入社初日にレズビアンであることを告白した、室長。続いて入社した従業員も、カミングアウト。“女性”の格好をして、出社するようになった。2人が職場でカミングアウトをした理由とは —— 。
そもそも、いつ、2人は自分の性や恋愛に違和感を持ち、今に至ったのか。
左から、freeeの吉村美音さんと、ローラ・ウェイクフィールドさん。2人は入社直後にカミングアウトした。
社内で総務を担当する、ローラ・ウェイクフィールドさん(33)。ローラさんは男性の身体に生まれたが、心は女性。2017年4月に女性ホルモンの注射を始めて、1年半が経つ。
ローラさんが、結婚をしてから、自分の性に違和感が募った。ローラさんは、2014年に女性のパートナーと結婚。
ローラさんは以前から、女性を見ると、「私も、ああなりたいな」という気持ちを抱いていた。結婚をした時は、「自分はまだ男性」と思っていた。一方で、違和感を感じて悩んでいた部分も。「しかし、この段階でどうしようもない。悩みを置いといて、大好きな人と結婚することが一番幸せな選択肢だ」と思っていた。
ローラさんは、物腰が柔らか。吉村さんと話をしていると、気の合うことがあるようだ。
しかし、結婚生活を続けるうちに、違和感は募るばかり。自分の感覚を確かめたく、ネットでLGBTの情報を調べた。日本語の情報は乏しかった。ローラさんは、アマゾンで海外のLGBTに関する本を「すべて」購入し、読みあさった。
「これまで無理をして生きてきたけど、これは、あまりにも無視できない気持ちだ」
女性ホルモンの治療を考えるようになった。
「今、本当の自分にならないと、このままずっと男性になりそう」
パートナーと子どもを作って、「子どもが10代になってから」と治療を遅らせることも考えた。ただ、もう待てなかった。
2016年4月ごろ、パートナーに気持ちを告白。1年間かけて、話し合い、籍を抜いた。パートナーとは家族のような仲間、離婚をしても、今も一緒に暮らしている。
「来週から女性として出社します」
ローラさんのカミングアウトは2018年3月の入社直後。スカートを履いて出社したのは、5カ月後の8月ごろ。
ローラさんが職場でカミングアウトをしたのは、2018年3月。freeeに転職して、すぐにオープンにした。自身がスカートを履いた姿を社内のSNSに投稿すると、230以上の「いいね!」が集まった。
トイレは女性用を使い、「女性として生活をしている」感覚だ。社外では、多目的トイレやコンビニのトイレを使い、他人からの視線が怖いこともあったが、社内は安心して過ごせる空間。「汗で化粧が崩れたら、どうしよう」。ローラさんの夏場の悩みに、女性社員から化粧のアドバイスを受けることもあった。
現在、ホルモン治療から、約1年半が経った。体が丸っぽくなり、肌の調子も変わった。髪型は坊主から、ショートヘアに。「今の状態で満足しています」と心の性別に体が追いついてきた。他人からの視線もあまり気にならなくなった。
「男と思われたとしても、何が問題なんだろう。自分は女性だと思っているからいい」
当事者になるまでは「ちょっと苦手な存在」
2017年12月にダイバーシティ推進室の室長になった吉村さん。自分がレズビアンと気付く前は、実は、LGBT当事者が苦手だった。
freeeのダイバーシティ推進室の吉村美音・室長(36)は、入社した当日、レズビアンであることを告白した。
吉村さんが恋愛対象として女性を意識するようになったのは、社会人1年目、22歳のころ。ある女友達に対し、ふと「触りたい」と思った。
「友人たちに抱く独占欲とは違う。(性的な)触りたい、好き、だ。恋愛感情なのか?」
そう思うと、「自分のことを気持ち悪い」と感じたという。
「気持ち悪い」という理由は、学生時代までは「そういう人の考えが理解できなかった」からだ。同じ学校や身近な場面で、レズビアンの人がいても、「ちょっと苦手だな」と思っていた。
22歳のころ、同じような気持ちを自分も抱き、「青天の霹靂とはこれか。こんなことあるんだ、と。アイデンティティが脅かされた瞬間でした」。自分が信じられなくなった。当初は、どこかで、自分の気持ちを否定したい思いもあった。
しかしその後、1人の女性からアプローチを受け、付き合うことに。「初めは人生経験と思っていましたが、その人と向き合ったら、私、ものすごく恋愛している。本来の姿で恋愛している」としっくりきた。そして、27歳くらいの時には、「結婚を考えると、この先、男性をパートナーとして生きていく人生が想像つかなかった」。その時、「レズビアンとして生きていこう」と意思を固めた。
「上司への罪悪感」
吉村さんは前職まで、職場にレズビアンであることを隠していた。女性と一緒に住んでいたが、上司には「彼氏がいる」と伝えていた。上司とは10年来の付き合い。「いつかは伝えよう」と思ってきた。しかし、吉村さんは「上司に嘘を付いてきた、という後ろめたい気持ちを“勝手に”持ってしまい」、言い出しにくかった。
freeeでカミングアウトをしようと思ったのは、チームや人のことを「あえて共有する」というfreeeの価値基準に共感したから。「カミングアウトした方が、こういう人がいる、と分かる」。
2016年1月にfreeeに転職した入社初日、社内の自己紹介のメールで、初めてカミングアウトした。
「大切な彼女と住んでいます」
丸1日熟考し、ついに送った自己紹介のメール。社内からは特段、「揶揄する人は誰もいなかった」。エレベーターホールでたまたま会った人に、「彼女さんと住んでいるんですか、いいですね」と聞かれるくらい。「温かい会社だな」と思ったという。
その後、吉村さんは2017年2月にダイバーシティ推進室を設立し、以下のような取り組みに着手した。
LGBT対策は、転職を左右する
最近では、企業のLGBT支援策が人材獲得にもつながると言われる。
2018年3月に転職したローラさんも、LGBT支援があるかどうかが、会社選びの重要な指標だった。
そこで、ローラさんが転職の際に頼ったのが、LGBT向けの求人サイト「ichoose」だった。別の転職エージェントにも相談に行ったが、担当者がLGBTの定義を知らず、「ここでは仕事を見つけられなさそう」とあきらめた。
LGBTの当事者は、求職時に困難に直面し、また職場での「無理解」から転職を決める。
JobRainbowの星賢人社長(24)も、ゲイであることを理由に就活の面接で“差別”を受け、それを機に起業している。
「新卒の時の就活の面接で、ゲイであることをカミングアウトしたら、精神的な病気だと思われてしまい、嫌がられた」(星さん)。LGBTサークルの仲間も、「トランスジェンダーの先輩は、面接で帰されたこともあった。就活で嫌なことを言われる以前に、就活に怯え、サークルの仲間の多くがフリーターになった」 という。
星さんは2016年に起業。ichooseの求人掲載数を徐々に伸ばし、今は毎週のように全国の企業研修に呼ばれる。「LGBTフレンドリーな会社は、非当事者の採用にもつながる。『ここなら、男女関係なく活躍できる』と、女性の採用が増えた企業もある。決してLGBTの当事者だけの問題ではない」と話した。
(文、撮影・木許はるみ)