シャープ石田副社長に聞く、苦境の「東芝PC事業」買収の理由 ── 1500億円の売り上げと技術の価値とは

シャープブースに展示された「ダイナブック」

シャープブースに展示されたノートPC「ダイナブック」。東芝ブランドとして知られるシリーズが、シャープのブースに置かれるこの光景は、メーカー再編を象徴するような展示だった。

撮影:西田宗千佳

国産メーカーの「PCブランド」再編はこれで一息つくのだろうか?

10月1日、シャープは東芝のPC部門である東芝クライアントソリューション(TCS)の株式80.1パーセントを約40億円で取得、子会社化した。

東芝(TCS)はPCの老舗として長い歴史を持ち、「ダイナブック」ブランドを約30年にわたって続けてきた。それを傘下に納めたシャープは、2010年にいったんはPC事業から撤退した企業だ。TCSの子会社化によって、シャープはPC事業への再参入を果たしたことになる。

シャープはなぜTCSを買収したのか?そして、シャープの中でどのようなPCビジネスをやろうとしているのだろうか?

10月16日から19日まで、千葉市・幕張メッセで開催された展示会「CEATEC JAPAN 2018」の会場にて、買収後のTCSの会長に就任する、シャープの石田佳久副社長が単独インタビューに答えた。

東芝CS買収の狙いの1つは「1500億円の巨大な売り上げ」

シャープ石田佳久副社長

シャープ 副社長執行役員で、AIoT戦略推進室長 兼 欧州代表の石田佳久副社長。

撮影:西田宗千佳

「今どき何でPC事業を買収したのか、とよく聞かれます。確かに、儲かりづらいビジネスですからね」

と語る石田副社長。PC事業の収益性の厳しさを、彼はよく知っている。何しろ、石田氏はソニー時代にVAIOの事業責任者を務めた人物だ。鴻海との間でVAIOの生産について交渉を進めた経験もある。

PCは売れ行きが下がり、価格競争の激化で利益率も低い。出荷台数がものを言うビジネスなので、日本国内だけで利益を確保するのは大変だ。だからこそ、TCSを含むPC関連メーカーには再編の嵐が吹き荒れたのだが、業界では「シャープが手を挙げたことは意外」との声も聞かれる。

「具体的なシナジーはこれから考える」

と石田氏は笑う。しかし、すぐにでも活かせるメリットがあると判断したから買収に動いた、というのが実際のところだ。

新生「東芝クライアントソリューション」が事業開始

東芝クライアントソリューションの10月1日付のお知らせより。

Business Insider Japan

まずは「PC関連の開発リソース」の獲得だ。

「シャープには、家電やIoTの開発力はありますが、PCから撤退しているので、PC系の開発リソースが社内に少なくなっています。モバイルはもちろんですが、据え置きも含め、PCのリソースを使ってIoTを広げていけます。8Kの編集などにも結局PCは必要ですし」

そしてもう一つ、忘れられがちな点を指摘する。

「社としての売り上げを大きくするという意味では、TCSの売り上げがプラスされることは純粋に大きな価値があります。PC市場全体で3.5兆円、TCSの売り上げが年間1500億円ありますので」

TCSは、弱くなったとはいえPC大手の一角であることに変わりはない。しかも、その大半を企業顧客が占める。堅実にビジネスをしていくならば、十分に収益は見込める。問題なのは、事業効率の改善だ。

「業務改善などはもちろん行っていますが、シャープとTCSの間では、デバイスでのシナジーもあります。液晶パネルにカメラモジュール、各種センサーなど、PCにすぐにでも使えるデバイスを持っているので、それらを活かすことでプラスになる」との考えだ。

すぐには儲からない、と分かりながら買収した理由

CEATEC2018のシャープブース

「CEATEC JAPAN 2018」に出展したシャープのブース。

撮影:小林優多郎

とは言うものの、PC事業がすぐに儲かるビジネスである、という認識は石田副社長にもない。

PC、特にコンシューマ市場は厳しい。PC市場に、単純にPCだけを武器に入っていっても、そうそう勝てるものではありません。特に海外については、ブランド認知が高い企業が多数ある。そこで『シャープだから勝てるか』と言われたら、そんなことはない。明確な“何か”がすでに見つかっているのか、と問われると、見つかっているわけではないです」

一方で、次のような市場認識も示す。

「過去、コンシューマPC市場は小売りの強い業態でした。しかし今は、PCメーカーが減った結果、PCメーカー側の言うことを聞かざるを得なくなっている。そこで良い関係を築く糸口ができるのでは」

量販店の東芝のdynabookのバナー

量販店の東芝のdynabookのバナー

Business Insider Japan

TCSを傘下に入れたものの、日本国内としてのTCSのPCブランド「ダイナブック」はそのまま維持する方針が示されている。ただし、ダイナブックブランドが使える・通じるのは日本だけだ。海外はまた別の形となる。東南アジアのASEAN諸国では「シャープ」のブランド力が非常に強いため、「あえてTCSのPCを、シャープブランドで売ることもあり得るのでは」と石田副社長は言う。

TCSの目先のビジネスとしては、日本のB2BとB2C市場です。ここは絶対なくさないし、いける領域だと考えています」

現在、TCSの人員はシャープに合流し、今後の具体的な事業計画を検討している最中だ。

CEATECでは「シャープのダイナブック」がブランドとしてお披露目になったが、TCSのビジネスプラン公開はもう少し先で「11月から12月」(石田副社長)になるという。あらためて会見が開かれ、外部に「新生TCS」の姿が示されることになる。

「TCSのスタッフと会議をしていますが、まだ彼らからは“PC”のことしか出てきません。長年PCのビジネスをやっていたので、発想がそこから出ていかないんです。PC単体が厳しいことは事実です。(しかし)シャープの他の商品やサービスとの組み合わせを考えれば、もっと色々な付加価値があり得ます。例えば、サイネージの管理も結局はPCですし。具体的なアイデアは、もう少しお待ちいただければと思います」

(文・西田宗千佳)


西田宗千佳:フリージャーナリスト。得意ジャンルはパソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主な著書に『ポケモンGOは終わらない』『ソニー復興の劇薬』『ネットフリックスの時代』『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』など 。

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