたんです。自分の仕事を楽しそうに話して下さる大人を見て、『好きなことを仕事にするっていいな』と思うようになりました」
小布施で気付いた「本当の豊かさ」
大学卒業後、広告代理店を経てソニーに入社。慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科特任助教も務め、東京をベースに日本全国の地域を飛び回る生活を送っている
起業のきっかけは、大学1年生の夏、教授の紹介で長野県小布施町の「まちづくりインターン」に参加したことだった。「地方創生」という言葉がさかんに言われる前の、2010年のこと。
「小布施に行って驚いたのは、小布施に住む人が、小布施に暮らすことを誇りに思っていることでした」
まちを愛し、まちと積極的に関わりながら暮らす町民の姿を見て、確信した。「物質的な豊かさ以上に、精神的な豊かな暮らしって素敵なんだ」と。その確信が、「地方の良いものを輝かせ、地方の魅力を伝えていく」ハピキラを始めたきっかけでもある。
好きなことを仕事にするには、“How”で考える
週末は地方の自然の中で過ごすことも多い。
日々楽しそうに仕事をする正能さんは、好きなことを仕事にするにはどうすればいいか、と聞かれることも多いという。
「ポイントは、好きなことを、WhatではなくHowで捉えること」。
正能さんの場合、好きなHowは、「まだみんなの気付いていない魅力的なものの価値を見える化すること」。
そのHowを南青山や銀座でやったとしても、すでにできているところも多くなかなか成り立たないが、そのHowが苦手で困っているところに持っていくから、仕事になる。
「好きなことが見つからないなら、まずは、やりたくないこと以外いろいろやってみたらいいんじゃないかな。私も最初から、地方に興味があったわけではありませんでした。やってるうちにそれが続いたら、後出しジャンケンで『好きなこと』って言っちゃえばいいんです」
自分の好きなHowを、仕事にしていくこと。難しそうに聞こえるが、「自分が成功って思えるまでやり続けるだけだから、そこまで続ける気持ちだけあれば100%うまくいきます」と彼女は笑う。
モノ選びも、ブランドより信頼と共感
正能さんが毎日使うバッグ。
成功を決めるのも、正解を決めるのも、自分。
その信念は、正能さんの消費活動にも大きく影響している。買い物もブランドや流行に流されることなく、自分がいいなと思えるものを買いたいと語る。
「ストーリーにグッときて買う“ストーリー買い”をすることが多いです。今、愛用しているバッグは、フォレ・ル・パージュ(Faure Le Page)という、もともとフランスで王侯貴族御用達の鉄砲工として創業したメーカーのもの。ナポレオンのサーベルをつくっていた歴史ある鉄砲屋さんのバッグなんて、なんだか素敵だなって思って買っちゃいました」
高級ブランドだからいいというわけでもなく、見た目がいいからいいというわけでもない。
「ただの高級バブルバッグは、ダサいというか、気がひけてしまうので持ちません。私が高めのものを買おうと決心するときは、「ストーリー買い」か「応援買い」のどちらかです。ブランドの信念に共感できて応援したくなると、少し高くても買っちゃいますね」
人材じゃなく“人物”になりたい
そんな正能さんに将来の目標を聞いてみた。
「私の目標はいつも、“好きな人と好きな場所で好きなように暮らす”こと。恋人や友だちと遊んで暮らせればいいというわけではなくて、私自身、自分の思いを行動に移せる、人から応援される人でありたいし、応援したくなるような頑張っている人と一緒にいたい。 その自分の行動の結果として、世の中がちょっとよくなればいいし、それを自分の大切な人たちが『いいね』と言ってくれたら嬉しいな」
正能さんは“人材”ではなく“人物”でありたいとも語る。特定のスキルや立場が評価されるのは“人材”。スキルや肩書きではなく、その人そのものの存在が価値とされるのが“人物”。それは決して代わりがきかない。
「私が地方にお邪魔するのは、会いたい人がそこにいるから。地方には“人物”がたくさんいるんです。コミュニケーションツールが発達している今、たいていのことはスマホで済んでしまうからこそ、事務的なやりとりはLINEで済ませて、そのぶん、会いたい人に会う時間を大事にしています」
正能さんが学生時代に抱いた「これからはきっと、精神的な豊かさが来るんじゃないか」という確信。そんな時代が今、改めてやってきたことを感じる。
探そう。自分らしく生きる手がかりを。Cue for Lifegenic Supported by Lexus