なぜ日本では家事代行が進まない?ポイントは世間体からの解放と「対等感」

女性活躍、ダイバーシティ、働き方改革……ここ数年、それなりに議論され、実行フェーズにも移ってきたこれらの関連施策。しかし、仕事と子育ての両立の上で課題が残るのが、未だに女性に大きく偏る家事労働の部分だ。

料理をしながら子供の様子を確認する母親

仕事と子育ての両立の上で課題が残るのが家事労働。女性が外で働きつつ、家事も育児も手掛けているのが実態だ(写真はイメージ)。

gettyimages / kohei_hara

「平成28年(2016年)社会生活基本調査」によれば、日本人の6歳未満の子どもをもつ夫婦の1週間の家事などの時間(育児含む)は、男性が1.23時間で、女性の7.34時間と大きく差が開いている。アメリカでは男性が3.25時間、女性が6.01時間で、差はあるものの日本ほどではない。女性活躍がうたわれても、男性の家庭進出はままならず、女性が外で働きながら、家事も育児も手掛けているのが日本の実態だ。

外部の家事代行サービスを利用する動きも、爆発的には広まってこなかった。

経済産業省「平成26年度女性の活躍推進のための家事支援サービスに関する調査」によれば、25~44歳の女性のアンケート対象者のうち、家事支援サービスは「現在利用している」がわずか1%、「過去利用したことがある」が2%。27%はそもそも「サービスを知らない」だった(一番多いのは「サービスは知っているが利用したことはない」の70%)。

なぜ使われないのだろうか。

ハードルは世間体と「家の中を見せたくない」

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散らかった部屋を、家事代行業者にも、見せたくないという話は、日本人では珍しくない。

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日本人にとって、家事代行を使う上での最大ハードルは「世間体」とも言えるかもしれない。

上記調査で使わない理由としては、「他人に家の中に入られることに抵抗があるため」が47%でトップ。「所得に対して価格が高いと思われるため」という理由も45%にのぼる。

ある専業主婦の女性は、「母の日とかで家事代行サービスを使える権利をプレゼントしてもらえたらすごく嬉しい。けど、自分でやれるのに……と思うと、自分でお金払っては頼めない」と話す。では金額の問題かというと、「それもあるかもしれないけど、本音を言うと家事代行の人が家に出入りしているのを近所の人に見られたくない。自分でできるのに、サボってると思われそうだからですかね……」という。

家事代行の人に家の中を見せたくない、プライベートを知られたくないという気持ちもある。日本人はだらしないところをメイドに見せたくないという心理は、現在私が住んでいるシンガポールで、「日本人は『あら、今日はメイドが来るから片付けなくちゃ』と言う」というジョークにもなっている。

ある3児の母親は、3人目の出産で里帰り出産した際、夫を残した自宅のために、自治体の子育て支援券で掃除・洗濯などの家事代行を依頼した。さぞ夫の洗濯物がたまっていたのではと代行業者の担当者に聞くと、「行くと旦那様は自分でされていた」とのこと。夫は「散らかっていると恥ずかしいから」と妻に説明したという。

現在シンガポール在住で、日本では共働きで2児の子育てをしてきた女性は、日本で産後に数回家事代行を使ったことがあったという。しかし、満足のいく内容ではなかったこともあり、継続的には利用してこなかった。シンガポールに駐在してからはフィリピン人のメイドを雇っているが、「言語が違うと、家族の会話が筒抜けにならないからハードルが下がった」と話す。

広がるCtoC家事代行ビジネス

とはいえ、ここにきてじわじわと家事代行は伸びを見せている。

矢野経済研究所によると、国内の家事支援(家事代行)サービス市場規模は、利用者の支払金額ベースで2015年度は前年度比4.0%増の853億円、2016年度は同3.0%増の879億円だったという。同社は今後も伸びを予想しており、むしろ担い手側の人材不足が大きな課題と分析している。

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この伸びの背景には、もちろん共働き世帯の増加がある。しかし、それだけではない。家事代行の担い手側の多様化も進んでいるのだ。

家事代行は、ダスキンが掃除を中心に1989年に「メリーメイド」サービスを開始。家事代行専業ではベアーズが1999年に設立されるなど、ビジネスとしては20年、30年の歴史がある。

そこに、近年参入してきたのがシェアリングエコノミーだ。家事代行はタスカジやANYTIMESなどが、CtoCで家事・育児をしてくれる人としてほしい人のマッチングプラットフォームを手掛けている。

家事代行サービスの相関図

それまでの業者は家事の担い手を研修などで教育し、質を一定水準に保証していた。となると、利用料は1時間3000円近くかかるうえ、特定のヘルパーを指名することが難しいケースもあった。家庭の側からすれば家事を担う人が変わると、細かい「ここはこうしてほしい」という要望を毎回伝えないといけない。

