ユニクロの北欧1号店、スウェーデン出店に1000人行列——最高業績引っ張る海外事業

ユニクロのストックホルム出店

ユニクロの北欧1号店の開店には1000人が行列を作った。

提供:ユニクロ

「グローバルブランドを目指すというが、どこにたどり着けば、グローバルブランドとしての位置を確立したと言えるのか?」

10月11日の決算会見に登壇したファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、記者からの質問に対し、「発展途上国から先進国まで、同一商品をグローバルで売る体制をつくったブランドはほとんどない。しかも、われわれの服に対する根本的な考え方、『LifeWear』『MADE FOR ALL』はどこの国の人でも理解できるもの。グローバルブランドとして確立できたんじゃないかと思う」と即答した。

国内の売り上げを海外が上回る

ユニクロ ストックホルム店

王立公園に面した一等地に建つ「ユニクロ クングストラッドゴーダン店」。機能建築の父といわれる有名建築家による建物の性質を生かした店になっている。

「ユニクロ」(UNIQLO)を主軸に展開する同社の2018年8月期(国際会計基準)の売上収益は2兆1300億円(前期比14%増)、営業利益が2362億円(同34%増)となり、2期連続で過去最高業績を更新。

好調の要因は海外部門だ。海外ユニクロの売上高はわずか1年間で1881億円積み増し、8963億円(同27%増)に。国内ユニクロの売上高8647億円(同7%増)を逆転している。

成長をけん引するのは人口が多いアジアだ。グレーターチャイナ(中国・香港・台湾)で売り上げが約4400億円、韓国で約1400億円、東南アジア・オセアニア地域でも約1400億円に到達。2019年秋にはインドとベトナムにも進出する。

柳井社長は、「今後はインド抜きでは世界一になれない。インドのような独自の文化を持つ巨大な国で本気で商売し成長するため、優秀な企業や個人などのパートナーと協力しながら、基礎からすべて自分たちで仕組みを作る。過去の成功や失敗の経験を総動員して、フルスイングでホームランを狙う」と意気込む。

一方で、ヨーロッパは「一連のグローバル戦略の中で、服の文化の先進地域」とし、今後のグループ戦略の最重要マーケットの一つと位置付ける。2017年のスペインのバルセロナに続き、2018年はスウェーデンのストックホルム、オランダのアムステルダムに出店。2019来春はデンマークのコペンハーゲンにもと、積極的に出店を続けている。

H&Mのお膝元に1000人もの行列

ユニクロ進出を伝える現地メディア

現地メディアでも「ユニクロ」進出は大きく取り上げられた。

中でも、8月24日にスウェーデンのストックホルムに出店した北欧1号店での経験は、企業文化を確立するうえでも大きな影響を受けたと柳井社長は明かす。

「ユニクロ」の世界で20番目、ヨーロッパで7番目の進出国となるスウェーデンは、日本の約1.2倍の面積に対して、人口は1012万人(2017年12月現在、スウェーデン統計庁)。東京の人口をも下回っている。

スウェーデンといえば、「ZARA」のインディテックス社に続く、世界ナンバー2の衣料品専門店、H&Mへネス・アンド・マウリッツの拠点でもある。そんなライバルの足元で、ユニクロは開店当日、1000人もの行列を生み、インパクトのある北欧デビューを飾ることに成功した。

店舗はストックホルムの中心にあり、“王の庭”といわれる王立公園に面し、最も歴史ある百貨店に隣接する「ストックホルムで最高の立地」(柳井社長)だという。建物は、機能主義建築の生みの親として知られるスウェーデンの世界的な建築家、スヴェン・マルケリウス氏が手がけたもの。地元への敬意を表すとともに、機能性やモダンデザインというユニクロが追求する価値観を店舗でも生かした形だ。

街中のトラムやバス停などで認知

ユニクロ宣伝の様子。

地下鉄(25駅に80カ所)や、街中を走り回るトラム、バス停、ビルボードなどで認知を高めた。

現地でのPR&コミュニケーション戦略は、ここ最近の海外進出の“王道”。4月下旬に北欧1号店進出のリリースを配信するとともに、メディアカンファレンスを催し、“What is UNIQLO”(ユニクロとは何者か?どんな提供価値を現地の生活者に提供するのか)の理解を深めた。

「H&M」や「ZARA」をはじめ、多くのアパレルブランドがファッションやトレンドを打ち出しているのに対して、「あらゆる人の生活をより豊かにするための服。美意識のある合理性を持つ、進化し続ける普段着」という意味を込めたコンセプト「LifeWear」や、あらゆる人のための服を追求する「MADE FOR ALL」の理念などを丁寧に伝えた。

集中的に情報発信を開始したのは、開店月の8月に入ってから。

地元で活躍するダンサーやテニス選手、女優、作曲家などのアンバサダー7人を起用した広告ビジュアルやミニ動画を作成。地下鉄(25駅に80カ所)や街中を走り回るトラム、バス停、ビルボードなどに流して認知を高めた。ブランドブックは1万部を用意。店の周辺でブランドロゴ入りのミネラルウォーター2500本を配布した。

デジタル施策も注力し、ファッション、ライフスタイル系の現地主要メディアで広告をうち、360万インプレッションを獲得。SNSや特設サイトで動画の配信も行った。

「高い付加価値を生み出すワークスタイル」

柳井正ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長

決算会見に登壇した柳井正ファーストリテイリング会長兼社長。

開店前日には店で昼は記者会見(34媒体が来場)、夜には有名ブロガーや発信力のあるメディア関係者、地元の名士など550人を招いてプレオープニングパーティを開催。海外パーティで恒例となった、ユニクロの地元・山口の日本酒「獺祭(だっさい)」樽の鏡割りには歓声が挙がったという。

開店当日も和太鼓のパフォーマンスを実施。ユニクロ草創期に開店やセール時の行列には牛乳とアンパンを配っていたが、ストックホルムでは地元の人気店と協業してコーヒーやアイスクリーム、シナモンロールを配った。ウチワ(扇子)に加えて、先着200人にカシミヤマフラーを配布。一定額以上の購入者による福引(1等商品は日本への航空券)も開店ムードを盛り上げた。

「お客さまの服に対する感度の高さ、オープンをお待ちになる方の洗練されたマナー。お互いに譲り合い、会話しつつ、お買い物を楽しまれる余裕のある態度。世界トップクラスの先進国の成熟した文化に対して感銘を受けた。また、現地の従業員は少人数でキビキビと動き、効率の高い働き方をしている。集中力をもって仕事をし、毎日の生活を楽しんでいる。これは本来の少ない人口で高い付加価値を生み出すワークスタイルなのだとあらためて目を開かれる思いがした」と柳井社長。

アジアに比べると商機は小さく見えがちだが、北欧各国は「世界で最も幸せな国ランキング」(国連が発表する「世界幸福度報告書」)では常に上位を獲得。モノを見る目が培われており、生活の質が高く、シンプルだけれども機能的で本質的に良いものが分かる、成熟したエリアである。

ここでユニクロのコンセプトや理念、働き方、さらには企業そのものが受け入れられ、ブラッシュアップされることは、将来の成長に向けて、数字以上の大きな意味を持つことになりそうだ。

(文、写真・松下久美)


松下久美:ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表。「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。2017年に独立。著書に『ユニクロ進化論』。

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