10代女子が1日40人中絶する現実にも、アフターピルが広まらない理由

女性

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妊娠を回避するために、女性が性交後に服用する飲み薬「アフターピル」(緊急避妊薬)。世界保健機関(WHO)は、アフターピルを服用できない医学上の病態はなく、服用できない年齢もないという見解を示している。

だが、日本で初めて承認・販売されたのは、2011年のことだ。現時点でも病院を受診して医師の処方箋をもらわなければ買うことができない。OTC医薬品(薬局やドラッグストアなどで購入できる、一般用医薬品)として、認められていないからだ。

一方、アメリカやEUに加盟する20カ国以上では一般用医薬品として薬局で買える。

噂になることを恐れ受診できない

こんな国内事情から、アフターピルのオンライン診療に踏み切る医療機関が出始めている

その一つが、都内の新宿駅に直結するビルで開業している「ナビタスクリニック新宿」(医療法人社団・鉄医会)。2018年9月からアフターピルをオンライン診療のみで処方する窓口を開設したところ、初日から利用や問い合わせが相次いだ。それから1カ月余り、「すでに数十件の利用実績があります」と同院理事長で内科医の久住英二さん。

「日本ではアフターピルを処方していない産婦人科も多いし、地方の小さい町だと、その町に1軒しかない産婦人科を受診したら、すぐに噂になることを恐れて受診できないといった声も聞きます。海外では薬局で買える市販薬で、安全性は問題にはならない望まぬ妊娠を避けるためにも、オンライン診療で対面診療のハードルを下げ、薬を手に入れやすくすることが大事だと考えました」 (久住さん)

オンライン診療は「次善の策」

アフターピル

久住さんが個人輸入して処方している『エラ錠』は、服薬の効果があるのは性交後5日(120時間)以内。国内で承認されている『ノルレボ錠』の場合は3日(72時間)以内だ(写真はイメージです)。

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オンライン診療とは、スマートフォンやパソコンを通じオンライン上で医師の診察を受ける医療。これまで、原則医師との対面診療しか認められていなかったのだが、2018年4月からオンライン診療が保険適用となった。

ただし、ガイドラインには「原則として初診は対面診療で」「その後も同一の医師による対面診療を適切に組み合わせて行う」と記載され、厚生労働省はさまざまな規制をかけている。まだ、ゆっくりソロソロと動き出した試運転のような段階なのだ。

関連記事:保険適用で真価問われる「オンライン診療」—— スマホで医師とつながれば何が変わるのか

ただし例外として、患者がすぐに適切な医療を受けられない場合などに限っては、対面による初診を省くことを認めている。アフターピルについてこの「例外」が認められるか厚労省に問い合わせたところ、「やはり初診は対面診療が原則。不適切な事例の可能性がある」との回答だった。

久住さんは、こう指摘する。

『緊急』避妊薬なんですから、処方にあたり重視すべきなのは迅速性です。初診の人にもすぐに薬を届けられなければ意味がない。私が本当にやりたいのは、一般の薬局でこの薬を入手しやすくすること。今はそれができないから、次善の策としてオンライン診療という選択をしている」

市販化を望む声は9割

これまでにも、性暴力の被害者を支援する団体などからアフターピルの市販化を求める声が高まっていた。にもかかわらず、日本ではなぜ市販化が見送られたのか?