クレーム対応や担当者の変更は本社スタッフが応じる仕組みで、会社により厳密に管理されているところが安心である半面、かえって使いにくさを覚える人もいただろう。「時間があったら、ついでにこれもお願い」と言おうものなら、「追加料金はいくらになります」「本社を通してください」といった杓子定規な対応に遭遇することも多く、利用者側からすれば融通が利かない。そのような面倒くささも手伝い、導入はしてみても、継続的に家事代行を使いこなせなかった家庭も多いだろう。

これに対し、マッチングプラットフォームは、お互いに依頼と承認を個人ベースでできる。通常、過去の利用者の評価を見ることもでき、価格も1500円から2500円程度まで幅がある。身分証確認や審査などはしているものの、逐一本社スタッフが間に入らないので、その分の人件費が上乗せされないメリットがある。

もちろん、いくらレビューが見られるからと言って相性のいい相手に巡り合えるかという問題は残るし、不満足な結果になった場合に自己責任という側面はある。ただ、私はこのCtoCの枠組みの中で、特に働き手とお願いする側の家庭で、対等感やリスペクトがでてくると、日本の家事代行は大きく変わっていくのではないかと考えている。

1番のニーズは料理の作り置き

日本食

家事代行でニーズが高いの掃除や料理の作り置き、整理整頓などだという。

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2014年にサービスを開始し、日経DUALのユーザー調査で「家事代行サービス企業ランキング2017」の1位になったタスカジ。売り上げが前年の2.6倍に成長しているという同社の和田幸子社長は、シェアリングエコノミーゆえの利用者増のポイントを「対等感」だと考える。

「日本人は、狭い家の中で上下関係を持ち込むのに抵抗感もあって、雇うほどお金持ちじゃないし……という感覚が強かった。でも、シェアリングエコノミーは対等な関係で、両方が断る権利を持っている。そういう中で、家事にも得意不得意があって、適材適所で自分ができないことはお金を払ってやってもらおうという人が増えてきたのでは」

こうしたニーズに合わせて、タスカジでは元シェフだった人や栄養士の資格がある人、家庭料理が上手な人など、個性や特技を生かした仕事をしてもらっている。家事代行の担い手=タスカジさんには、専門スキルを磨いてもらい、中には料理や整理整頓の本なども出版する事例も。「伝説の家政婦」などとしてメディアにも取り上げられるようになった。

和田さんは「今は掃除、料理の作り置き、整理収納の順にオーダーが多い」という。料理の作り置きというのは、週1~月1回程度、タスカジさんに食材を買ってきてもらったり冷蔵庫にあるものを使ってもらったりして、1週間分程度の冷蔵庫や冷凍庫で保存できるおかずを作りに来てもらうこと。

多くの働く親にとっては、平日に仕事を終え、子どもを迎えに行って帰ってきたあとに夕食を作り、食べさせ、お風呂に入れ、寝かせる……という夕方の時間帯が一番忙しい。ここをタスカジさんに助けてもらおうというわけだ。

働き手にとっての「家事のプロ」ブランド

子供をだく女性。

家事をアウトソースして、空いた時間を子どもと過ごす時間に当てることもできる。

撮影:今村拓馬

実はこれは働き手側にとっても非常に大きい変化だ。日米などの歴史を振り返れば、「女中」文化は他の工場労働などに労働者が流れることで廃れてきた側面がある。矢野経済研究所も指摘するように、人材確保がこの市場の伸び率のカギとなるわけだが、そこに対等感やリスペクトが生まれれば、働き手も増える可能性がある。

実際に、タスカジが「プロの家政婦」といった打ち出し方をはじめた背景には、人材確保がある。和田さんは「ハウスキーパー側を募集するときに、需要が増える中でなりたいと思う供給側を増やすには、家政婦さんのイメージを変えて、職業としてのブランドを上げていく必要がありました」と語る。

お願いする側も、「家政婦さん」というよりは「プロ」に頼む感覚で仕事を頼む。整理整頓を教えてもらう。いつもよりも美味しい食事を味わう。それに対して、場合によっては自分自身の時給よりも高い金額を払う。プロの主婦が、自分の家で無償労働をしていたことに、価値が生まれ、有償労働になる。こうした循環が、いまようやく生まれつつあるのではないだろうか。

中野円佳(なかの・まどか):1984年生まれ。東京大学を卒業後、日本経済新聞社に入社。育休中に通った立命館大学大学院時代の修士論文をもとに2014年9月『「育休世代」のジレンマ』を出版。厚生労働省「働き方の未来2035懇談会」委員などを務める。2017年4月よりシンガポール在住フリーランスで、東京大学大学院博士課程在籍。東大ママ門、海外×キャリア×ママサロンなどを立ち上げる。2児の母。

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