ポケモンGOとイングレスは“ゲーム中毒を治すためのゲーム” ── Niantic CEOが明かすARとゲームの未来

Pokémon GO AR庭園

ナイアンティックが六本木ヒルズにて森ビルと共同で開催する企画展のコンテンツの一つ『Pokémon GO AR庭園』。

米Niantic(ナイアンティック)は、位置ゲーム・AR(拡張現実)ゲームのトップ企業だ。「ポケモンGO」と「イングレス」のプレイヤー数は他のゲームを圧倒しており、一人勝ちの様相を呈している。

同社は10月12日から21日まで、六本木ヒルズにて森ビルと共同で企画展「INNOVATION TOKYO 2018 – AR PLAY GROUND WITH NIANTIC」を開催し、「未来のAR」の姿も提示している。

企画展の開催に合わせて同社の創設者でCEOのジョン・ハンケ氏と、同社のキーパーソンが集まり、都内で記者向けに説明会が開かれた。NianticがイングレスやポケモンGOで目指したのはなにか? そして、ARの今後をどう考えているのか? 彼らの言葉から探ってみよう。

「見えないものを見つける」楽しみをゲームで実現

Nianticのジョン・ハンケCEO

Nianticのジョン・ハンケCEO。

「一言でいえば、ゲーム中毒だった自分の子供を、どうやったらソファーから動かすことができるのか、ということだった」

ハンケ氏は、位置情報を使ったゲームを開発した理由をそう説明する。新しいテクノロジーは、その未熟さゆえ、時に建設的でないもの、とみなされることが多い。IT技術もそうだ。

ハンケ氏はそうした考えのもと、グーグルで「Googleマップ」などの位置情報を活用したサービスの開発を進めていた。結果として我々は、海外に旅行してもスマホさえあれば迷わない、という生活を実現できた。とはいうものの、ハンケ氏がNianticで目指した事は、少し違っていた。

ハンケ氏「やりたかったのは、人と人が顔を合わせる、昔ながらのコミュニケーションの再構築だった」

そこで着目したのは、「世界のどの場所にも、隠されたストーリーがある」ということだった。

ハンケ氏「六本木ヒルズのある場所で、過去になにが起きただろう? ネットがあれば今は簡単に探せるようになった。だが、旅行中に瞬時に探すことはできない。そこで最初は、『この場所に関わる情報を伝え、多くの人に知ってもらうこと』からスタートした」

Nianticという社名は、サンフランシスコ湾に放置され、その後市内に埋もれていた捕鯨船・Niantic号に由来する。「見えないものを見つけてもらう」ことの象徴として付けられた名前だ。

イングレスの現状

6周年を迎えるイングレスは、ゲームの大型アップデートを予定。テレビアニメの放送も開始している。

まず「Field Trip」というアプリを作ったハンケ氏は、その後、知識を伝えることを「ゲーム」にすることを思いつく。結果生まれたのが、イングレスでありポケモンGOだ。イングレスは2018年11月にサービス開始6周年を迎え、10月17日からテレビアニメもフジテレビ系列で放送中だ。「現実には見えないがスマホの画面からは見える」というゲームは成功し、Nianticの狙いも浸透したように思える。

ゲームにフォーカスして「現実に情報を重ねる」ARを開発

Harry Potter : Wizards Unite

ナイアンティックが今後リリースを予定している新作「Harry Potter : Wizards Unite」。

出典:Niantic

Nianticはこれからどのようなものを作っていくのだろうか?イングレスは大型アップデートにあたる「Ingress Prime」のスタートを控えており、「6周年を迎える来月にはアナウンスしたい」(ハンケ氏)としている。

さらに2019年には、ハリー・ポッターを題材とした「Harry Potter : Wizards Unite」のローンチが発表済みだ。大量の人が同じ場所に集まった時の対処や、数十万・数百万という人々が一斉にプレイすることにも耐えられる仕組みは「弊社にしかない」(ハンケ氏)と胸を張る。

では、長期的にどのようなビジョンを持っているのか? その一つが、AR技術そのものの進化だ。

イングレスやポケモンGOは、地図を使い、「そこにないものを表示する」ようなゲームだったが、ビジュアル面で「現実にネットの世界を重ねる」という意味ではシンプルなものだった。現在同社が進めているのは、より幅広い意味で「現実に情報を重ねる」技術の開発だ。

ハンケ氏は、「現在のスマートフォンは、狭い鍵穴から世界をのぞいているようなもの」と例える。5インチ大の画面からネットの世界を見ても、得られる情報は限定的だ。だが、我々は本来もっと広い視界を持っている。

「現実の世界に情報を重ねるARの世界は、よりナチュラルな姿。非常に大きな可能性がある」(ハンケ氏)と期待を寄せる。

そのため、6月にはARのための技術である「リアルワールド・プラットフォーム」を発表し、イギリスの関連ベンチャーであるMatrix Mill社の買収も発表している。