2017年には医師や薬剤師らで構成する厚労省の検討会が会議を重ね、市販化を議論した。

だが、日本産科婦人科学会などから選出された検討委員のメンバーは、「薬局で薬剤師が説明するのが困難」「安易な使用が広がる」などと反対意見を表明し、市販化は見送られた。その後、厚労省がパブリックコメントを募集したところ、市販化に賛成する意見が348件のうち320件で9割を超えていた。反対意見は28件だった。

宋美玄さん

宋美玄さんは「産みたい時に産む、ではダメなんですか」と問題提起する。

宋さん提供

東京・丸の内でクリニックを開業する産婦人科医の宋美玄(そん・みひょん)さんは、女性の「リプロダクティブ・ヘルス・ライツ(性と生殖に関する健康・権利)」の観点からこう話す。

「先進国の日本でアフターピルが市販化されていないなんて、情けないですよ。コンドームは普通に薬局やコンビニで買えるのに。OTC化(一般医薬品化)が蹴られた時も、『認めたら、女性がふしだらになる』といった論調で語る人がいたけれど、要は、バースコントロールでしょう? 女性が産みたい時に産む、じゃダメなんですか?と言いたい」

宋さんは、こうも指摘する。

「そもそも女性が主体的に選択できる避妊の方法が、日本では限られているんです。本来、低用量ピル(低用量経口避妊薬)を飲めば、簡単かつ安全に生理予定日をコントロールできる。日本人の約8割が避妊法として選ぶコンドームの失敗率は3%から14%なのに対し、低用量ピルは正しく飲めば避妊の失敗率は0.1%。それなのに、日本での認可は1999年とアメリカよりも40年遅れ、やっと保険が認可されても薬価をかなり高く設定されて、いまだに使いづらい状態のままです」

妊娠したら体良く自主退学

女性が主体的に選択できる避妊法にアクセスしづらい環境は、どんな影響をもたらすのか?

文部科学省副大臣政務秘書官を務めた後、全日制・通信制高校の校長として「10代の性」 の現実と向き合った経験がある鈴木朝雄さんは、性交渉の低年齢化とともに、10代の人工妊娠中絶を増やす結果につながる懸念もあると見ている。

「日本の性教育の問題を考えないと。日本では『性行為、性交、セックス』なんて言葉はご法度だと、表面的な話しかしない学校がほとんど。避妊の方法は一応、コンドームを見せるだけ。あとはうやむやにして教えない。正しい性教育をしないでおいて、10代の女の子たちが毎日40人も人工妊娠中絶手術を受けている現実があるんです」

厚労省の「衛生行政報告例の概要」によると、平成28(2016)年度の人工妊娠中絶の実施数は、年間で16万8015件。そのうち、10代の中絶は1割近い、1万4666人に上る。1日に換算すると約42件にも及ぶ。

女子高校生

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「私は、中絶はできればしない方がいいと思っています。今や高校生になると、性経験のある人の割合は女子は4人に1人。男子は7人に1人という現実がある中、日本の学校の多くは、女子高生が妊娠したら単位不足だとか本人の都合だとか理由をつけて、体良く自主退学へと仕向ける。それって、公然のマタハラですよ」(鈴木さん)

鈴木さんによると、お金のない10代の子はネットで法外な値段で出回る偽物のアフターピルや中絶費用を稼ぐために援助交際をしていた事例もあるという。であれば、妊娠しない仕組みや手段を、彼ら彼女らに広めることが先決だ。

「アフターピルは、避妊に失敗したり性暴力の被害を受けたりした緊急時に望まない妊娠を高い割合で防ぐことができるからこそ、正しい知識を伝えるとともに、ネットを通して医師より入手しやすくしてもらえたら、中絶も減るはずです」

避妊方法の選択の仕方について、産科医の宋さんはこうアドバイスする。

「セックスに安全日はないんです。コンドームも適切に使用しても失敗する可能性はある。いざという時はあるわけで、アフターピルという手段があることは知っておいてほしい。だからといって、コンドームはつけなくていいわけじゃない。性行為によるHIV感染や、クラミジア・淋菌感染症などの性感染症を防ぐには、コンドームが有効ですから」

さらに、妊娠回避の「最後の手段」と言われるアフターピルも妊娠阻止率は100%ではないという。

「夫婦間など定期的にセックスをするパートナーがいる人には、避妊効果の高い低用量ピルを適切に使うことをお勧めします」(宋さん)

(文・古川雅子)

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