リアルワールド・プラットフォーム

Nianticが開発中のARプラットフォーム技術「リアルワールド・プラットフォーム」。今後の同社のゲームに使われる他、他社への技術提供も検討されている。

「リアルワールド・プラットフォーム」のイメージ映像。

Nianticとして今後、ARをどのように活用していくか聞くと、ハンケ氏は「まずはゲームにフォーカスしたい」と話す。

ハンケ氏「テクノロジーが初期の段階では、ゲームは(テクノロジーの)開発を加速する上でとても良い題材だ。CGの世界において、アタリや任天堂がどのような役割を果たしたかを考えればわかると思う。ARも技術の初期段階なので、似たような形になるだろう」

その上で、ARの市場状況について、次のような見解も示す。

ハンケ氏「多くの企業がARを手がけているが、ゲーム以外では、なかなか継続的な収益を上げる状況になっていない。弊社がゲーム以外のプランを持っていないのも、単純にそれが理由だ」

六本木ヒルズで「ARの現在地」を示す

Niantic・アジア統括本部長の川島優志氏

Niantic・アジア統括本部長の川島優志氏。

六本木ヒルズで開催している「INNOVATION TOKYO 2018 – AR PLAY GROUND WITH NIANTIC」は、そのビジョンを示す場だ。

アクティビティーの多くは、ライゾマティクスやソフトバンク、ティーアンドエスといった企業と協力して作られたもので、使われている技術はNianticが現在開発中のものと同じではない。だが、実現したい世界を今の技術で再現することを狙っている。

イングレスとポケモンGOという「ゲーム」で成功したことは、彼らに大きな自信と可能性を与えた、ということなのだろう。

ハンケ氏「我々の技術もビジョンも完璧なものではない。だが、ポケモンGOの成功により、やりたいことを多くの人々に理解してもらうことが出来たし、投資を進めることもできた。六本木でのイベントは、未来を垣間見るものだ」

同社・アジア統括本部長の川島優志氏は、イベントの狙いを次のように説明している。

「例えば『Pokémon GO AR庭園』は、普段なら意外とすぐに通り過ぎてしまう毛利庭園という場所を、じっくりと歩いて、再発見してもらうことを考えて作りました。ポケモンの気配を知ろうと耳を澄ませると、実際の虫の鳴き声や風の音が聞こえます。『AR Roppongi x Ingress』では、なかなか生で見る機会のない、森ビル制作の東京都市模型の上に、Ingressのエージェント(プレイヤー)の動きをタイムラプスで重ねています。彼らがこんな風に遊んでいるんだ、ということが可視化できるはずです」

Pokémon GO AR庭園

外の音も聞こえるヘッドホン「ambie」をつけ、集音器を模した機器を付けたスマホをもって六本木・毛利庭園の中を歩き、音を頼りにポケモンを見つけ出す。現実の音とポケモンの鳴き声が混在して聞こえる体験が新鮮。

AR Roppongi x Ingress

「AR Roppongi x Ingress」。イングレスの実際の一週間のプレイデータを、1000分の1で再現された東京都市模型の上にプロジェクション・マッピング。現実の世界をプレイヤーがどう歩いて「戦った」かが可視化できる。

初展示の新たなARゲーム「Project NEON」

そして、10月17日から展示されているのが、「Project NEON」という対戦ゲームだ。これは「リアルワールド・プラットフォーム」を作って作られており、スマホの画面越しに、多数の人と同時にプレイするシューティングゲームになっている。

同じ空間を実際にそれぞれのスマホを通して共有し、打ち合う。「リアルワールド・プラットフォーム」のデモとして映像は公開されているが、実際にNiantic社外の人が楽しめる機会はこれが初めてのことになる。

Project NEON

リアルワールド・プラットフォームを使って作られた「Project NEON」

Project NEON

そこにいる人々と実際に「拡張現実空間」の中で戦う。一般公開されるのは、これが世界初。

Nianticは「リアルワールド・プラットフォーム」を、将来的には他社にプラットフォームとして公開し、広く使ってもらうことを考えている。ただし、現状はまだその状況にはなく、少数のパートナーと開発を進める初期段階だ。

Niantic 河合敬一氏

Niantic・プロダクトマネジメントディレクターの河合敬一氏。

同社・プロダクトマネジメントディレクターの河合敬一氏は、「リアルワールド・プラットフォーム」の開発状況について次のようにコメントしている。

河合氏「はじまったばかりで、明確なロードマップを示せるようなものではありません。しかし、ARにも色々な形があります。

ガラス(スマホ)の向こうに映像がある、という目に見るものを想像しますが、耳で聞く『音のAR』もあり得ます。

ここにないものをあるように感じてもらえる、それを大勢で一緒に見てもらい、感じてもらえるものをどう作るかが重要になります」

そして、ハンケ氏は現状を次のように捉えている。

ハンケ氏「ARは、100m走でいえばまだ始まったばかり。ようやく15mまで来たところ。Project NEONは“現在地点”を示すものだ。だが、ARが普及を約束された技術であるのは疑いない

(文、撮影・西田宗千佳)


西田宗千佳:フリージャーナリスト。得意ジャンルはパソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主な著書に『ポケモンGOは終わらない』『ソニー復興の劇薬』『ネットフリックスの時代』『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』など 。

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